Flash CS5のiPhoneアプリ変換機能は無駄にならない
Flash CS5のiPhoneアプリ変換機能は、Objective-Cでの開発が難しい者たちにとって素晴らしい機能のように思える。しかし考えてみると、いくつかの疑問がわいてくる。例えば、アドビは「iPhoneのFlash Player搭載は無理だ」とあきらめてしまったように見えるが、どうなのだろうか。これについて、インタビューで聞いてみると、ブリムロー氏は次のように話した。
「決してあきらめてはいないし、無理だとも思っていません。その件については、アップルと引き続き協議中です。アドビとしては、いつでもできるように準備を整えていて、後はアップルの決断を待つだけになっています。今後も引き続き働き掛けていくつもりなので、ゆくゆくはiPhone上でFlash Playerが動くことになると思います。しかし、今日のセッションでも多くの方がFlash CS5のiPhoneアプリ変換機能について質問してきたように、日本に限らず世界中で、いま現在iPhoneアプリを作ることが望まれています。ただ、iPhone上でFlash Playerが動くようになるまでの間、アドビとして、何もしないわけにはいかないということで、代替的な手法として今回Flash CS5のiPhoneアプリ変換機能を用意しました」
代替的となると、実際にiPhone上でFlash Playerが動くようになった後は、Flash CS5のiPhoneアプリ変換機能は無駄になってしまうのではないだろうか。すみ分けはどうするのか。これついてブリムロー氏は、慎重に口を開く。
「無駄になるわけではありません。実際にiPhone上でFlash Playerが動くとなると、これはもちろん確定事項ではなく、あくまでも私見ですが、それは『初期段階では、WebブラウザのSafari上で』ということになるでしょう。ネイティブアプリとして動くiPhoneアプリを作る場合は、引き続きFlash CS5のiPhoneアプリ変換機能が必要になります」
ブリムロー氏は基調講演でも「AIRアプリを作るのと近いイメージでiPhoneアプリを作ることができる」と話していた。認証の部分はADT(AIR Development Tool)の機能が使われていて、FlashアプリをiPhone用に変換するというよりもAIRアプリをiPhoneでも動かせるようにしたという印象を受ける。「PC上でのAIR=ネイティブアプリとして動く、Flash Player=Webブラウザ上で動く」という構図が、そのままiPhoneに移動するということなのだろう。
iPhone以外のモバイルへの取り組み
iPhoneのほかにもアドビのモバイルへの取り組みで興味深い話が聞けたので、紹介しておこう。現在ベータ版で、来年早々には正式リリースになるというAdobe AIR 2.0やFlash Player 10.1の機能についても見逃せないことがある。
例えば、マルチタッチ機能や加速度センサのジェスチャ機能だ。マルチタッチという概念自体がiPhoneの登場によって爆発的に広まったのは、周知の通りだが、Adobe AIR 2.0やFlash Player 10.1でもこれらの機能に対応したことは、Flash CS5のiPhoneアプリ変換機能との関連を思い起こさせる。「マルチタッチ機能はスマートフォンだけではなくWindows 7でもできる」と基調講演で話すブリムロー氏。Flash Playerの対応OSはAndoid 2.0やWindows Mobile 6.5、Palm webOS、Symbian S60などモバイルの対応プラットフォームを拡大しているという。
ほかにも、マイク入力への直接アクセス機能などのデモを行ったり、バージョンアップによるメモリ消費の減少やGPUアクセラレーション効率の向上などをデータで示し、AIRとFlash Playerのスマートフォン対応の進展をうかがわせた。
また、基調講演でも少し話に出た、Flash Liteの次期バージョン4.0について詳細をインタビューで聞いてみると、ブリムロー氏は、次のように説明した。
「基本的にFlash Liteは電力容量が少ない、Flash Player 10.1が入らないような端末のものです。今後、スマートフォンなどではFlash Player 10.1が入りますが、パワーが少ない端末では、Flash Lite 4.0を使います。Flash Lite 4.0といままで(3.0以下)の違いは、ActionScript 2ではなく、ActionScript 3に対応するということです。ActionScript 3に慣れてしまった開発者は、Flash LiteのためにActionScript 2にはもう戻りたくないと思っているでしょうけど、これでその心配はなくなります」
OSP(Open Screen Project)のコンセプトは「PCでも動くFlash Playerを、すべての端末に搭載する」というものもはずだが、やはりパワーが少ない端末では難しいということかと聞くと、ブリムロー氏は「そうです」と答えた。パワーが少ない端末というのは、インドや中国でまだまだ出回っているような端末で、日本でいうと高年齢層向けの「らくらくホン」のようなものを指しているそうだ。現在の日本でも、iPhoneやWindows Mobile、Androidの登場でスマートフォンの需要が高まってきているが、まだまだ従来のFlash Lite 2/3を搭載している携帯電話の利用数には及ばない。しばらくは、スマートフォンまではPCでも動くFlash Player 10.1、従来の携帯電話にはFlash Lite 4.0を搭載する戦略のようだ。
それでは、Flash Lite 4.0で動くアプリはiPhoneアプリ同様、Flash CS5で作れるようになるのだろうか。ブリムロー氏は、うなずいて「Flash CS5は基本的に、すべてのモバイル向けのアプリを作れるようになります。ほかにも、現在Flexのモバイルアプリは提供していませんが、Flex Mobile Frameworkについては考えているところで、作業としては着手したばかりです」と答えた。
Flex Mobile Frameworkとは、Adobe Labsにある「Slider」というプロジェクトのことだという。「Slider」プロジェクトの成果は、Flash Builder(旧称、Flex Builder)に取り込んで、今後はFlash Builderでもモバイルアプリを開発できるようになるのか尋ねると、ブリムロー氏は「おそらくFlash Builderでも今後、開発したプロジェクトをモバイルアプリとして書き出せるようになると思いますが、「Slider」というのは、ツールではなく、あくまでもフレームワークということです」と、今後の展開を話した。
われわれは日本人から影響を受けている
iPhoneアプリの「セカイカメラ」などで最近話題のAR(拡張現実)だが、ARのライブラリをFlash Playerでも動くように移植したActionScriptライブラリ「FLARToolkit」によって一気にデザイナやプログラマの間でも流行した感がある。このライブラリを利用してFlash CS5からARのiPhoneアプリを作れないのか聞いてみると、ブリムロー氏は「残念ながらできない。iPhoneのWebカメラにアクセスできるように変換するのが難しい」と答えた。
このFLARToolkitを作成したsaqoosha氏や、FLARToolkit以外のさまざまなActionScriptライブラリをまとめるSpark projectの新藤愛大氏など数名の日本人が「Adobe MAX 2009」に参加して講演を行った。また、その「Adobe MAX 2009」で、AIRアプリをiTunes App Storeのように売買できるようにするプロジェクトのコードネームを「Shibuya」にすると発表したり、米サンフランシスコのオフィスのパーティションが障子風だったりするアドビだが、アドビは日本のことが好きなのか試しに聞いてみると、ブリムロー氏は次のようにインタビューを締めくくった。
「そうですね。たしかに日本びいきだと思います。なぜなら、われわれはYUGOP(Webデザイナ中村勇吾氏、または中村氏のWebサイトのこと)から、とても影響を受けているからです。そんな素晴らしい日本のデザイナ・プログラマにひと言いうならば、ともに頑張ろうといいたい。いまの時代は複雑でいろいろなことが起こる大変な時代ですが、エキサイティングで面白い時代でもあります。私自身も複雑に感じるときが多いですが、あきらめずに頑張って乗り越えていきましょう」
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