不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
ちょうど1年前は、IT業界の転職市場に復調の兆しが見え始めた時期であり、誰もが期待と不安を抱きながら2010年を迎えたことだろう。
1年を経て、市場はどう変化しただろうか。
ソーシャルアプリ市場の拡大、スマートフォンの普及、ECサイトや割引クーポン共同購入サービス(フラッシュマーケティング)の盛り上がりなどを受け、多くの企業が新たな人材の獲得に力を入れている。低迷期に採用を見合わせていた企業からも、募集再開・積極採用の声が聞こえるようになった。また、事業や業績の好調を受け、バックオフィス系職種にも採用ニーズの拡大が見られる。
もちろん、業界・職種によって好不調はあるものの、確実に前進したといえるだろう。チャンスを逃さずに転職を成功させるためにも、最新の動向をチェックして、可能性を探ってほしい。
年末年始を挟むこの時期は例年、企業側の採用意欲が低下する。Web業界の転職市場においても、前月と比較して新規求人数はやや減少した。しかし、各社の採用意欲は依然として高く、多くの求職者が転職に成功している。
転職成功事例では、エンジニア職が約半数を占める格好となった。
引き続きLAMP、PHP経験者の人気が高いほか、「PHP、Perl、Javaなどを含む複数言語のうち、いずれかの経験があれば応募可能」とする求人が目立つようになった。最近ではRuby on Rails経験者の募集も増加傾向にある。エンジニアの獲得競争が進む中、募集要件を広げて応募者の獲得を目指す企業が増えている。
Web系デザイナーの求人数には大きな伸びが見られなかったものの、前月から引き続き、自社サービスやコンテンツ企画・運営を行っている企業からの募集が活発だ。「企画・ディレクション」「運用(アクセス解析など)」「改善提案」などの経験者が求められる傾向にある。こうした経験は、履歴書・職務経歴書に記載していない求職者も多いため、注意したいポイントだ。
ディレクター/プロデューサー職では、ソーシャルサービスやECサイト運営企業からのニーズが堅調な伸びを見せている。求人数は前月比で10%増となった。モバイル業界の勢いには及ばないまでも、積極的な採用活動を行っている企業が多い。
モバイル業界は好調が続いている。
制作会社や広告代理店が、これまでの受託業務に加え、ソーシャルゲーム/アプリやスマートフォン(iPhone/Android)向けコンテンツの自社制作に積極的な動きを見せている。
いま、モバイル業界は大きな変革を迎えようとしており、幅広いスキル・経験を有している人材が求められている。非常にトレンドの動きが速いため、最新情報を常にキャッチアップする情報感度が必要だ。
ソーシャルプラットフォーマーやソーシャルアプリケーションプロバイダ各社の採用意欲は依然として高い。
これまではPHP経験者に人気が一極集中していたが、スマートフォン上で動くC、C++、Javaの経験を評価する企業が増えている。スマートフォンの需要拡大により、「スマートフォン担当」として採用したい意向のようだ。
スマートフォン市場が拡大する中で、「Flashクリエイター」の募集が目立つようになった。2010年末からFlashの閲覧が可能なAndroidスマートフォンが市場に出回るようになり、ソーシャルアプリやスマートフォン向けサイトでのFlashのニーズが高まっている。特にActionScript経験者に採用ニーズが集中している。スマートフォンの機能はさらなる拡大が予想されるため、今後のニーズの拡大や変動に注目したい。
モバイルディレクター/プロデューサー職の求人は前月比で20%増と、積極的な募集が続いている。特にソーシャルゲーム開発関連での募集が多かった。
かつては「モバイル業界のみで長年経験を積んだ人材」が求められていたが、現在はPC向けWebサイトとモバイルの双方で経験を持つ人材の方が、即戦力として評価される傾向にある。
ハードウェア/ソフトウェアの自社プロダクトを抱える企業からの採用状況は、足踏み状態が続いている。選考ハードルを上げていることもあり、採用に苦戦している企業が少なくない。
一方、SIer(システムインテグレータ)ではWebエンジニアやネットワークエンジニアの採用が活気を帯びてきた。SIerでは採用人数を制限せずに募集を行い、パッケージベンダは募集人数をあらかじめ定めて募集を行う傾向がある。
ハードウェアメーカーの採用意欲に回復は見られなかった。セールス系職種を中心に恒常的な募集はあるものの、選考ハードルが非常に高いのが実情だ。バックオフィス(経理)や海外(東南アジア)勤務の求人が新規に発生したが、いずれも採用に至るケースは少ない。
ソフトウェア業界の採用動向にも大きな変化はなく、セキュリティやERP(特に会計システム)ソフト、スマートフォン関連のエンジニア募集が続いている。また、30歳前後から40歳くらいまでのプロジェクトリーダー/マネージャのポジションでは、高度なスキル・経験が求められるため、長期にわたって募集を行っているものの、採用に至っていない企業が多い。
金融系(銀行・証券・生損保)や官公庁向けシステム開発経験者を求める求人が大半を占める中、Web系エンジニアの新規募集開始が目立った。25歳から35歳くらいまでを対象とした上流工程経験者を求める傾向が強い。実際に、大手SIerへの転職成功事例は増加しており、特に30歳前半のリーダー/マネージャ経験者の成功事例が目立つ。
前回お伝えした「20代エンジニアのポテンシャル採用」については、募集開始から採用決定までが早く、2〜3週間程度で採用が決定することは珍しくない。このような求人を見掛けたら、即座に応募することが転職成功の鍵といえるだろう。
ネットワーク/サーバエンジニア職は、多くの求職者が転職に成功している。自社サービス運営企業だけでなく、SIerからの採用も多かった。
SIerでは特に「急募」とする求人が多く、応募(書類提出)から2週間程度で内定を得るケースが少なくない。Linux/UNIX経験を必須とする求人が主流だが、Windows系の求人もじわじわと増えている。
また、これまではあまり見られなかったシスコ、ジュニパー、アラクサラなどの製品を用いたネットワークエンジニアの求人が微増。求人ニーズに広がりが見え始めている。
ソーシャルゲームが業界をリードする中、大手・中堅パブリッシャーからもソーシャル市場に参入するためのWeb系人材の募集が増加している。Webエンジニアだけでなく、Webディレクターやデザイナー職のニーズも顕在化した。
ソーシャルゲームディレクター/プロデューサーの求人は前月比15%増となった。
ソーシャルゲーム業界の転職市場は引き続き活況にあるものの、ポジションによってはやや落ち着きが見られるようになった。ディレクターやデザイナー職の求人は、現状維持または緩やかな減少傾向にある。急速に人材を獲得した各社が、教育や組織固めの段階に移行しつつあるようだ。
PS3やXbox 360など、新世代機経験者にニーズが集中している。プログラマだけでなく、デザイナー職のニーズも高い。しかし、求職者の側を見てみると、こうした新世代機の経験者は非常に少ないのが実情だ。ニンテンドーDSやWiiのヒットにより、各社がこれらの開発に力を入れた結果、PS3やXbox 360の開発者育成が後手に回ってしまったことが要因と考えられる。裏を返せば、PS3やXbox 360の開発経験者にとっては、転職の好機といえるだろう。
割引クーポン共同購入サービス運営企業からの採用が積極的だ。1カ月で数名〜十数名を採用している企業もある。メンバークラスだけでなく、営業マネージャクラスの求人も目立つようになった。
Webサービス運営企業では、若手営業メンバーやリーダークラスの人材を事業責任者候補として迎え入れるケースが増えている。経験は少なくても、「起業家精神が旺盛」「サービス立ち上げに意欲的」といった人物の採用を行っている。
また、「女性営業職を積極的に採用したい」とする企業が増えていることも最近の特徴といえる。
募集終了となる求人と、新たに募集を開始する求人数が均衡しており、全体の求人数に変動は見られなかった。Web系企業からだけでなく、システム開発会社からの募集開始が目立った。ただし、システム開発会社からの求人は募集要件に統一性がなく、業界全体としてのニーズ拡大とまではいえない状況だ。
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