組織の中のビジネスパーソンにとって、同僚が実質的な「顧客」であり、彼らの満足度において評価されることを理解するとして、次に、自分のどのような要素が、彼らから評価されるのかについて知っておく必要があろう。
筆者が思うに、組織のメンバーが他のメンバーを評価するポイントは、レベル差を伴って複数ある。初級・中級・上級に分けて、3つ紹介しよう。
まず大事なのは、共同作業の中で自分の持ち場の仕事をしっかりこなし、他のメンバーに迷惑を掛けないかどうかだ。
エンジニアの場合、専門分野で十分な知識と技術を持っていることは「当たり前」の最低条件だ。この点に異論のある読者はいないだろう。その上で、社外の顧客から「クレームがない」のは、ビジネスエンジニア人材として「初級」の合格段階だろう。
技術があっても、社外の顧客とうまく人間関係を結べないビジネスパーソンは社内の顧客にも評価されにくいことに注意が必要だ。ビジネスの世界では、専門職であっても、「専門知識だけ」で十分な評価を受けることはまれだ。
「中級」の合格条件は、部下の育成に貢献することだろう。
組織で仕事をする以上、専門職は自分のスキルや経験を次の誰かに伝える必要がある。「自分の向上」と「後輩の育成」に使う時間とエネルギーの適正なバランスは、年齢や立場によって異なるが、後進を育てることの価値は高い。もちろん、過去に育てた部下や後輩からの感謝が、自分の後押しにもなる。
一方、組織内における価値としても、さらに人材価値的にも「上級」と評価されるのは、会社に利益をもたらす外部の顧客を持っている専門職だ。外部の顧客を持っている同僚をサポートする「余人を持って代えがたい専門家」も価値があるが、外部の顧客から直接評価されていて、実質的に自分で外部の顧客を持っている専門家は、組織にあって圧倒的に強い。もちろん、新規の外部顧客獲得に貢献できる人も、営業担当者でなくエンジニアのような専門家でも高く評価されて、大切にされるはずだ。
技術を使って獲得してもいいし、対人関係の能力によって獲得してもいい。できれば、エンジニアも直接外部の顧客を持ちたいものだ。
もちろん、前述のように後進の育成も重要な仕事だ。社外に顧客を持っていることと、どちらにより大きな価値があるのかは、簡単には比較しにくい問題だが、いろいろな会社や組織を見ると、組織に利益をもたらす外部の顧客を自分のものとして抱えていたり、獲得できたりするビジネスパーソンが一番強く、社内の顧客の評価も得やすいのが、おおむね現実だ。
会社は、外部の顧客を持っている社員を切ることはできないし、動物の群れと同様に、ビジネスの人間集団も「メシの種」を持ってきてくれるメンバーは頼りにされる。
社外・社内を問わず、誰が自分の実質的な顧客なのかを正確に見極めて、これをしっかり確保することの価値は高い。そして、初級、中級、上級のいずれにあっても、対人関係の結び方が重要な役割を果たしていることに注意してほしい。
そのためには、社内は「ウチ」であり同僚は仲間なのだという感覚に油断せずに、同僚から見て自分がどのような存在なのかを意識することが大切だ。
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトで『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
※この連載はWebサイト『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を、筆者、およびサイト運営会社の許可の下、転載するものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.