Apple WWDC 2012キーノート現地レポート。Retinaディスプレイを搭載したMacBook Proや、iOS 6でさらに進化したSiriなど、注目の内容を紹介する
著者からのメッセージ
この記事は、メールマガジン『メディアの現場』からの寄稿記事です。『メディアの現場』は、マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートするメールマガジンです。WWDCレポートについても、当記事の著者のマサヒコが違った視点から記事を執筆予定ですので、ぜひチェックしてみて下さい。http://www.neo-logue.com/mailmag/
2012年6月11日 (米国時間) 、米国サンフランシスコのモスコーンセンターで毎年恒例のApple World Wide Developer Conference(WWDC)が始まった。
初日の朝、会場近辺にはキーノート・スピーチに参加する開発者の長い行列ができた。昨年、前CEOであったSteve Jobs (スティーブ・ジョブズ) 氏が死去し、今後の製品開発の先行きに不安の声が挙がった米アップルだったが、WWDCに並ぶ行列は例年通りで、会場内の熱気もいつも通り。多くの人が徹夜で開場を待った。
前日から当日の天気は快晴。気温も高く、行列を作って夜を明かした開発者やメディア関係者はリラックスした様子で、コーヒーやスナックと共に製品宣伝のためのチラシを配るiOS/Mac OS Xソフトウェア関連の企業スタッフや、音楽を演奏するバンドなどを眺めて時間を過ごした。
開幕のあいさつに登場した現CEOのTim Cook(ティム・クック)氏は、今回のWWDCのチケットが2時間以内に売り切れたことをアピール。App Storeの状況をアップデートした後は、それぞれの担当役員がMacBook Air/MacBook Pro、Mac OS X Mountain Lion、そしてiOS 6を紹介した。
●MacBook Air
ステージには、Phil Schiller氏が登場。まずは、新型MacBook Airを紹介した。
新しいMacBook Airは、CPUにIntel製のIvy Bridge世代のCore i5/Core i7を搭載。より高速なグラフィック機能と、容量が大きく読み出しスピードが2倍以上になったSSDを利用できる。新型MacBook Airは、今回初めてUSB 3.0を搭載。従来のUSB 2.0に比べて、10倍以上の高速化を実現した。ディスプレイの解像度に変更はない。
この新型MacBook Airは、各ストアで即日発売される。
●MacBook Pro
次に発表されたのは、同じくIvy Bridge世代のCPUを搭載したMacBook Pro。こちらもMacBook Airと同様にグラフィックが強化され、60%の高速化が実現された。
大容量のSSD、USB 3.0も搭載して、即日発売される。
●Retinaディスプレイを搭載し、従来から大幅に薄くなった新型MacBook Pro
全体的に高速化されたMacBook AirとMacBook Proだったが、順当なアップデートで会場内も物足りない雰囲気。それを見透かしたかのように、スクリーンには黒いベールに包まれたノートPCの画像が映し出される。
そして発表されたのが「Next Generation MacBook Pro」。DVDドライブがなくなった替わりにMacBook Airと同様の薄さを実現し、最も軽量なMacBook Pro。そして目玉はなんといってもRetinaディスプレイの搭載だろう。15インチのディスプレイで2880x1800の解像度を実現。Schiller氏は、新型MacBook Proを「世界で最も高解像度のノートPC」、これまでのディスプレイを「レガシー」と呼んで、新しいMacBook Proのディスプレイの革新性を表現した。
新型MacBook Proでは、「メールアプリで読む文字がまるで印刷物のようだ」とし、続いて写真管理アプリApertureやPhotoShopがRetinaディスプレイに併せてアップデートすることを発表。精細な画像を扱うプロフェッショナルに、このMacBook Proが最適であることをアピールした。
新型MacBook Proは、同シリーズで初めてHDMIポートを搭載。薄型化を実現するため、電源ポートのMagSafeも変更される。FireWire 800とEthernetのポートはなくなるが、Thunderboltポートに接続するアダプタで対応する。また、Bluetooth 4.0も採用された。
続いて上映された新型MacBook ProのPRビデオでは、デザインリードのJonathan Ive氏が「すべてを見直し、ノートPCにとって必須のものは何かを考えた」と、外見から内部に至るデザインの変更を説明。内部のファンの形状を見直して、ファンの出す音をより快適なものに変更するなど細かい点での配慮がアピールされた。
この新型MacBook Proも、即日販売開始される。
●Mac OS X Mountain Lion
Mac OS X Lionによって、Macユーザーは5年前の3倍になったことが発表され、そのMac OS X Lionを引き継ぐ新しいOS、Mac OS X Mountain Lionが紹介された。
●iCloud
Mac OS X Lionで追加された「iCloud」は標準アプリケーションとの連携が進み、メール・アドレス帳・カレンダーがMac OS Xを搭載したMac、iOSを搭載したiPhone/iPadの間で同期される。
Documents in the Cloudによって、ワードプロセッサPagesで作成した書類が同じくMac/iPhone/iPadで共有される。
続いて始まったデモでは、iPhone/iPadと同様のジェスチャーでページめくりなどの動作を行われ、スプレッドシートアプリケーションNumbersにドラッグ&ドロップした書類が他のiPhone/iPadで同期される様子が紹介された。
●Notification Center
iOS 5から搭載された「Notification」も、Mac OS Xに登場した。画面右側に各アプリケーションからの通知がまとめられたパネルが追加された。このパネルは必要に応じて、トラックパッドのスワイプ動作などで表示/非表示を切り替えられる。また、プロジェクタをつないだ際に、自動的に表示がOFFになる機能が紹介されると、会場からは大きな笑いが起きた。
●Dictation
音声によるテキスト入力システム「Dictation」は、ワードプロセッサでの文書作成やFacebookへの投稿などテキストを入力するアプリで利用可能。
●Safari
Mac OS Xの標準ブラウザでであるSafariもアップデート。「Share」機能が追加されて、リンクや写真をTwitterやFlickrなどのWebサービスに簡単に投稿できる。また、「この惑星で最速のJavaScriptエンジン」という、高速化されたJavaScriptエンジンが搭載される。
続いて「Tab View」の紹介。iOSでもおなじみの、閲覧中のページを一覧できる機能がSafariに搭載される。Tab Viewでは現在開かれているすべてのタブが横一列に表示され、それぞれのページはアニメーションなどがリアルタイムに更新されていた。
●Power Nap
今回はじめて登場したのは「Power Nap」。 これは、Macがスリープしている間もiCloudのドキュメントの同期やシステムソフトウェアのアップデートが行われる機能だ。 Power Napは、第2世代以降のMacBook AirとRetinaディスプレイを搭載した新型MacBook Proで利用可能。
●AirPlay
iOSではおなじみの、無線LAN経由で映像をストリーミングする機能。Mac OS Xデバイスから、動作中のアプリケーションの画面をApple TVに送信できる。
●Game Center
こちらも、iOSではおなじみの機能。今回Game CenterがMac OS Xにも搭載されることで、iPhone/iPad/Macという異なるデバイス/プラットフォームの間で、ゲームの同時プレイなどの連携が行えるようになる。
●中国ユーザーへの対応
OSX Mountain Lionの紹介の最後に、中国語へのより進んだ対応が発表された。中国語の入力システムや、Safariの検索エンジンとしてBaiduが追加される。また、メールアプリケーションには中国で特に人気のメールサービスのサポートが追加される。
●発売時期
Mac OS X Mountain Lionは、従来のMac OS X Lionよりさらに安くなって$19.99で7月に発売。デベロッパには、「ほぼ完成に近い」バージョンが即日配布された。
●iOS 6
ここでScott Forstall氏が登場して、iOSの説明を開始。まずはiOS 5がすでに80%のユーザーに利用されているとして順調な浸透ぶりをアピール。比較として紹介されたAndroidのOSシェアパイチャートで、さまざまなバージョンのOSが使われていることと比較して、iOSのデベロッパーへの優位性を訴えた。
●Siri
iOS 5で搭載された、音声によるアシスタント機能「Siri」。これまでの天気を教える機能などに加えて、下記の数多くの情報がSiriを通じて取得できるようになった。
Siriからアプリケーションも起動できるようになった。これらの機能と併せて、車を運転中にiPhoneを操作する「Eyes Free」を実現。運転中におけるSiriを使ったiPhoneの操作を、多くの自動車メーカーが標準でサポートすると発表された。協力メーカーの中には、日本のトヨタとホンダの名前も。
また、Siriがサポートされる言語が追加され、特に韓国や中国などアジア圏のサポート追加が発表されると、会場の一部から大きな歓声が上がった。Siriを海外で利用することも可能になる。
●Facebook統合
iOS 5でOSに統合されたTwitterに続いて、Facebook認証がiOSに組み込まれた。シングルサインオンが実現され、一度認証を行うと、対応したアプリケーションから認証なしにFacebook機能が利用できる。アドレス帳とFacebook Contactsの同期、Siriを通じて音声での投稿も行える。
●電話関連機能のアップデート
「会社を出たとき」など特定のシチュエーションでリマインダーを表示できる「Remind Me」機能、条件を指定してかかってきた電話をブロックできる「Do Not Disturb」が紹介された。また、これまでWiFi経由でしか利用できなかった「Facetime」が、 携帯ネットワークのみでも利用可能になることが発表され、会場からは大きな拍手が起こった。
●Mobile Safari
アップデートされたMobile Safariでは、異なるデバイス間で開いたページをシェア、シームレスな閲覧ができるようになる。また、iOSデバイスからSafariを使ってWebサービスにアクセスした際に、App Storeにある専用アプリケーションを紹介する機能が搭載された。
●Shared Photo Stream
従来の、個々のユーザーIDに結び付けられたPhoto Streamに加えて、特定の写真を他のユーザーのPhoto Streamにシェアできるようになった。シェアされた写真にはコメントを返すこともできる。
●VIP
iOSのメールの新機能として「VIP」が追加。特定のユーザーからのメールを、SMSと同様のポップアップウィンドウに表示できる。
●Passbook
飛行機や映画、野球の試合などの各種チケット、スターバックスなどのスタンプカードを統合して管理できるiOSの新機能。飛行機のチケットでは、出発ゲートが途中で変わった際にiOSデバイスに通知され、チケットの中のゲート情報が自動で更新される様子がデモされた。スーパーのTARGETのロゴなどが表示されたが、サポートする店舗などの詳細は不明。
●Maps
地図アプリケーションも大幅にアップデート。従来のGoogle Mapsを利用したものから、新しいベクトルベースのレンダリングになっている。また、3D表示がサポートされ、スクリーン上でのピンチ操作でマップを回転できる様子などがデモされた。
行き先を指示すると曲がり角などで進む方向を教えてくれる「Turn by turm」も搭載され、iOSの地図機能がよりカーナビに近づく。
●終わりに
ステージに再び登場したCEOのTim Cook氏は、開発者たちが多くの素晴らしいアプリケーションを開発していることにあらためて感謝して、キーノートを締めくくった。
期待されていたiPhoneの新ハードの発表はなかったが、Retinaディスプレイを搭載してこれまでとは異なる次元に進んだMacBook Proや、iOS 5から好評のSiriの進化など、充実した内容の発表となった。
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