自分の「人材価値」を頼りに生きるのがいい、というのが答えだと筆者は考えている。
ビジネスの世界での人材価値とは、現在働いている会社も含むが、「他者がその人に仕事を頼みたいと思うような個人の特徴」を指し、主として、仕事をするに足る「能力」を備えていることと、その能力を現実に仕事に使った「実績」の2つによって構成される。科学の世界に例えると、「理論」と「実証」がそろって初めて学説が評価されるようなものだ。
こうした人材価値は、「本人の変化」や、「評価する側の会社」「社会の評価の変化」によって変わり得るが、自分のことなので自分が最も把握しやすい。そして、何よりも自分の行動によって改善できる。加えて、普遍性のある人材価値を持つと、職場を変えても、これを自分のものとして持ち運べる。
一人では制御できない会社の将来を気に掛けるよりも、自分が影響を与えられるファクターに注力する方が合理的であることを、エンジニアの読者なら、きっとご理解いただけると思う。
ビジネスの観点から見て、人材に価値があるということは、どういうことだろうか。筆者が経験してきた金融の世界では、価値のある人材とは、(1)プロダクト(商品)を持っているか、(2)顧客を持っているか、のどちらかだった。
特定の市場やビジネスのやり方に通じていたり、法務や税務など知識を要する仕事のスキルを持っていたりする人は、それらのスキルが“個人のプロダクト”として評価されて価値を持つ。
また、顧客を持っている人は会社にとって大切な人だし、顧客を連れてきてくれるわけだから他社から見ても価値がある。どちらが強いかと問われると、顧客を持っている方が強いのがビジネスの現実だ。
エンジニアの世界では知識と技術が「プロダクト」になるが、これが社内外の他人に評価され、現実の商品やサービスとして生かされる道筋を持っていることが重要だ。ビジネスの人間関係はエンジニアにとっても重要なはずだ。製品を通じて社外に顧客を持つことの他に、社内に顧客を持ち、社外にも潜在的な顧客を持つエンジニアの人材価値は高い。
人材価値と時間の関係も理解しておきたい。
まず、人材価値の構成要素である「能力」を身に付けるにも、「実績」を作るのにも、時間が必要だ。ビジネスパーソンは、人材価値を作り、あるいは維持するために、時間と努力を投資する。
また、雇用する側から見れば、有用な能力を持った人を今後どれだけの時間使えるのかが重要だ。全く同じ能力なら、年齢が若い人の方が、より長く働ける分、人材価値が高いという大原則がある。
加えて、一般的な傾向として、年齢が若い方が仕事で使いやすいし、年齢が上がると賃金が上がるので、若い人の方が雇われやすい。これは、ある程度の年齢を超えると、転職が難しくなる背景だ。エンジニアの場合、若い方が新しい技術にキャッチアップしやすいという要因もあるだろう。年齢を重ねながら人材価値を維持するのは、なかなか大変なことなのだ。
ともあれ、自分の人材価値を育てて維持していくという考え方が、職種や立場を問わず、ビジネスパーソンにとって有益だ。
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトにて『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
※この連載はWebサイト『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を、筆者、およびサイト運営会社の許可の下、転載するものです。
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