これらの作品には、「どういう感触を目指すか」というアイデアと、そのためにはどういった機構が必要になるという知識、そしてその通りにシステムを組む技術のどれもが必要になる。
例えば「ギアとサーボで実現する」とひと言でいっても、動くスピード、強さで身体が感じる感触はまったく変わってくるし、そこには機械的な部分の調整、電子的な部分の調整のそれぞれが必要になる。機械は機構、電子的な制御は電子工作、全体を実現するのはプログラム、それぞれ専門書が出ている領域だ。ゴールの設定がダメならもちろんダメだし、アイデアが良くても技術的にそこにたどり着けないこともあり、ものづくりの総合力が試される。逆に、日々の生活の中から面白い感触を発見して、そこをベースにアイデアが思い付くこともある。
IVRCの面白さは、そのすべてを1つのチームでまとめて、試行錯誤しながら、「感覚の再現」というゴールを目指すところにある。
また、大会は企画書のみによる予選(89組→24組へ)、プレゼン(まだ作品はないが、実現性や技術を見せるためにデモの持ち込みは推奨されている)審査(24組→11組へ)を経て、初めて実際の作品を作る機会が与えられる。作品を作って発表したら終わりではなく、そこからVR学会「大会」の会場内で行われた予選(11組→8組へ)で絞り込まれ、決勝でゲスト参加するフランスチームを加えた9組の中から、優勝作品が決められる。予選から一般客に公開され、初めて作品が多くの人の前にさらされる。「どうやって一般の人に体験してもらうか。興味を引く体験にするか」という試行錯誤がそこから始まる。
速度や馬力といった数値でなく、人間の感性に訴え掛ける作品なので、審査は工学の先生だけでなく、アーティストや科学未来館のキュレーターなど、多くの専門分野からの審査員が全作品に順位を付け、それに基づく点数により決まる。
審査や予選、それぞれの評価により、優秀な学生たちが試行錯誤し、作品に変化を加える、「どうやって進化・向上させるか」という競技スポーツとしての楽しみもある。
もちろん、学生が全力でアイデアや技術を発揮し、「ものづくりの総合力」をレベルアップしていくための、素晴らしい教育プログラムとしても機能している。
例えば優勝に輝いた「この腕とまれ!」は、プレゼン審査の時に巣箱と腕をつかむデモを会場に持ってきていてアイデアは明確だったが、電子工作については「LEDが光って大喜び」というレベルだった。そこから決勝では見事な機構を組み上げて、3日間のデモを行うまで進化させ、半年近くに及ぶ大会を通じて劇的な成長を遂げた例となった。
一方、「かつおモーション」や「あ」は大会が進むにつれ、作品に大きな変化を与えて新しい楽しさを生み出した。今回紹介できなかった「たま水」(チーム:粋動水 大阪大学大学院情報科学研究科)のように、新しいアイデアを盛り込むことに全力を投じた結果作品の難易度が上がり、会場で動作しなかった時間の多いチームもあり、このあたりはまるでF1の戦略を見るようだ。
委員の1人、白井暁彦先生が「あ」のメンバーと審査員とのやりとりがYouTubeにアップされていて、最終段階に至るまでの試行錯誤や、実現の工夫がうかがえる。
作品そのものだけでなく、「ViVi-EAT」チームの体験説明図、「瞬刊少年マルマル」や「あ」で見られたチームTシャツ、「バーチャルドクターフィッシュ」で見られたそろいの帽子など、作品や体験をどう向上させて体験者に楽しんでもらうかについて、アイデアの段階から「どう実現するか」までのどの部分をどう作品に生かしていくかという、正解がない問題に立ち向かう過程も面白い。
こうした大会の運営、出場する学生たちのモチベーション、来場する観客の感情や未来への愛が、VR大国としての日本を支えている。
今年のIVRCはプレゼン審査がニコニコ生放送、VR学会と併催で行われた予選、DCEXPOと併催で行われた決勝と、すべてが公開された。おそらく来年も公開されると思われ、とても楽しみだ。
著者プロフィール
高須 正和 @tks
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β幹事
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。ムダに元気です。
次のイベントは、12/1-2のMaker Farie Tokyo(お台場:科学未来館)にチームラボMake部として出展しますので、会場でお会いしましょう!
また、12/22(土)に、第3回ニコニコ学会βシンポジウムをニコファーレ・ニコニコ生放送しますので、お楽しみに!
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