植物の「緑さん」がブロガーになるまで:D89クリップ(3)(2/2 ページ)
ガチャピンをはじめ、人間以外もブログを書くことが珍しくなくなった今日。ブログを書くホームロボット(「ネットタンサーウェブ」)も発売され、ブロガーの広がりはとどまるところを知らない。そしてついに、ブログを書く植物まで登場した
植物の生体電位を基に占い、ブログ、ブログパーツへ
緑さんのシステムを説明するとこうだ。まず緑さん(スウィートハート)の幹に生体電位を計測するための電極を取り付け、そこから得られた電位の変化を信号として取得する。信号は、相性診断占いのパラメータやブログパーツで表示するグラフ用のデータとして使用される。
ブログは、その日の気温や降水確率といった気候情報をパラメータとして、文章を組み合わせて自動生成する。1日1回更新する際に、Webカムで撮影した画像もアップされる。またブログパーツでは、電位グラフに加えて相性占いの際に撮影した利用客の写真も表示される。さらに、このブログパーツをクリックすると、緑さんの脇に設置されている蛍光灯が光るようになっている。
ユーザーのクリックが、植物である緑さんに、蛍光灯を数秒光らせ、光合成のため光をプレゼントしてくれる。ブログパーツ上から光をプレゼントすると、誰が(ユーザーが名前を入力する)どこから(ブログパーツが掲載されたページのURL)クリックしたかがトラックバックのような形でブログに表示される。Chumbyは相性占いの操作用として用意されており、特製のガジェットがインストールされている。
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最も苦労したのは技術面ではなくダジャレの生成
ブログの文章を自動生成するためのプログラムも開発することになったが、その仕組み自体はそれほど難しくはなかったという。基本的には、人間が一切手を加えることなくブログが更新されるシステムに仕上げることができた。大変だったのは、技術的な部分よりもむしろそれ以外の演出的な部分だった。
「いろいろと考えたのは、『植物が書くブログ』というシナリオです。人間が植物の気持ちになって『今日はこんな感じかな』などと書くのは何か違う。今日のニュースなどを取り上げてみることも考えたのですが、そもそも植物は人間のニュースなんて読みませんよね。それよりも、気温などの情報に基づいて書くのが植物らしいのではないかと。植物なら感じているであろうことをパラメータにするなど、人間らしさと植物らしさのバランスを考えました。ブログの本文は、そういう視点で植物が考えそうな文章を用意して、それを組み合わせて生成しています。
組み合わせのバリエーションは100万通りくらいにはなると思います。文章の自動生成は、以前にも同じようなプログラムを作ったことがあり難しくはなかったです。それよりも一番苦労したのはタイトルです。もう一つ面白い要素として『人間はダジャレが好きだ』と緑さんが思い込んでいるという設定がかわいいなと思って、毎回タイトルに植物ギャグ(ダジャレ)を入れることにしました。本文は文書の組み合わせで簡単にバリエーションを増やせますが、タイトルは1つ1つがダジャレとして成立していないといけないので、それを考えるのが大変でした。植物ギャグは何百通りか用意してあって、その日の条件(天候情報)から適当なものを出すようになっています。秋バージョン、冬バージョンなど季節ごとに考えていて、思い付いたら追加するようにしています」
植物の生体電位を計測して分析するという技術を一般向けのWebサービスにするには、エンターテインメント性も求められる。そのためには、「ブログを書き、相性占いをする植物」として、擬人化したキャラクタを演出することになる。この点は、ある要素技術を組み合わせて製品化していく際のプロセスに通じるものがある。使っている技術はもちろん大事だが、それをユーザーにどう見せるかも重要で、これは面白企画に強いカヤックの真骨頂といえる。
例えば相性占いの操作には、店舗内に置くことを考えてPCではなくChumbyを使ったという。Chumbyには独自のガジェットをインストールしてあり、占いの開始や記念撮影の画像をどうするかの選択を行う。植物と組み合わせるなら、いかにも機械的なものよりも、インテリアのようなものの方がよい。確かに、PCが置いてあってそれを操作するよりも、Chumbyのタッチパネルで操作する方が簡単だし、植物とコミュニケーションをしているという雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
Webとリアル2つの入り口が話題作りの秘訣
植物を使って何か新しいことをしようと始まったこの企画だが、公開してみると思わぬところからの反響があったという。
「海外でのウケが良かったのが意外でした。『MAKE:』やBBC放送、ロイター通信のWebで取り上げてもらって、アクセスがすごくてサーバがパンクしました。どうしたら話題を集めることができるか考えていたので、この結果はうれしかったですね。あとは、もともと店舗の名物、看板娘ならぬ看板植物として販促ツールの役割もあったのですが、実際に来店した子供や日ごろITに関心のない方にも興味を持ってもらえたのもうれしかったです」
インターネット経由で海外から火がつき、Web界わいで注目されて、リアルに広まり始めたという状況の緑さん。「ブログと店舗という、ネットとリアル2つの入り口を用意したのが成功の要因ではないか」と瀬尾さんは分析する。緑さんをきっかけに、今後も植物を使った企画を広げていく考えだ。
「次は自動生成で歌を歌ったら面白いかなとか考えています。それから、もっとデバイス部分をシンプルで小さなパッケージにして、商品化できないか栗林さんと話をしています。ネットにつながるものって、PCやChumbyといったものだけでなく、もっといろいろなものがあると面白いですよね。それも、限定された実験の場ではなくコンシューマ向け製品のような形で一般にも広がっていくようなもの。植物がネットワークにつながるというのを軸に何ができるか、さらにバリエーションを増やしていきたいと思っています」
植物をより身近に感じることでエコを意識する
緑さんは、いわゆるセンサーネットワークやアンビエントメディアと呼ばれるものの1つともいえる。技術的な仕組みももちろん興味深いが、植物をネットにつなぎ人間とのインターフェイスを用意することで、人間の生活とそれを取り巻く環境やエコロジーのメッセージにもなるのではないかと瀬尾さんは考える。
「エコロジーというと、二酸化炭素を減らしたり植林したりってことがあります。緑さんは、植物というものをもっと身近に感じたり考えたりするきっかけになるのではないかと思っています。人間と植物は、もともと水を与えたり花が咲いたりといったやりとりがありますよね。緑さんは、ある意味そういう植物と人間のコミュニケーションを拡張したものです。植物と人間の在り方を考えるきっかけになれば、エコロジーにも関心が出てくるのではないでしょうか」
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