取りあえず、希望年収700万円でお願いします:転職活動、本当にあったこんなこと(15)(2/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
1年たっても決まらない就職
続いて、もう1つのお金にまつわる事例を紹介しましょう。
私が瀬谷さん(仮名)と会ったのは、瀬谷さんが転職活動を始めてから1年以上たったある日のことでした。瀬谷さんは専門学校を卒業後、オープン系技術を使用したシステム開発に約10年間従事し、今回が初めての転職活動。会社の経営不振がその動機とのことでした。
自己紹介を済ませた私が最初に瀬谷さんに聞いたのは、なぜ転職活動がうまくいかないのかということでした。会う前にメールで、「転職活動がはかばかしくなくて、1年以上も活動を続けている」と知らされていたからです。
人手不足が叫ばれているIT業界では、瀬谷さんのような経験を持っている人であれば、何か大きな問題がない限り、転職先が決まらないということにはならないはずだと私は思いました。
転職活動を長く続けているとはいえ、会社を辞めているわけではありません。離職してからの期間が長いと企業の人事から敬遠される傾向にありますが、そういうわけでもなさそうです。
私は瀬谷さんに、それまでの経験、転職動機、キャリアビジョン、転職先への希望条件など、さまざまな角度からインタビューをしましたが、なかなか問題点が見つかりません。でも最後に希望給与について聞いたとき、すべての謎が解けたのです。
瀬谷さんの現在年収は450万円でした。そして希望年収は、700万円でした。
希望年収ってどれくらい?
瀬谷さんは1年間で12社に応募したそうですが、そのすべての書類に希望年収を700万円と記述していたそうです。その中で2社ほど書類選考をパスして面接まで臨んだそうですが、いい結果は得られませんでした。
私は希望年収について、瀬谷さんの真意を確かめようとしました。
「瀬谷さん、いくら欲しいのですか? 必ず欲しい額と、希望したい額を教えてください」
瀬谷さんはキョトンとした顔で、
「私の経歴だと適正なのはいくらくらいなんですか?」
私は瀬谷さんの質問に、「500万円から550万円ほどでしょう」と答えました。瀬谷さんの会社は業績不振もあって、賞与の支給額が減っているとのことでした。瀬谷さんの経歴から査定すると、年収は現職の賞与が通常に支給された場合の、500万円から550万円ほどが適正であると思ったからです。
瀬谷さんは依然、キョトンとした顔で、
「では希望年収は550万円でお願いします」
つまり、転職の条件として、年収をそれほど優先して考えていなかったのです。ではなぜ希望年収を700万円としたのかというと、せっかく転職するなら希望年収は高くしておいた方がいいと思ったのと、あるWebサイトで年収査定をしたら700万円が目標水準として提示されたからとのことでした。収入面にあまりこだわりのなかった瀬谷さんは、ある意味安直に700万円を希望していたのです。
報酬に対する考え方
この2人に共通していた問題点は、給与にかかわることでした。労働の対価としての報酬をどう考えているか、そして採用企業にどう伝えるかという点です。
松崎さんは、報酬額は高ければ高い方がよいと考えていました。しかしそれは、報酬が高ければ高いだけの働きをしなければならないということを受け入れたうえで成立する考え方です。松崎さんは、「求めた分だけ自分も求められる」ということを理解していなかったのです。
瀬谷さんは、報酬はどうでもよいと考えていました。転職した会社で努力をし、キャリアを積んでいけば、給与も増えていくと思ったからです。ただ、この無頓着さが問題でした。理由もなく提示した極端に高い希望給与のせいで、面接に行くチャンスすら自分でつぶしていたのです。
働く目的は、決してお金のことだけではありません。人それぞれにモチベーションがあるはずです。
しかし報酬は労働の対価であり、会社と従業員という関係に大きく影響する1つのファクターです。自分の考えを持ち、相手がどう思うかも考えていかなければなりません。
転職の際には、特に報酬についての考え方をしっかりと持っておくことが重要になります。もし、人材紹介会社に登録することがあれば、そのこともきちんとキャリアコンサルタントに伝えることをお勧めします。
著者紹介
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
千葉県出身。大学卒業後、建設会社にて人事、経理などの管理業務を経験。その後ITエンジニアに特化したスカウト型の人材紹介会社に転職し、キャリアアドバイザー業に従事する。その後アデコに参画し現在に至る。キャリアアドバイザーとしては一貫してIT業界、インターネット業界を担当。ギャップのない転職を支援するための情報収集能力、転職者側と採用企業側の両方の目線で行うカウンセリングには定評があるという。
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