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妻の仕事の都合上、転勤はできません!転職活動、本当にあったこんなこと(21)(2/2 ページ)

多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。

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事例2:「ITアーキテクトを目指したい」山本さんの場合

 山本さん(仮名・31歳)は、地元である中部地区の有名国立大学工学部を卒業後、大手SI会社の中部支社に入社。約10年間、中部地区の大手メーカー向けアプリケーション開発に携わってきました。

 前半の4年間はリアルタイムOSとC言語による組み込み制御システム開発を、後半の5年間はJ2EEによるWeb系業務システム開発を担当してきました。そして、1年前から現在に至るまでは、地元大手企業の基幹系システム再構築プロジェクトの「チーフアーキテクト」として、Linux、Oracle DatabaseとJ2EEによるWeb系システムのアーキテクチャ策定を担当していました。

 そんな山本さんが転職を決意したのは、以下の理由からでした。

 チーフアーキテクトの役割を果たしていた山本さんは、今後も「ITアーキテクト」を目指しいろいろなことを学んでいこうと考えていました。まだまだ定義があいまいなところのあるITアーキテクトですが、山本さんが目指すのは、「顧客の課題を把握し、システムに最適なグランドデザインを施し、技術的側面からチームを統制する技術者」とのことでした。山本さんの目標は、顧客のニーズを満たし、品質の高いシステムを作り、メンバーの成長を促し、「困ったときはあの人に相談しよう」といわれるITエンジニアになることでした。

 しかし、会社ではITアーキテクトという存在に対する評価が低く、このままでは学びのチャンスが非常に少ないと山本さんは考えたのでした。

中部地区限定、ITアーキテクト限定

 山本さんは転職後の勤務地を、ご両親やご家族の希望もあり地元を離れることができないので、自宅から通勤できる場所と限定してきました。

 私は正直、「この転職は難しいな」と思いました。しかし、山本さんの夢の実現に少しでも協力できればと思い、ITアーキテクトまたはテクニカルアーキテクトを募集している会社を探しました。

 しかし、地元中部地区では1社も見つけることができませんでした。山本さんの目指すITアーキテクトを募集する会社は、コンサルティングファームかITベンダ、大手システムインテグレータ(SIer)に限定され、中部地区を本社とする会社ではITアーキテクト限定での募集はありませんでした。

 1社、大手コンサルティング会社が出資した、SAPをベースに地元企業に基幹系システムの再構築を提案する会社があり、そこにITアーキテクトとしての採用を打診しました。しかしその会社では、ITアーキテクト専任のポジションはなく、プロジェクトリーダーとの兼務であるならば採用を考えてもよいとの返事でした。

 このような中部地区での現状を山本さんに説明し、もう少し幅を広げた、

  1. ITアーキテクトのみでの求人案件は皆無なので、プロジェクトマネージャ/プロジェクトリーダーとの兼務で探す
  2. 首都圏(東京)であればITアーキテクトを募集する企業も多いので、首都圏を中心に求人企業を探す

という2案を提案しましたが、「私は地元でITアーキテクト職にこだわりたい」として受け入れてくれませんでした。

 1カ月ほどが過ぎたころ、大手SIerと外資系ベンダの日本法人の中部支社でITアーキテクト職の募集があると聞きつけ、山本さんと相談して応募することになりました。

 しかし、書類選考での結果は2社とも不合格でした。理由は2社同一で、ITアーキテクトで採用するのなら、アプリケーション開発の基盤技術、データセンターインフラストラクチャ、ネットワークインフラストラクチャなどさまざまな分野の技術・経験、かつ大規模プロジェクトでの技術支援の経験が必要とのことで、山本さんの場合は技術支援経験が求めるものに足りないとのことでした。ただし、山本さんは技術的に素晴らしい素養を持っており、ポテンシャルも高いと考えられるので、プロジェクトリーダー候補としてなら面接したいというのが2社からの返事でした。

 山本さんは、この申し出も辞退しました。

 その後、私からは推薦できる求人案件がなく、山本さんは同じ会社に勤務しているようです。

転職には柔軟な考え方も必要

 これは、山本さんが優秀なITエンジニアだったからこそ陥った失敗だと思います。

 山本さんは約10年間のシステム開発経験があり、かなりの自信を持って転職活動に臨んだと思います。要素技術についても、OS、データベース、Javaを中心としたプログラミング、ネットワークなど多分野にわたる経験がありました。そして技術リーダーやチーフアーキテクトとしてマネジメントもこなし、担当した顧客も大手メーカー、大手卸業、教育機関など多岐にわたり、大規模プロジェクト(開発要員約200人)も経験し、広い視野でさまざまな案件に対応できるITエンジニアでした。

 しかし、山本さんは職種をITアーキテクトに、勤務場所も中部地区に限定したため、希望どおりの求人案件はほとんどありませんでした。その中から応募した企業は、グローバル展開するSIerと外資系ベンダの日本法人で、非常に採用ハードルが高い企業でした。

 もし山本さんが職種をもう少し幅広く考えてくれたなら、もし勤務場所を首都圏まで広げて考えてくれたなら、転職は成功していたと思います。

 自分の将来の目標に向け、仕事へのこだわりがあることは十分理解できます。家族を大事にする気持ちも分かります。しかし、すべての条件を満たす求人案件は多くありません。

 転職を決意するに当たり、もう少し柔軟な考え方ができなかったものかと、非常に残念でなりません。


 人材紹介会社のコンサルタントは、求職者のキャリアプランを考え、ベストな求人案件を紹介するのが仕事です。しかし地方で求人案件を紹介する場合、求職者の実力以外の制約によって、求人企業とのWin-Winの転職の実現が難しいという現状があります。

 特に勤務地限定となると、なかなか希望する求人案件を紹介することが難しく、それまで培ってきた知識や経験を生かす案件を紹介できない場合が多々あるのです。

 最後に、中部地区での転職市場について述べておきます。中部地区に多い自動車関連メーカーなどでは、ものづくりという観点から品質には大変厳しく、人材を必要としていても採用ハードルは決して下げないという姿勢は崩していません。

 大手自動車メーカー関連企業間の転職も、互いの企業同士の遠慮もあり難しい状況で、転職希望者にとってはなかなか厳しい市場です。

著者紹介

アデコ 中部支社 人材紹介サービス部 シニアコンサルタント

原田福二

愛知県出身。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーにて20年間、営業、マーケティングを主担当として勤務。その間、金融、流通、製造、物流、通信分野の大規模プロジェクトを数多くコーディネート。各業界の業務知識が豊富。求職者に求人企業の求める人物像の詳細情報の提供や、将来のキャリアプランのアドバイスができる点が強みだという。



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