企業は案件を取れる優秀なリーダーがほしい:IT業界 転職市場最前線(3)
平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。
不況により求人案件は減少を続けてきたが、復調の兆しが見えてきたことを前回お伝えした。2009年6月もその傾向は続き、ミドル層を中心に積極的な採用を行う企業が増え始めている。しかし、選考ハードルは依然として高く、ローレイヤ層の転職は厳しい状況が続いている。
採用を継続・再開する企業でも、予算の削減傾向は根強く、「より低コストかつ優秀な人材を」という考えから、人材紹介会社や求人媒体に対する要求は厳しさを増している。
先月の転職市場を俯瞰(ふかん)し、転職市場動向や求職者・企業・求人媒体の状況を見ていこう。厳しい状況にある新卒採用の状況についても合わせてレポートする。
最も転職しやすいのはミドル層
昨年から減少を続けていた求人数は5月ごろから下げ止まりの様相を見せ、少しずつではあるが新規の求人が出始めた。
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しかし、いわゆる「手を動かすだけ」のプログラマを求める求人案件は非常に少ない。プロジェクトを管理・進行できるリーダー、マネージャクラスに採用ニーズが集中しているのだ。各社ともメンバー層は充足(または過剰ぎみ)であり、彼らをまとめるポジションが不足しているようだ。このため、プロジェクトリーダーやマネージャ職は優遇されている感がある。
こうした背景があるため、いま最も転職しやすいのは年収500万〜700万円のミドル層だといえる。ハイレイヤ層は転職希望者の増加に求人数が追い付かず、ローレイヤ層は応募できる求人案件が圧倒的に乏しいのが現状だ。
中小企業を中心に、書類選考時の選考ハードルを下げる企業が見られるようになったものの、依然として選考水準は高い。また、より高い経験とスキルを求めながらも、年齢・年収・スキルを絞り込んだピンポイント採用が多くなっている。
ネットワーク・サーバ系のエンジニアは、開発系エンジニアほど求人数の急激な減少は見られない。ただし、今年1月には「ネットワーク設計・構築で経験3年以上の人材」を求めていた企業が、現在は同じ職種への応募に「5年以上の経験」を求めている——というようなケースが見受けられる。いかに選考ハードルが上昇しているかが分かる。
人材紹介会社、6社以上の利用者が34%!
長引く不況により、求職者の転職活動は長期化する傾向が強まっている。
先にも述べたように、求職者過多、選考ハードルの上昇といった昨今の転職市場において、ローレイヤ層の転職は厳しい状況だ。失職者の中には、なかなか就職先が決まらないためか、本来「志望理由」を述べるべき面接の場で「辞めた理由」や「辞めさせられた経緯」などを切々と語る人が増えていると聞く。採用企業が求める人物像とのギャップは増すばかりだ。企業は離職期間(ブランク)をネガティブにとらえるため、「離職期間が長くなるほど転職が難しくなる」という悪循環が生まれている。
こうした転職活動の長期化に伴い、求職者の人材紹介会社の利用(併用)数は増加している。ワークポートの転職支援サービス利用者を対象としたアンケート調査では、「人材紹介会社 利用数6社以上」という回答が34%を超え、調査開始以降初めて1位となった。また、特定の企業に絞った転職支援を求める声は激減し、「可能性があればたくさん応募していく」という転職スタイルの求職者が前月から5.8%上昇した。
雇用不安や転職に対する焦りから、ほかに選考中の企業があっても、最初に内定が出た企業への入社を決めるケースが急増している。しかし、早急な判断が入社後のギャップへとつながり、再び転職活動を始めるケースが少なくない。厳しい状況だからこそ、冷静な判断が必要だ。
企業は案件が取れる優秀なリーダーを採用したいが……
採用企業各社の採用予算削減、選考ハードルの引き上げは継続しているものの、緩やかな景気回復に伴って新規の募集は確実に増えてきた。
新たに採用を再開する企業はまだ少ないが、不景気の中で勝ち残ってきた企業が今後の景気回復を見越した人材確保に動いており、特に「Web(自社サービス)業界」や「ゲーム業界」のクリエイター系職種の採用が活性化している。中途採用を停止・休止していた大手企業からも「下半期を見据えて採用再開の準備を進めている」という話が聞かれるようになっている。求職者にとってはうれしい傾向だろう。
下請けを中心とした企業は、少しずつではあるが採用を再開し始めている。ただし、かつてのように人員確保を目的とした採用ではなく、案件を獲得できる優秀なリーダーやマネージャを採用し、社内の待機要員をアテンドしたいという考えのようだ。しかし、買い手市場といわれる昨今の景況においても、このようなスタンスの採用は容易ではない。求職者も苦しいが、企業も苦しいのである。
採用企業の求人媒体使用戦略に明らかな変化
徐々に新規募集が増えているとはいえ、人材紹介や求人媒体の利用状況が元に戻っているわけではない。正社員の有効求人倍率0.27倍という買い手市場を背景に、各企業は採用予算を大きく引き下げている。その結果、これまでは採用決定者の「年収の3割程度」が標準であった人材紹介サービスの紹介手数料において、「40万〜60万円程度」という新たな価格帯が生まれた。求人媒体各社は戦国時代の様相を呈し、応募保証・採用保証などの成果報酬型が主流になりつつある。
求人媒体に求められる要素は次の5つだ。
- 初期費用
- トータル費用(1人当たりの採用単価)
- 応募者の質
- 採用の確実性(保証)
- 営業担当者との相性
また、求職者の増加によって応募者の母集団の形成が容易となった昨今、求人広告の活用法にも変化が表れている。検索結果一覧ページで上位表示させるなどの「露出を増やして応募者を獲得する採用手法」から、「露出を抑えて過剰な応募を抑制し、求める人材だけを効率的に選考する」傾向が強まっているのだ。
このため、求人サイトのトップページに表示するバナー広告やテキスト広告などのオプションに比べ、年齢・性別・経験などでターゲットを詳細にスクリーニングしてアプローチできるメール系オプション商品が人気だ。高額になりがちな「求人広告を上位に表示させるプラン」に替わり、安価なプランで基本掲載料を抑え、スカウトなどのメール系オプションを組み合わせる採用手法への需要がしばらく続きそうだ。
新卒採用の出足が鈍化、学生に不安が広がる
不況下にあって停止・休止が相次ぐ中途採用とは異なり、新卒採用は多くの企業が「予算、採用人数を減らしてでも継続したい」と考えているようだ。しかし、不況の影響は抑えられず、6月に入っても予算や採用人数の確定していない企業が目立つ。「年明けから採用活動を開始する」という企業は少なくない。
それゆえ、6月を過ぎても学生の内定保有率は極めて低い。比較的順調な就職活動ができているのは、教授推薦を利用している理系学生だ。対照的に苦戦を強いられているのが、採用枠が縮小した事務系職種を志望する学生である。また、秋採用を行う企業が減少しており、激しい競争率が続く見通しだ。
各社の採用予算の削減に伴い、採用方法に変化が表れている。業界大手媒体から安価な媒体へ利用を切り替えたり、初期費用のかからない成果報酬型の新卒人材紹介を利用したりするケースが多く、応募者母集団の形成よりもターゲットを絞った集客・採用法を模索する企業が増えている。2011年入社の新卒採用市場は「数より質」「低コスト」の2つのニーズが圧倒的に高く、いままでのような「新卒採用=媒体活用」の構造が崩壊しつつある。
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