スマートフォン向けアプリ開発者の評価が急騰! 大量採用する企業もIT業界 転職市場最前線(22)

不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。

» 2011年02月22日 00時00分 公開
[ワークポート]

 例年、年明けは各社の採用意欲が低下する傾向にある。

 本年もその傾向は変わらず、好調を維持してきたIT業界でも、求人数・採用実績において若干の減少があった。しかし、ソーシャル市場に引き続いてスマートフォン市場がにぎわいを見せているほか、営業職・サポート職でニーズが拡大するなど、明るい話題も見られた。

 また、グーグル日本法人による200名採用の発表をはじめとして、新サービスの展開に伴って数十名単位で大量採用する企業が増えてきている。転職成功の可能性は広がっているといえるだろう。

 こうしたチャンスをつかむためには、いち早く情報をキャッチし、応募につなげることが必要だ。特に、大量採用の場合は、募集開始直後が最も採用意欲が高く、ポテンシャル層も含めた幅広い選考が行われることが多い。応募者が殺到すれば、早期に募集終了となる可能性があるため、「応募までのスピード」が大きな鍵となる。

 転職市場が上向いているいまだからこそ、積極的に情報収集を行ってほしい。

Web業界

 2011年に入ると、Web業界の転職市場に落ち着きが見え始めた。

 これまではエンジニア職の採用が主流であったが、1月はクリエイターの採用が増え、ワークポートでの転職決定実績は、クリエイターの転職決定数がエンジニアの決定数を上回る結果となった。

エンジニア:落ち着きが見え始めるも、積極採用企業は多い

 求人数・採用実績から見ると、Web業界のエンジニア職採用は、これまでと比べて減少した。しかし、募集を行っている企業の採用意欲が衰えたわけではなく、人気のLAMP・PHPを中心に積極採用を行っている企業は多い。決算期となる3月に向けて、採用活動の活性化が予想できる。

クリエイター:デザイナー募集が増加

 好調が続くソーシャル業界に続き、EC業界やWebインテグレーション業界からのデザイナー募集が増えた。

 大規模サイトを手掛ける大手企業では、業務によって職種が細分化されていることもあり、「コーダー/マークアップエンジニア」の求人が増加。一方、ソーシャル業界では、Webデザイン、コーディング、グラフィックデザインなどを幅広く担当するケースが多い。

 また、スマートフォンやタブレットPCへの展開を見据えたUI(ユーザーインターフェイス)、IA(インフォメーション・アーキテクト)の求人が増えるなど、今後のニーズ拡大が期待できる。

モバイル業界

 iPhone、Androidといったスマートフォン市場が盛り上がりを見せている。

 これまでは、ソーシャル事業内の一部としてスマートフォン向けサービスに着手するケースが多かったが、スマートフォンの普及が進むにつれて、専門人材のニーズが顕在化したといえる。

エンジニア:スマートフォン向けアプリ開発者の評価が急騰

 これまでは、ソーシャルアプリ開発エンジニアに包括して、スマートフォン向けエンジニアを募集する傾向にあった。ここにきて、「iPhone・Androidアプリエンジニア職」と的を絞った採用を行う企業が増えている。C、Objective-C、Javaのスキルが求められ、かつWeb系アプリケーション開発の経験を有している人材であれば、スマートフォンでの開発経験がなくても十分アピールできる。経験者が少ない領域であるため、エンジニアとしての価値を高めていけるポジションといえる。

クリエイター:社風にマッチする人材を若干名採用

 各社の採用意欲に落ち着きが見え始めている。経験やスキルだけでなく、「社風にマッチする人材」に絞って若干名を採用したい、という企業が多い。求められるスキルとしては、Flash、イラスト力、HTML、CSSに関する知識・経験などが挙げられる。

プランナー/ディレクター:スマートフォン向けの新職種が続々と登場

 インターネット広告代理店のモバイル部門や、モバイル事業に特化した企業からの募集が増加した。

 「スマートフォン企画」などのスマートフォン向け職種を新設して、募集を開始する企業が増え始めている。ディレクターやプロデューサー職でも、スマートフォン関連求人の増加が目立った。経験者が少ないこともあり、モバイルサイトやモバイルコンテンツの実務経験があれば、応募できる求人が少なくない。ゲームやエンタメ系コンテンツ経験者は優遇されるケースが多い。

システム業界

 Web系エンジニアを中心に、SIer(システムインテグレータ)からの求人は増加傾向が続いている。

 自社プロダクト系企業やNIer(ネットワークインテグレータ)の求人傾向に大きな変化は見られないものの、サポート系職種の増加や、求人枠(採用人数)の拡大が見られるようになるなど、少しずつではあるが景気の回復がうかがえるようになった。

自社プロダクト系:サポート関連職の求人が増加傾向

 ハードウェア業界の求人傾向に大きな変化は見られない。25歳から40歳くらいまでの営業・プリセールス職が大半を占め、バックオフィス職(25歳から35歳くらいまで)、筐体設計・組み込み系エンジニア職の募集が、少数ながら継続されているにとどまる。

 ソフトウェア業界では、これまでと同様にセキュリティやERP(主に会計システム)関連、スマートフォン向け開発エンジニアの求人が主流ではあるが、1月に入ってからサポート関連求人が増えた。25歳から30歳くらいまでを対象としたテクニカルサポート、25歳から35歳くらいまでを対象とした技術サポートSE職での募集が見られるようになった。「サーバ上で動作するネットワークソフトウェア構築運用経験」「Linux環境での簡易Webサーバ構築経験」「顧客先に出向いたサポート経験」「英語でのサポート業務経験」などが求められている。

SIer:官公庁、金融業界以外でも求人が発生

 Web系SIerを中心に、求人数が増加。これまで低調だった、エネルギー業界や運輸業界のプロジェクトに関する求人が増えた。アプリケーションエンジニアのほか、上流工程やプロジェクト管理を主な業務内容とする求人が多い。

 オープン系エンジニアの求人は微増にとどまり、まだ回復傾向とはいえない。しかし、Webアプリケーション開発者の募集増加により、オープン系からWeb系への転職を果たすケースが増えている。

インフラエンジニア:求人数は微増にとどまるも、採用枠は拡大傾向

 求人数に大幅な増加は見られないが、採用決定によって募集終了となるケースは少なく、複数名の採用を検討している企業が多い。中堅SIerでは直近半年で数十名の採用を検討するなど、採用枠が拡大している。

 インフラ系求人ではサーバエンジニア職の募集が最も多い。Linux・UNIX環境でのサーバ構築経験が必須とされるほか、ミドルウェア(Apache、Tomcatなど)を用いた経験や顧客折衝経験を問う求人が多く、選考水準は高い。

 セキュリティに関する知識や経験、CCNA・CCNPなどのCisco系資格保有は評価対象となる傾向がある。

ゲーム業界

 オンライン、コンシューマ分野では、求人傾向に大きな変化は見られなかった。

 しかし、大手パブリッシャーがソーシャル系・Web系・モバイル系人材の積極採用に乗り出している。採用までの選考スピードが非常に早く、多額の予算を投じて大量採用を行っている。

ソーシャルゲーム:求人の入れ替わりが激しく新規募集も

 採用充足によって募集終了となる求人と、新規募集求人とがほぼ同数であり、総求人数に大きな変化は見られなかった。

 1月の特徴として、スマートフォン向けのゲームアプリデザイナー募集が目立つようになった。ゲーム業界でのデザイン経験者よりも、Webデザイン、Flashデザイン経験者が求められる傾向が強い。

コンシューマゲーム:Android・iPhoneゲーム経験者は高い内定率

 オンライン、ソーシャル分野におけるディレクター・プロデューサーの求人数は、12月比で10%の増加。中でも、ソーシャルゲームの新規部署立ち上げメンバーや増員のための募集が目立つ。

 とりわけ、Android・iPhone向けゲームアプリ関連の求人は採用ニーズが高く、経験者の内定率は他職種と比べると非常に高い。

そのほか

社内SE:求人数が増加。書類・面接対策が重要

 社内SE求人が増加している。ネットワークやサーバなどのインフラ経験者を求める求人が主流だが、AccessやNotes経験者の募集も散見されるようになった。若手ポテンシャル層を募集する企業も増え始めている。

 社内SEは、ほかのエンジニアポジションと比較すると、選考における人物評価の占める割合が大きい。履歴書・職務経歴書の誤字脱字や志望動機なども厳しくチェックされるだけでなく、面接時のコミュニケーション能力も選考を左右するため、十分な準備が必要だ。

営業関連職:求人数が増加。書類・面接対策が重要

 営業マネージャ職の求人が増加。募集企業は多岐にわたり、割引クーポン共同購入サービス企業のほか、大規模ネットワークサービス企業や自社パッケージサービス企業、SNS関連サービス企業などが代表例として挙げられる。

 また、インターネットサービス事業会社が、新規サービス立ち上げメンバーの採用に積極的な姿勢を見せている。IT業界、モバイル業界での営業経験が求められるが、中には業界未経験者でもマインド重視で選考を行う企業がある。

 SNS・スマートフォン関連企業では、アライアンス営業職の募集が活性化している。ソーシャルアプリケーション・プロバイダの自社企画・制作力と、キャラクターライセンスを持つ企業とで、レベニューシェアでアプリ開発を推進していく営業職などがこれに当たる。SNS関連企業では海外進出のための海外向け営業や海外駐在型の営業職求人も増えている。

経理/財務職:求人数は一定数を維持。スタッフ層の募集が増加傾向

 25歳から35歳までの人材を求める企業が多く、中でも30歳未満の若手が採用ターゲットになっている。管理職よりも若手スタッフ層の募集が増加傾向にある。また、応募要件にPCスキルを明記するケースが目立つようになった。これは、求める年齢層が若年層になったことにより、実務経験だけでなくPCスキルやコミュニケーションスキルなどのポテンシャルを重視する企業が増えたためと考えられる。

 このほか、一般的な経理、財務業務ではなく「管理会計担当」や「予算管理担当」「債権、資金管理担当」「経営管理担当」などのポジションをピンポイントで募集する求人が増えた。


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