ロボットも日本の国技に! 25年目の高専ロボコンUXClip(12)(4/4 ページ)

» 2012年12月10日 12時40分 公開
[高須 正和ウルトラテクノロジスト集団チームラボ]
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競技よりも重視される「大賞」

 高専ロボコンには、優勝のさらに上に大賞がある。ロボコン全体25年を通じてベスト・オブ・ロボコン大賞に輝いたStar Kingも、競技では準優勝だった。

 正式タイトルも「アイデア勝負!全国高専ロボットコンテスト」となっており、開催時の選手宣誓は「宣誓!われわれはアイデアマンシップにのっとり……」から始まる。競技に勝つためのアイデアだけでなく、どういうロボットを作ろうと考え、作り上げたかというアイデアを競う大会である。

イルカ型ロボット「フレンドルフィン」(小山高専)

 見事大賞に輝いたのが、イルカ型ロボットの「フレンドルフィン」(小山高専)だ。

イルカショーのアクションを再現したフレンドルフィン(提供:NHK)

 フレンドルフィンは、試合の中でイルカショーのイメージを再現することを目指した。

 Kinectを用いて、飼育係を模した伴走者を追いかけ、伴走者の身振り手振りに反応して「あいさつ」「ストップ」などの動作を行う。当日の国技館では照明などの影響で、それまでのセンシングでは精度が出ないため、手首にアルミホイルを巻いて反射を強化するなど、臨機応変に対処してパフォーマンスを実演。

 ボールを飼育係が拾い、フレンドルフィンに渡すと、まぶたやヒレをパチパチさせ、全身を動かし、鳴き声を上げて喜ぶ。ボールを投げる動作もイルカを模していて、空気圧でボールを投げる箇所をイルカの口と連動させることで、「イルカショーで飼育係がイルカにボールを渡し、投げる」という一連の動作を競技にうまく合わせ、ジェスチャー認識を使うことで、伴走者のジェスチャーがまさにイルカの飼育係に見えるようなアクションを実演した。

 単にペットを表現しただけでなく、そのペットと人間がボールを拾い投げる競技まで含めて、自然に見えるようにロボットにストーリーを与え、そのストーリーが自然に見えるように、ロボットの動きや造作も進化させていた。

飼育係とイルカショーをするようにボールを投げる。ボールを納める顔の周りの輪は浮き輪を模している(提供:NHK)。

 競技としては1回戦負けとなったが、文脈としてのパフォーマンスと、それに合わせたロボットの完成度が高く、そこも含めて評価されての大賞となった。このロボットが大賞になったことは、高専ロボコンの性質をよく表しているように思う。

地区大会でのフレンドルフィン(撮影:Lautanjp)

受け継がれる日本のものづくりマインド

 これまでも、「競技中にロボットが二足歩行に変形する(テーマは「生命の進化」)」など、社会がロボットに要求する夢をレギュレーションに託して、ロボットコンテストは進化してきた。1997年の第10回では、評価に芸術点が加わっていて、競技だけのコンテストを志向していないことが伺える。

 毎年4月にテーマが発表され、出場する高専生は半年掛けてロボットを製作する。今回のルールに従って、30秒以内に動作を完了するロボットを、わずか半年で作るためにはどれほどの集中力とエネルギーが必要なのか、見ているこちらにも熱さが伝わってくる。

「理論通りに動けば苦労しねぇよ」の文字が背中に光る高知高専チーム

 クリス・アンダーセンのMAKERSでは、アメリカで製造業の継承がほぼ途絶えつつあることが語られているが、日本ではこのような取り組みが四半世紀に渡って行われ、先輩後輩の間や、学区学校をまたいで技術の継承、成果の見せ合いが行われている。これまで紹介してきたロボットに見られるように、ロボット開発にはアイデア・実装、設計、デザイン、メカトロニクス、ソフトウェア制御など、ものづくりの総合力が問われ、作品にすべてが表れる。まさに日本の第2の国技といえよう。

過去のロボット紹介などを行ったASIMO。これ以上にふさわしい人選があろうか。2000年初公開のASIMOもすでに時代の証人である。

 ロボコンの父と呼ばれ、今回も審査員を務める森政弘先生(東京工業大学名誉教授)は、今年のロボコンについてこんなコメントを述べた。

 「25年前は有線で闘っていたロボコンが、ここまで……。夢のようです。でも、これからはよりシンプルに(コントローラなしでも意思疎通できる)、そういう時代だと思います」

 時代がロボットに要求するものは年々変化している。昨今のお掃除ロボの流行や、あるいはスマートフォンの浸透などを見れば分かるように、ロボットやコンピュータはどんどん私たちの身の回りに寄り添い、身近なものになってきている。この流れはますます進み、私たちの意識を変えつつある。筆者は今、手元にスマートフォンがなくなり、インターネットに接続している機器がなくなるとき、何とも落ち着かない。また、公開されてる情報は必要になったときに調べればいいから、その場でないとアクセスできない情報以外、メモを取らなくなった。ロボットもそのうち「身の回りにいつもいて当たり前のもの」になっていくだろうし、社会全体がそれで進化していくだろう。

 そうしたロボットも、すべて人間がアイデアを出し、実装している。むしろ、作ることを通じてアイデア/感性が磨かれている。ここに出場したエンジニアのタマゴたちが、ロボットに支えられる未来の社会を作っていくのだろう。来年のロボットコンテストも非常に楽しみだ。

 今回のロボコンは、12月16日の17:00からNHK(総合テレビ)にてテレビ放送される。NHKの企画により、今回の番組では放送と同時にリアルタイムで、手持ちのスマートフォンやタブレットに、当日のツイートや補足情報などが配信されるとのこと。

国技館での熱い戦いや、さまざまなロボットが動く様子をぜひ見てもらいたい

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著者プロフィール

高須 正和 @tks

ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β幹事

 趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジ/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。

 Maker Farie Tokyo(お台場:科学未来館)のチームラボMake部ブースに来てくれた皆様、ありがとうございました!

 また、12月22日(土)に、第3回ニコニコ学会βシンポジウムをニコファーレ・ニコニコ生放送しますので、お楽しみに!


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