Web標準に準拠し独自技術Silverlightで補完する:D89クリップ(11)
Webテクノロジーの分野でマイクロソフトが注力するSilverlightの最新バージョンSilverlight 3が公開され、デザインツールExpression 3の日本版も9月に提供が開始される。製品担当のスコット・ガスリー氏に、最新版の注目点や今後の展望を聞いた
「ScottGu氏のブログより」でおなじみ
マイクロソフトのRIA(Rich Internet Application)戦略において要となるSilverlight。その最新バージョンが7月10日に公開された。2007年9月に最初のバージョンが登場してから2年を待たずして、バージョン3がリリースされたことになる。移り変わりの激しいWebの世界だが、この開発ペースから同社がいかにSilverlightに力を入れているかが分かるだろう。
また、Webデザイナ向けの開発ツールであるExpression 3の日本語版も9月に提供が開始される。Silverlightがプラットフォームとして受け入れられるためには、開発/デザインツールの存在も大きく影響する。
Silverlight開発チームを率いるともに、同社の開発ツールやWebアプリケーション製品全般を担当しているのがスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏である。@ITの連載「〜ScottGu氏のブログより〜」でもおなじみだが、そのガスリー氏にSilverlight 3とWebデザイナ向けツールExpression Blend 3の注目点や今後の展望を聞いた。
スコット・ガスリー氏。米マイクロソフト社デベロッパー プラットフォーム コーポレート バイスプレジデント。Visual Studioや.NET Frameworkなど開発者向け製品に携わり、近年ではSilverlightの開発を牽引している。
動画環境は現在のWebにおいて最高のもの
――Silverlight 3には、多くの新機能が追加されています。その中でも、特に強化された点とその理由を教えてください。
ガスリー氏 今回のリリースに限らず、これまでも、そしてこれからもそうですが、Silverlightで注力しているのは、動画や音声といったメディア機能とRIAの部分です。プラットフォームとしていかにリッチな体験をユーザーに提供できるかというのが最大のポイントでした。
プラットフォームが成功するかどうかの基準は、まずSilverlightというプラットフォームに対して「デザイナや開発者に興味を持って使ってもらえるか、ワクワクしてもらえるか」に掛かっています。さらに、「Silverlightで開発されたコンテンツ/アプリケーションによって、すばらしいユーザー体験をエンドユーザーに提供できるかどうか」に掛かっています。
プラットフォーム自身が強力であるということが前提になりますが、その次の段階では「そのプラットフォームの利用をいかに促進できるのか」がポイントです。そういった中で、デザイナや開発者が短時間で開発を行うためのツールとして、Expression Blend 3とSketchFlowの存在が重要になってくると思います。
――メディア機能では、特に動画の部分が大幅に強化されましたね。
ガスリー氏 Silverlight 3では、特にHD動画のサポートを強化しました。フルHD動画(1920×1080p)のライブ配信とオンデマンド配信に対応しています。「Smooth Streaming」(ライブの場合は、「Live Smooth streaming」)という技術によって、クライアントマシンの回線速度やCPU性能に適した動画のスペックに自動的に調節されます。Webにおけるエンドツーエンドの動画配信環境として、現時点でSilverlightが最も優れた環境だと思います。画質や性能、コストを総合的に考えてもベストでしょう。
――動画のコーデックとしてH.264/AVCをサポートするようになりました。一方で、Windows Media Video(VC-1)もあります。この2つはどのような使い分けを想定していますか。
ガスリー氏 H.264とVC-1、どちらもオープンスタンダードな規格です。画質については制作者の好みの問題になるかもしれませんが、技術的にはそれぞれ異なった特徴があります。VC-1は圧縮処理における負荷が比較的軽いため、ライブ配信などリアルタイム・エンコーディングの用途には適しています。H.264は、メディアプレイヤーなど多くのデバイスでサポートされているという強みがあります。動画コーデックとしては、どちらも優れたコーデックであることは確かですし、Silverlightでのサポートにも差はありません。
プロトタイプ制作を重視したExpression Blend 3
――Expression Blend 3の新しい機能としてSketchFlowは、どういった人をターゲットに想定していますか。
ガスリー氏 Webサイトにおける最適なデザインというのは、最初のプロトタイプによるところが大きいです。従って、「まずはプロトタイプから始めて、フィードバックを得ながら改良を加えていく」という考えが根底にあります。プロトタイプのメリットは、開発中のものを顧客に理解してもらいやすく、さまざまなフィードバックを得ることができることです。さらに、多くのフィードバックがある中で、最終的にリリースするまでの開発期間も短くできます。
プロトタイプの制作手法に基づいたツールというのは、SketchFlow以外には市場にほとんど出回っていないと思います。
――SketchFlowは、Expression Blend 3の機能として組み込まれていますが、単体ツールとして提供する予定はないのでしょうか。Expression Blend 3以外のユーザーでもSketchFlowが使えると便利な場面は少なくないと思いますが。
ガスリー氏 単体ツールとして提供する予定は、いまのところはありません。将来的には単体ツールにしたり、Expression Blend以外のツールに組み込んだりする可能性も考えられますが、当面はExpression Blend 3の機能として提供されます。
Webブラウザ外での実行機能によって広がる利用シーン
――Silverlight 3の新機能に「Out of Browser」※があります。これによって、.NET FrameworkのWPF(Windows Presentation Foundation)と機能的には近いものになったといえますが、WPFの存在意義や機能の差は何でしょうか。
※Out of Browserは、Webブラウザ上だけでなく、その外(デスクトップ上)でもSilverlightアプリケーションが実行できる機能
ガスリー氏 Silverlightの開発では、WPFとの互換性を確保するということが1つの目標としてありました。考え方としては、WPFは「Silverlightの兄貴分」という位置付けで、よりリッチなWindowsアプリケーションの環境であるといえます。Silverlightの方は、リッチなメディアやWebアプリケーションの体験ができますし、さらにWindowsとMac OS XといったOSやさまざまなデバイスで実行できる環境になります。
――XAMLファイルを実行する場合、SilverlightとWPFのコードの互換性は何%ぐらいでしょうか。
ガスリー氏 SilverlightのコードをWPFで実行する場合、互換性は97〜98%くらいでしょう。これはかなり高い割合だと思います。Webアプリケーションの場合とデスクトップアプリケーションの場合ではシナリオが異なるため、それによって若干の調整は必要になりますが、コードの再利用は可能です。
――SilverlightアプリケーションをWebブラウザの内と外(Out of Browser)で実行する場合、できることに違いはあるのでしょうか。
ガスリー氏 細かい差はありますが、基本的に機能は同じですしコードも同じもので問題ありません。両方で動きますから、コンパイルし直したりコードを書き直したりする必要はありません。
――Webブラウザの外でSilverlightアプリケーションを実行するのは、どのような場面が考えられますか。
ガスリー氏 2つ考えられます。1つは、「ネットワークが切れているオフライン状態でも作業をしたい」という場面です。もう1つは、「ユーザーにそのアプリケーションを利用してもらうときに、アイコンをデスクトップに置くのか、スタートメニューに入れるか、それともタスクバーかといった選択が必要だ」という場面です。
「コンパニオン・Webサイト・エクスペリエンス」と呼んでいますが、よりユーザーの都合に合わせたWeb体験をしてもらうために、さまざまな選択肢を用意できる技術だといえます。
――オフラインのシナリオとして典型的なものはモバイル環境ですが、Windows Mobile版のSilverlightの現状はどうなっていますか。
ガスリー氏 まだ提供を開始していませんが、近い将来には提供可能になる予定です。そうなれば、WindowsでもMac OS Xでも、モバイルデバイスでもSilverlightが実行できるようになります(ゲーム機Xbox 360のXbox Liveのダッシュボードでも実行可能になる予定)。
Web標準準拠と、その補完と、さらなる機能追加を目指す
――Silverlightはバージョン3になって完成度が高くなったように思えますが、まだまだ追加していきたい機能や改善点はあるのでしょうか。
ガスリー氏 まだまだあります。具体的な機能はお話しできませんが、領域としてはグラフィック関係と開発者の生産性を高めるための機能ですね。例えば、10年後の標準的なデバイスやインターフェイスは、私たちが想像もつかないようなものになっているでしょうから、まだまだ追加しなければならない機能は出てくるはずです。
――Webブラウザにおける開発技術には、HTML 5やJavaScriptなど標準化された規格があります。マイクロソフトとしては、Silverlightのように「独自のWeb技術を使いたい」という考えが強いのでしょうか。
ガスリー氏 両方です。Web標準に準拠することには、われわれもこれまで多くの投資をしてきました。Expression Web 3では完全にWeb標準に準拠していますし、Visual StudioのASP.NETでも、HTMLやAjaxの標準規格に準拠しています。その一方でSilverlightのような製品によって、Web標準に取って代わるものではありませんが、補完的な機能や追加機能を実現する機会があると考えています。この2つを両立して取り組んでいくということになるでしょう。
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