おばかの世界における下ネタの位置って? 下ネタ以外のおばかの可能性をイラストレータでありアートディレクタでありソラミミストの安齋肇さんに聞いた
8月4日に開催される「おばかアプリ選手権 2012 夏」を前に開催した「おばかアプリ選手権 2012 春 公開ブレスト」で、なぜだか多かった下ネタアプリ。そんな状況に会場でいち早くツッコミを入れたのが、ブレスターとして参加した安齋肇さんでした。
おばかの世界における下ネタの位置って? なぜみんな下ネタに行ってしまったのか? 下ネタ以外のおばかの可能性についてなど、イラストレータでありアートディレクタでありソラミミストの安齋肇さんに聞いてきました。
――「おばかアプリ選手権 2012 春 公開ブレスト」で安齋さんが、 プレゼンされたアプリに、“下ネタに関するものが多い”とツッコんでいたのが印象に残っています。
安齋 同じ下ネタでも、それぞれ下の具合は違ったから、それはそれでいいんですよ。だけど、おばかの範囲はとても広いのに、 どうして下ネタばかりなのか、ちょっと気になって。
――なぜ、そうなってしまったんでしょうか?
安齋 「公開ブレスト会議」っていう場所で「ちんちん」や「うんこ」の話をするのが面白いからね。それにおばかで人を傷付けないのは無邪気さがあるときでしょ? 小学校に上がる前、言葉を覚えたころの子どもは「うんこ」とか「おしっこ」とか「ちんちん」って言ってウケちゃう。それは文化的な背景は関係なく全世界共通で笑ってもらえる。だからみんなそれが共通語だと思っちゃったんだろうけど。下ネタだけに、かぶっちゃ駄目よ。
――「空耳アワー」でも下ネタは多いと思いますが……。
安齋 子どものころにさんざん言ってたから、どうしても空耳も下ネタに聞こえやすいんですよね。
でも、やっぱり、思い出し笑いができるほど、くだらないものがいいよね。下ネタは瞬間的にはアツくなれるけど、冷めやすいのが弱いところ。下ネタは「ちんこ、ちんこ」言い続けていくしかないんだよね。掘り下げると、どんどんひどい「ちんこ」になっていく。
おばかアプリ7箇条
――「おばか」ってあらためて考えると、どんなことなんでしょうね?
安齋 どんなことなんでしょうね。先日、浅草に行ったんですけど、お店にね、すごくキラキラした指からはみ出すくらい大きい指輪とか、チャンピオンベルトみたいにでっかいどくろのバックルのベルトとか、バカなものがいっぱいあって、全部1050円だったの。思わず買おうと思ったけど、買ってもするとこないからね。友達にプレゼントにしたら怒られるし……。
――つまり……。
安齋 まず過剰であることは、おばかな光景だよね。今、デカメガネがブームでしょ? もうすごいことになってるじゃん。それからつけまつげも。ファッションとかは、アイデンティティの1つとして、おばかは手に入れやすいのかもね。
でもじゃあ、きゃりーぱみゅぱみゅみたいにおっぱいにつけまつげ付けられますかってことだよね。おばかっていうのは、その勇気だと思うんだよね。ある種の没個性に対する個性のチャレンジ。
――まずは勇気を持って。
安齋 昔ね、グラフィックデザインをやっていたとき、1000枚撮った中の一番カッコいい1枚の写真を使って、レコードのジャケットを作ってた。でも1000枚の中の1枚だし、写真は加工できるし、そのカッコよさはウソなんですよ。で、カッコいいより、「面白い」ってことがコミュニケーションの材料になったり、説得力や感動を与えることができるってことに気が付いたら、カッコいい写真を探すのがバカらしくなった。「面白い」ってことに重きを置いた仕事をしたくなったんです。「面白い」はカッコいいですよ。
「ファック」とか「セックス」とか「サノバなんとか」とか書かれたTシャツを着ることについて、外国人に「ニッポンありえない」と言われたとき。逆にそれが面白いなと思って、ちんちんを擬人化したキャラを描いて、ちんちんを表すスラングを、ずらーっと並べたデザインのTシャツを作ったんです。これを着ていたら、電車で向かいに座ったエリザベス女王くらい上品な外国人のご婦人には、案の定、侮蔑の眼差しをいただきましたけど、女の子にバカ売れしたんですよ。
やったなー! と思ったんです。この国ではこれはアリだ、みんなに受け入れられるって。このTシャツも下ネタだけど何が違うかというと、女子のスタッフとユーモアを失わないように、作ったものだから。これが男目線の「メッセージ」だったら、かなりヤバイし、エンターテイメントではなくなっちゃうんだけど。異物感を残しつつ、社会に溶け込めるようになったら、おばかアプリも成功だと思うんだ。
――受け入れられるにはユーモアが必要。
安齋 ユーモアは、コミュニケーションツールの中で最初に簡単に手に入れられる最大の武器だって、サッカーの長友(佑都)選手も言ってたよ。彼はイタリアでチームに溶け込むために、簡単に覚えられるイタリア語の下ネタを連呼したら、バカなヤツだって可愛いがられたって。
ユーモアの中でも、下ネタって最大の最強の武器だよ。でも下ネタっていうこところに逃げ込んだら、おばかアプリとしては簡単過ぎる。
おばかが本当に面白いのは、それがエンターテイメントになったとき。つまり、うんこがネクタイを締めて表を歩けるか、ちんちんが電車に乗れるかっていうこと。
例えば、今日、JRの電車がタフマンの広告で占拠されてたんだけど、タフマンのマークってどう見ても、アレを逆さまにした形じゃん。タフマンの広告では、これを金のテカテカの帽子にして伊東四郎が被ってる。これがアレなら社会的にNGだと思うんだけど、ヤクルトの社長も、JRも伊東四郎のマネージャも、OKを出してるわけだよね? みんな黙認して面白がってる。ここで面白がれるのが、大人のおばかの正義ですよ。そこで「あれってアレじゃないんですか?」なんて言うのは野暮、むしろ下品。
――おばかアプリはまだタフマンのレベルになっていない?
安齋 そうだね、作ってる人たちも、まだどこかで常識やモラルの部分にリミットがあって、多分、ブレスト会議では下ネタのアプリについていろいろ話しても、家に帰ったら黙ってるんじゃない? そうじゃなくて堂々と、電車の中吊りにできるようなものを作らないと。「下ネタ」って言われたら怒るくらいじゃないとね。
天動説では巨大な亀と象が平らな盤を支えていて、その上に人が住んでいて、海の端っこは滝になってるように考えられていたけど、おばかアプリを作っている人は、今はその端っこで滝から落ちそうになっている状態。だったらその最後の断末魔で面白いものを作っていかないと。
最初に発明をする人は、だいたい変わった人じゃん。変人だよね。すごく研究する人だから。その人が作った電気や爆弾には、エンターテイメントの要素はないけど、それが音楽や映像になったら、人は特別な感情を抱くよね。それと同じで、おばかな発明自体はあまりに危険で使えないんだけど、それをちょっと違う形で使うことで面白くなったらいいね。変人から変態にね。おばかアプリももっと危険にならないと。もっとおばかアプリに危険なユーモアを持ち込む人がいてもいいよね。変態大集合ですよ。
――そういうおばかを生み出すには、どんな考え方が必要なんでしょう?
安齋 例えば、僕は仕事をするとき、もちろん努力は必要だけど、どんなにやっても1番になれないなら、この仕事が一番楽しいプロジェクトになればいいって思う。
仕事もさ、笑ったらギャラが上がるシステムだったらいいよね。多分、ダウンタウンの松本 (人志) さんはそう思って1995年に、面白かったらお金を払ってください、っていう入場料が自分で決められる、料金後払いのライブを武道館でやったんですけど、お客さんはさんざん笑ったのに、あんまりお金を払わなかったらしいよ。すごい赤字になったんだって。そういう意味では、社会が変わらないとおばかアプリは儲からないよね。
なんかすごいひどい話になってきた(笑)。
楽しいものだったらお金を払うはずだけど、笑いの価値はお金を払うとなると低いらしい。だとすると、「こんなバカらしいものに金、払えるか!」ってきっとおばかアプリは思われるよね。そこで大切になってくるのは、やっぱり「オシャレ」とか「エンターテイメント」なのかも。
あ、やっといい話になってきたね(笑)。
おばかをお金に換えるのは難しいなら、「すごい楽しかった?。Tシャツないんですか?」「これのストラップないんですか?」「金のテカテカ帽子は?」となっていかないといけないんじゃない?
だからやっぱり下ネタだけじゃダメだ。僕が下ネタの多さを危惧していたのは、そこだったんですよ! 経済的なところ。うちのおふくろの心配と同じです。
――どんな心配をされたんですか(笑)。
安齋 おふくろは「絵はどんなにうまくても、それだけじゃ食べていけないのよ」ってよく言ってたんです。
おばかでオシャレだったら、きゃりーぱみゅぱみゅは買うよね。木村カエラも買うかな? そしたら遊助とかも買うかもよ。
オシャレやエンターテイメントとくっつけば、おばかアプリは電車にも出ていけるし、スカイツリーのお膝元の東京ソラマチにお店だって出せるかも。
――まだまだおばかアプリには、オシャレさやエンターテイメントの要素が足りない?
安齋 これは批判ととってほしくないけど、「おばかアプリ公開ブレスト」では誰でもボインになれるアプリがあったけど、ボインになってもそれだけじゃホントは全然嬉しかないでしょ? 本当のところはむなしいんじゃない? エンターテイメントは、そこから始まるんだと思うんですよ。ボインに期待大ですよ。
今は言葉を覚えたばかりの子がアプリを作ってる感じだよね。だから下ネタ。小学生もおならで笑うのは1年生までみたいだよ。これはブレスト会議のときにも言ったけど、スチャダラパーのアニくんが、おならの音を録音し続けて何分間か溜まったところで聴いてみたら、すごく面白かったって。発想と努力、エンターテイメントとはそういうものでしょ。
何か全然、取るに足らないことを真剣に考えてみるとかすれば、おばかアプリはいろいろ考えられるし、すごく可能性があるんじゃないの?
滝から落ちそうになってる端っこから、おばかアプリがもっと中央に行くには、賢いふりやオシャレなふりもしないと。鼻毛もちょっと出てたら鼻毛だけど、伸ばしてしまえばひげだから! うんこもちょっと出てたらうんこだけど、すんごい出てたら尻尾だから!
――……(笑)。おばかは役にも立つでしょうか?
安齋 おばかはホントに役に立つと思うよ。皆さん、それでいつも救われているはずですよ。結婚は戦略で、経済的な駆け引きが絡んでくるから、おりこうさんがやることですけど、恋愛なんておばかの塊じゃないですか。楽しければいいのなら、一夜でもいいわけ、もはやね(笑)。おばかアプリは恋愛結婚ですね。
……そう考えると、おばかアプリ選手権と同時開催で、おりこうアプリ選手権もやった方がいいかもしれないね。対比したら分かりやすいから。もしかすると、おりこうアプリだと思っていたものがおばかだったり、おばかだと思っていたものがおりこうだったりするかもしれないし。
これから増税するっていうし、日本は不景気になるらしいじゃないですか。それに日本は地球上でもまれなくらい危険な場所らしいですよね。そう聞いたらもう憂うつになるしかないけど、それを救えるのは、タフマンかおばかしかないかもよ?
安齋 肇(あんざい・はじめ)氏プロフィール
イラストレータ、アートディレクタ。ソラミミスト。音楽に関するさまざまなビジュアルから、キャラクターデザイン、雑誌連載、展覧会、CMナレーション、「タモリ倶楽部」空耳アワー出演など。現在、勝手に観光協会、宿題工作オバンドス、フーレンズ、みち、ーーーー(よこぼう)のメンバー。ラストオーダーズ顧問。東京イラストレーターズソサエティ会員。第三回みうらじゅん賞受賞。
【 原宿開催 】
8月4日(土)〜13日(月)/10日間・無休[入場無料]
漫画:オオカワミハル(ニチゲイ布目ゼミ 4年生 日課はアイドルのブログチェックとお絵描き)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.