平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。
IT系転職市場は、前月に引き続き上向き傾向が続いている。来期(4月以降)を見据えて、新たな採用活動に乗りだす企業が増えている。
回復の遅れが目立っていた「若手のポテンシャル採用」や「ネットワークエンジニア」「デザイナー」などの職種でも、少しずつ新規求人が見られるようになった。また、一度は沈静化の動きが見られたソーシャルアプリ関連求人が2月以降は急増。mixiアプリ、モバゲーアプリ、Facebookなどの台頭によってマーケットが盛り上がり、転職市場も勢いづいている。
市場のニーズや採用動向をつかみ、転職成功への可能性を広げてほしい。
年明け以降、Web業界の採用意欲は上昇傾向が続いている。
Web系開発エンジニア・Webコーダーはもとより、広告営業職やデザイナー職での求人ニーズが回復に向かっている。ただし、広告営業職やデザイナー職の募集数は少なく、これまで低迷が続いていたこともあって競争率が高い。いかに早く情報をキャッチできるかが明暗を分けることになりそうだ。
オープンプラットフォーム化によるソーシャルアプリ事業への参入企業増加が追い風となり、Web系開発エンジニアのニーズは一層高まっている。PHP/Perl/Ruby/JavaなどによるBtoC向けサービス開発者が求められている。
各社の求める人物像は非常に似通っており、採用に苦戦している企業が少なくない。優秀なエンジニアを確保するために、新たな採用手法を取り入れる企業も出てきた。いまだ買い手市場の続く転職市場において、Web系開発エンジニアは売り手市場が続いている。
長く需要のなかった「Webインテグレータのデザイナー職」で、新たな求人が見られるようになった。求人が激減した2009年初頭から1年以上を経て、ようやく見え始めた明るい兆しといえる。ただし、こうした案件のほとんどが「採用枠1名」や「急募」の求人であり、募集が早期終了となるケースが少なくない。
ディレクター/プロデューサー求人では、引き続きEC関連(インターネットショッピングモールやインターネットオークション、ドロップシッピングなど)のニーズが高い。続いてモバイルゲーム関連、Webポータルサイト関連、エンタメコンテンツ関連で活発な採用活動が行われている。2009年中はほとんど見られなかったインターネット広告関連のディレクター/プロデューサー職で新規求人が増え始めている点にも注目したい。
2月以降、広告営業職の求人が目立つようになった。広告営業職では、インターネット広告を扱った経験がなくとも、近しい商材での営業経験があれば応募可能な求人が比較的多い。そのため、応募が殺到する傾向にあり、早期に募集を終了するケースが見られる。他者との差別化を図るため、「積極性」「情報収集力」「実績」の3点をいかにアピールできるかが、転職成功の鍵といえる。
モバイル業界は引き続き勢いがある。エンジニア系、クリエイター系ともに求人数は増加傾向にある。
ただし、求職者側は「企業成長に勢いのあるモバイル企業にチャレンジしたい」一方で「年収は下げたくない」という願望があり、企業側の求める人材像と乖離(かいり)が見られる。若手の募集が多いモバイル系企業への転職は、ある程度の年収ダウンを考慮する必要があるだろう。
モバイル系アプリケーション開発分野では、SNSやコンテンツプロバイダ、ソーシャルゲーム開発企業からの求人が多く、活発な採用活動が続いている。従業員数が数名〜数十名程度の中小規模の企業からも新たな求人が発生した。特にLinux環境下におけるPerl/PHP/Rubyでの開発経験者が人気だ。ただし、年収300万〜400万円程度の20代を求める求人が大多数を占めるため、30代以降のエンジニアには厳しい状況だ。
クリエイター系職種では、コンテンツプロバイダからの求人が目立つ。デザインや制作だけでなく、企画・ディレクションなども幅広く担える人物を求める企業が多い。「ただ作る」だけの職人気質の制作者よりも、「モバイルというツールを使って何がしたいのか(できるのか)」といった本質に言及できる人物が求められている。
ソーシャルゲームも活発で、関連職種において多くの新規求人が発生した。ソーシャルゲームはまだ若い分野のため、モバイル業界の経験がなくとも、PCサイトのディレクション業務などが評価される傾向にある。
好調なWeb系エンジニアと比べ、業務系エンジニアをはじめとするシステム業界では採用ニーズ回復の遅れが目立つ。しかし、金融/医療系システムを筆頭に、少しずつではあるが回復の兆しが見え始めている。特に、外資系企業が勢いを盛り返しており、エンジニア職だけでなくさまざまな職種で新たな求人が見られるようになった。
システム業界の採用ニーズは緩やかな回復傾向にある。昨年までは需要の見られなかった複数の職種において、新規の求人が発生した。ただし、選考ハードルが非常に高く、本格的な回復とはいいがたい。
ネットワークエンジニアや社内システムエンジニア(SE)職においては、専門特化したスキルの保持者よりも、幅広い業務を手掛けられる人材が求められている。
ハードウェアメーカーからの求人が少しずつ回復の傾向にあり、制御・組み込み系エンジニアや、家電製品・医療用ハードウェアに携わるエンジニアの求人が増えつつある。ただし、求められるスキルや経験のレベルは高く、書類選考時点で不通過となるケースが多い。
ソフトウェア企業からの求人ニーズも、国内資本・国外資本を問わず緩やかな増加傾向にある。プログラマ/SEやプロジェクトリーダー(PL)/プロジェクトマネージャ(PM)といった職種だけでなく、研究開発者・製造者・品質管理・マーケティングなどのポジションでも新たな求人が見られるようになった。
社内SEポジションも新規求人が増えている。社内SEはバックオフィス部門扱いとなる企業が多く、ほかのエンジニアポジションと比較すると採用が後回しにされる傾向にあるが、2月以降はわずかながら求人数が増加した。社内SEとして社内向けシステムやインフラ整備を行うのはもちろんのこと、自社で展開する商用サービス向けの開発やインフラ整備も担える人材が求められている。
システムインテグレータ(SIer)からの求人ニーズに関しては、銀行、クレジットカード会社、生損保を中心に金融関連求人が増えている。これまでは需要の少なかった製造業界での経験を求める求人も微増した。ただし、プロジェクト規模が小さく、開発期間の短いものが多い。本格的な回復には時間を要する見込みだ。
下流工程で業務を行うSIerでは、案件の単価下落を受け、採用に予算を掛けられない状況が続いている。
昨年から低調が続き、回復の遅れが懸念されていたネットワークエンジニアの求人状況については、(求人数が)わずかながら増加した。ようやく底を脱したように思われるが、求められるスキルレベルが高く、設計・構築経験だけでなくPL/PM経験はほぼ必須と考える必要がある。
インフラ系エンジニアは継続して募集がある。ただし「Linux、UNIXサーバの設計・構築経験」が必須であり、加えて言語(PHP、Perlなど)経験を求めるケースが増えている。Windowsのみ、ネットワークのみの経験しか持たない求職者にとっては厳しい状況だ。
ただし、「若手であれば運用経験のみでも人物重視の採用を行う」という企業が少しずつ見られるようになった。設計・構築経験がなく、これまで苦戦を強いられていた若手エンジニアには朗報といえる。
サーバエンジニアの需要は高まっており、運用・監視ツールの設計や導入に関する求人が増加している。
ゲーム業界では企業によって明暗が分かれているものの、業界全体としての採用意欲は依然として高い。特に、ソーシャルゲーム分野では一気に採用ニーズが顕在化した。
ソーシャルゲーム分野での採用は、これまでエンジニアの求人に限定されていた。だが、2月以降はデザイナーや企画職の求人も増えつつある。ただし、こうした採用を行っているのは主に有名ベンチャー企業であり、選考のハードルは高い。ソーシャルアプリ関連求人においても同等の水準が求められるため、内定獲得までは険しい道のりを覚悟する必要がある。
前月から引き続き、パチンコ・パチスロ向け開発者の採用が活発だ。しかし、これまではパチンコ・パチスロに限定せず、広くゲーム開発経験者からの応募を受け付けていたが、「パチンコ・パチスロ開発の経験必須」とする求人が増えている。
コンシューマー機を中心としたゲーム制作ディレクター/プロデューサーの採用には慎重な姿勢の企業が多い。一方、オンラインゲームやモバイルゲームを手掛ける企業からの採用ニーズは好調だ。モバイルゲームディレクター(プロデューサー)を早期に獲得したいとする急募案件や、ソーシャルアプリ関連ポジションで求人が増加するなど、ニーズの高まりが見られた。
デザイナー職の募集においてもオンラインゲームが好調だ。ティーザーサイト(ゲームタイトルごとの特設サイト)を手掛けるWebデザイナー職の募集が最も多く、ゲームCGデザイナー(キャラデザインなど)は競争率が高い。
ソーシャルアプリ関連でもデザイナー職の新規求人は見られたが、エンジニア職と比較すると圧倒的に少ない。ソーシャルアプリ市場がさらなる盛り上がりを見せれば、今後の採用ニーズにも期待ができそうだ。
営業職の転職市場は非常に活気を帯びている。前回「営業関連職種が増加した」とお伝えしたが、今月はさらに13%以上の伸び率を見せた。
前月より好調であった外資系ソフトウェアベンダだけでなく、新たに大手SIerがさまざまなポジションで採用を開始した。ダイレクトセールス、パートナーセールス、チャネルセールス、マーケティングなどが挙げられる。外資系営業職では、年収600万〜1000万円を超える求人が珍しくない。
また、若手ポテンシャル採用を行う企業が増えつつある。従業員数30〜100名程度の成長中のベンチャー企業が多い。業種別では、インターネット広告関連事業(リスティング、SEOなど)や携帯コンテンツプロバイダ、自社メディアを持っている企業などが多い。こうした若手のポテンシャル採用は年収350万〜500万円程度で、「前職での営業成績」「人柄」が重視される傾向にある。採用枠は1名であることが多く、将来の管理職・幹部候補として期待できる人材を厳選して採用している。
バックオフィス系のポジションでは、引き続き経理・財務職の採用が活発だ。採用企業の入れ替わりはあるものの、求人件数は安定している。
経理・財務職をはじめとするバックオフィス系職種は、業界を問わず活躍できる職種ではあるが、より即戦力が求められる中途採用では、特定の業界・業種での経験が必須条件に含まれることが少なくない。また、経験している会社の規模(上場/未上場、従業員数など)が限定される場合もある。
職務経歴書に「仕事内容」は丁寧に記載しても、在籍していた企業情報は簡単な内容で済ませているケースが目立つ。だが、就業してきた企業の事業内容や会社規模(上場/未上場、従業員数、資本金、売上高など)をしっかりと明記することが重要だ。
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