僕らはみんな何かの作り手だ!:D89クリップ(46)
「Make:」ファウンダーのデール・ダハディが、「Make:とは何か、なぜMake:するのか、Make:でなにができるのか」をアツく楽しく語った
すべての人間はMakerだ。楽しもう!
Maker達の祭典、Maker Faireの共同創設者であるデール・ダハティ(Dale Dougherty・以下、デール)は、ホワイトハウスから「変革の旗手(Champion of Change)」に選ばれている。TEDでのデールの講演、「We are makers(日本語字幕付き)」を見れば、彼が何をしているかは、よく分かるだろう。
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「自分が作りたいものを、自分の手で作る」Make:ムーブメントは、世界的な流れとなり、世界各国でMaker Faireが開かれている。日本のMaker Faire、Make Tokyo Meetingはすでに7回を数え、Make Tokyo Meeting07では1万人を超える来場者を集めている(参照記事:「作りたい欲求を刺激するMake:07@東工大レポート」)。
6/2に科学未来館でMake:ムーブメントについて話し合うMaker Conference Tokyo 2012(日本パーソナルファブリケーション協会主催)が開かれた。先行販売だけでチケットは完売、会場に集まったMaker達から、これからMake:をより楽しくしていくためにどうすればいいかについて、真摯な議論が交わされた。オープニングの基調講演を行ったデールに、Makeムーブメントについてインタビューした。
楽しめることが何よりも大事
──Maker Faire Bay Area(2012/05/19-20 カリフォルニア)に行ってきたのですが、「スイッチを入れると自動でスイッチが切られる」Useless Machineが誇らしく展示されていたのが印象的でした。Makerはサイエンス/合理性/問題解決への強烈な想いがある一方で、「才能の無駄遣い」やジョークも大好きです。
もちろん技術は問題を解決するために用いるものだ。でもそこで、ちょっとしたイタズラ・ジョークとしてUseless Machineみたいな「才能の無駄遣い」を作ってみることが、新しいものに気付かせてくれる。いつもの技術の使い方にまた別の側面を見せてくれて、客観性を与えてくれる。
「才能の無駄遣い」は遊びや交流のためのネタとして作るものなんだけど、そこに加えて技術の別の面を見せるという意味があるんじゃないかな。
Make:の文化はコミュニティなんだ。特定の組織じゃなくて、「他人の反応、インタラクション、コミュニケーションをするもの」ということで、例えばゲームなんかとは近い関係にある。
──これまでの講演でも、「楽しさ」をキーワードとしていることを、強く感じました。
Maker Faireの第1法則は、「何より祭り(Faire)であること。みんな楽しもう!」ということ。テクノロジー中心のイベントなんだけど、たくさんの説明をするのではなくて、見てみればガツン!と来る、楽しめる場所にしたかった。
ユーモアは人の緊張を解く。楽しんでいるときは他の人との交流もしやすいし、心のいろいろなツボを開いてくれる。もちろんテクノロジーの体験とか、学ぶものはあるだろう。教育にも役立っている。でも、それは楽しんだ結果として付いてくるもので、Maker Faireはまず何よりも「楽しめる空間にしよう!」と考えているんだ。
イノベーションは遊びから生まれる。特に現代では
──Maker Faire、Make:ムーブメントを、「楽しめるもの」としてデザインするために、何か具体的に注意していることはありますか?
「デザイン」というほど、たいしたことはやってないけど……。そもそも、イノベーションを生み出すのは“Play”、あくまで遊び感覚からだと思っている。
アイデアを思い付く最初の段階で、「ビジネスとして、成功するか、失敗するか」なんて考えていると、新しい発想は出てきづらい(笑)。
「俺の作ったロボットを見て、ビックリした人が、どんな顔をするかな?」みたいなことをスタート地点にしている。
もちろん何か作れば、その過程で技術は身に付くし、ひょっとしたら作ったものが大ウケしてビジネスで成功するかもしれない。だけど、一番いいイノベーションは趣味、ホビーとしての世界で、考えるよりも本能のままに作ることから始まると考えている。
今の社会はいろいろな側面があり、複雑になってきている。もちろん研究機関があり、新しいものを生み出すための組織もある。だけど、面白いアイデア、イノベーションは、自分たちの楽しみとしてMake:をしながらその中で気付いたこと、作ったものを見た人と実際にやりとりして気付かされたことの中にあるのではないか? と考えているんだ。
プログラミングとMake:の違い
──これまでのプレゼンでいつも、「手で」という言葉を多く使っています。一方、オライリーではプログラミングの本も多く出しています。手を使うMake:と、プログラミングでものを作ることの違いは、どういうところですか?
それは面白い質問だ! いろんな方向から、いろんな言葉が出てくるね。
コンピュータのアプリケーションと実際に触れる物質。Make:で扱うのは、「物理的に触れるアプリケーション」といえる。物質的で身体的な、手で触れられる世界で、コーディングやハッキングを行いたい。
教育では、抽象的な概念を、黒板に書いて教えることが多いけど、実際に理解が深まるのは、具体的なものを、自分の手で操る時じゃないかな?
例えばロボット。画面の中のロボット、黒板に書いたロボットは、ロボットじゃないよね。実際にその場にあって、何かにぶつかって動かなくなったり、壊れたりするものがロボットだ。画面の中でロボットを見る/作る体験と、実際にロボットを見る/作る体験は、大きく違うよね。
今は抽象的な概念が扱うものが進化して、何でもバーチャルにできるようになったけど、だからこそむしろ目の前で見たときの感動が大きくなって、もっともっと物質の世界に触る重要性、Make:の重要性が強まったのではないかと思っている。
──Maker Faireの名物、Coke Zero & Mentos(コーラにメントスを打ち込んで噴出させるショー)の前説でも、「物理的な現象を、目の前で見ることに意味がある!」という趣旨の言葉がありました 前説でも、「物理的な現象を、目の前で見ることに意味がある!」という趣旨の言葉がありました
ああ、アレは面白いね。そう、まさに目の前で見ることに意味があると思う。
──コンピュータがあらゆるものに入ってきてクラウドと接続される時代となりつつあります。スティーブ・ジョブズとウォズが、ガレージで“パーソナル”コンピュータを作っていた時代に比べて、いろいろなものが変わってきていると思います。特に最近・近代のMake:シーンは、どう変わりつつありますか?
コンピュータがあらゆるところにあるようになって、アナログとデジタルの世界の間の接続点が、いろいろなところにできていると感じるね。
例えば、よく行われているもので「iPhoneで写真を撮って、クラウドにアップロード」する。ここではiPhoneが、デジタルとアナログの接続点となっている。
手元にある端末の性能や解像度は、あまり関係のない時代になってきている。例えばArduinoは安くて、性能もよくないコンピュータだ。だけど、多くのMaker、特にアーティストたちがそれを「アナログとデジタルの接続点」として使っていることがムーブメントになっている。何かにインタラクションさせてランプをともしたり、ロボットを動かしたり。アナログ・物理的な世界とデジタルの世界のデータを、どう交差させて何をアウトプットさせるかが、アイデアになってくる。
デジタルとアナログの接点の例をもう1つ。今度は情報がクラウドから降りてくる例として、Googleの自動運転カーがある。これまでの技術の使い方だったら、車自体にセンサをたくさん詰んで、性能をどんどん上げていくという方向だったと思うけど、彼らはネットワークから地図を与えて、地図上のソーシャルデータを与えることで、車と道の関係性を変えようとしている。
デジタルのフィールドとアナログのフィールドの間、そのどこに立ってどういう視線で見るか、どの視点でもそれぞれの面白さがあるので、選び方が大事になっているね。
全員が消費者であり、Makerでもある未来
──日本のMake Tokyo Meetingは、とにかくハイテクノロジー・未来への憧れが強く出ているのに対し、アメリカのMaker Faireはスチームパンクに代表されるレトロなモノが、ハイテクノロジーなものよりも多く出展されているのを感じました。未来はどういうものになると考えますか?
未来がどうなるかなんて分からないよ! たぶん、スチームパンクじゃないと思うけど(笑)。 ある意味で、僕らがやってることは全部未来を作ろうとしていること。いつでも、これまでにないものを作ろうとしていて、それ以外の試みはないよ。
もちろん、何でもゼロから作ろうとしているわけではなくて、過去の成果物、コンテンツに寄って、そこに新しいものを加えようする。スチームパンクなんかはそうだよね。創造はそういうもので、多くのMakerが、これまでの作られたものをいろいろ見て、そこにプラスアルファ、別のアレンジを加えようとしている。
未来については分からないけど、社会や教育がいろいろ変わっていって、「全員が消費者であり、Makerでもある」社会になるとよいと思うね。どうやればそうなるかは、よく分からないけど。
エンジニア=Makerと思う人が多いのは、ちょっと寂しいね。言葉の定義だけ変えれば、全員がエンジニアに、Makerになり得る。ケーキを作ったり、ランチのメニューを考えたりするのだってMake:だ。デザインも本来、エンジニアリングのとても大事な部分で、デザイン=よくするために最適化することは、誰でもやってるでしょ?
コンピュータだって、25年前には、「特殊な人たちが使うもの」で、今日みたいにみんなが持っていることなんか誰も想像していなかった。すべての人がMakerになるのは、そんなに夢物語ではないよ。
これまでのことを総称すれば、「“知っている”から“できる”へ」 「“想像の世界”から“実際の世界”へ」世の中がそう変わっていったら、面白いと思っているよ。
国家や資本家のやっていたことが、誰でもできるように
ちょうど、ランチを食べながら、KickStarterについて話していたんだ。Makerなら、「Make:して、Maker Faireに出展したりしていたら、作ってたものが、思わず仕事になってしまった!」ということは誰もが夢見るし、すごく関心がある。Make:で何かビジネスにならないか、Make:からなにかビジネス事例が生まれないかということはみんなが気にしている。
その中でKickStaterに特別な意味があるのは、お金が集まることだけなく、「“俺のアイデアがみんなに応援されてる”ことが具体的に分かる」ということ。お金だけじゃなくて、そこが最も大事なんだ。「俺のアイデアに価値がある」ということを、銀行員や資本家が決めるんじゃなくて、社会のみんなが応援してくれることが。
銀行員や資本家が、最も社会のニーズをつかんでるとは限らない。最も投資が集中するアイデアが、最も優れているとは限らない。KickStaterはそれを証明した。それがすごく面白く、興味深く、意味がある。
もう1つ。具体的な“もの”として面白いのは、Makerの中の発明家が、自ら工作機器を作り出していて、それが作者以外のみんなにも使われていることだね。
情報を収集してシェアし、お互いのツールや意見を提供する。それによりどんどん人々の生産性が上がり、これまで個人では絶対にできなかったことができるようになってきている。
例えば、カナダの高校生が成層圏まで気球を飛ばしたよね。ほかにも人工衛星の開発みたいな、かつては国家レベルでたくさんのお金が必要だった話が、数百万円で、ヤル気のある高校生でもできるようになっている。心の準備さえできれば、何でも試せる時代になってきている。それはすごくうれしいし、ワクワクする。
作ることと遊ぶことの境目を曖昧にする
──日本の社会を変えた世界からの流れを僕が3つ挙げるなら、オープンソースとWeb2.0、そして今のMake:だと思います。その3つにはいろいろと共通項があると思いますが。
その3つは、同じものを別々の側面から表現した言葉といっていいんじゃない? まずオープンソースは、ソフトウェアの開発を個人からコラボレーション中心に移した。ソースの公開は、コラボレーションを可能にするための機能で、「ソフトの作り手が変わった」ことがオープンソースの現象だと思う。
Web2.0は、あらゆる人間が付加価値を付けられるようにした。それまでは、開発に関わるにはスキルが必要だったけど、ソーシャルにより支持や意見の表明がしやすくなったことで、開発者以外もものを作り出すことに参加できるようになった。オープンソースは社会の制度、Web2.0は人間同士の関係性を表す言葉になる。
そこで、Make:を説明するなら、「作ることと遊ぶことの境目を曖昧にする」「参加することと作ることの境目を曖昧にする」ということかな。これは、オープンソースにもWeb2.0にもいえることだね。
Make:の特徴はもう1つ。「誰でも、Make:の雑誌を読んでなくても、イベントに参加しなくても、Makerを名乗れる。中心のないムーブメントである」ということ。いろいろなところで人が集まって、それぞれのノードが自律して、シェアし合うことで成り立っている。
Webがあり、コラボレーションのツールが発達することになって、世の中全体がより、そうした「中心がなく、各ノードが自律する」構造に向いてきている。
もう1つ付け加えるなら、オープンソースの活動と共通していることとして、「参加者同士がお互いに学び合っていて、それによってもっともっと面白くなってきている」ことだね。
例えば、イベントを開催しても、面白くならないことはあるかもしれない。出展物が全部つまらなくなることはありえる。いろんなイベントが、やったけど面白くならないことがある。
でも、Maker Faireは絶対につまらなくならなくて、毎回面白くなっていく。なぜなら、参加者同士が、興味の近いところで結び付いて、「もっと面白くしよう」とやりあって、全体を面白い方向に向けている。個人同士がシェアしてお互い学び合うことで、全体がよくなっていく。これは人間の本能と結び付いているから、素晴らしいんだ。
──僕も、最初は1人でMTMを見に行って、次は友達をたくさん誘って見に行って、次は友達と一緒に出展することになりました。多くコミットするほど、ますます楽しくなりました。
それはすごく典型的な流れだね。素晴らしい。1人で行き、友達を連れてきて、そのうちみんなで楽しむために出展するようになる。
日本のMaker、っていわれると、僕はいつも岐阜の203号さんの「へんなあみもの」を思い出す。あれ、面白いけどヘンで、変わってるよね。Makerは、ある特定のタイプの人間ではなく、スキルでもない。いろんなMakerがいるし、すべての人がMakerなんだ。
それぞれが、誰にも強制されず、自分が作りたいものを作る。作ったことによって興味の近い人同士が友達になる。風変わりなものでもなんでもね。そのやったことを通じて友達を作っていくものだと思う。
──「何を作ろうとするか」は、すごく作り手の文化や個性に依存していて、アメリカで作られたものはアメリカっぽいし、日本で作られたものは日本っぽい。でも、クオリティが高いものは世界中で楽しめて、iPhoneもマリオも世界中で楽しまれている。
そう思うね。日本でMaker Conference Tokyo2012に参加した後、次は韓国のMake:イベント、その次は台北のMake:イベントに行きます。それぞれのMakerの作った面白いモノをみるのを、すごく楽しみにしているよ。また、東京のMaker Faireで会いましょう!
筆者紹介
高須 正和 @tks
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。今年のMaker Faireに休暇で行ってきたことが、このインタビューにつながりました。
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