不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
IT業界は全体的に採用意欲の高い企業が多く、募集職種も幅広かった。特にモバイル、ソーシャルアプリ、スマートフォン関連は相変わらず堅調だ。また、海外進出を計画するなど、新展開を見せる企業の動きが目立った。
求人数が増加したことによって転職潜在層が活動を始めるようになり、良い相乗効果を感じられる。Web業界の営業職やベンチャー企業が採用のハードルを引き下げる動きが目に付き、転職しやすい時期が到来したといえるだろう。
エンジニア職とクリエイティブ職を筆頭として、営業職や企画職の募集も多く、Web業界は全体的に採用意欲が高い。
広告関連分野において好調な企業が複数あったこと、受託系企業が採用を活発化したことが理由として挙げられる。小規模・ベンチャー企業では大手に比べて採用ハードルが低く、少人数をすぐに採用したいというニーズは高い。
就業決定者全体の約20%がエンジニア職、約50%がクリエイティブ職と、二大巨頭が全体をけん引する形が続いている。求人数も前述の比率とほぼ同じであり、求職者のニーズと採用側企業のニーズがうまくマッチしているといえるだろう。
エンジニア、クリエイターに続いて好調だったのが、営業職・企画職だ。メディア運営やサポート職といった職種での転職成功例があった。スピード感のある展開が特長のWeb業界では、個人のスキルアップも早い傾向にある。そのため、これから経験を積みたいという求職者の人気が高い。
参入障壁が低いスマートフォン系開発では、自社ブランドでアプリを制作する中小企業が増加した。
年齢や転職回数など応募書類だけで判断せず、「まずは会って話す」というスタンスの企業では、採用が順調に進む傾向にある。こうしたスタンスの企業は、新技術への適応力や関心の強さを直接確かめるという狙いがあるため、「面接でいかにアピールするか」が転職成功の鍵となるだろう。
増加を続けるアプリケーション開発エンジニアでは、受託開発事業と自社サービスの採用数がほぼ同数となった。スマートフォン向け開発では中小企業も採用を拡大する傾向にあるため、求人数の増加はしばらく続くだろう。
求職者には「新技術への関心」「情報発信能力」「自学できる力」が求められている。スキルとしては、オープンソース、PHP、Java、C言語などのニーズが高い。
ソーシャルゲームやスマートフォンにおけるUI改善が盛んであり、UIデザイナー募集が増加している。新しいデバイスにおける改善・改革に伴って新たなニーズが発生する可能性は十分あるため、注目していきたいところだ。
FacebookやTwitterなどのソーシャルツール、スマートフォンを意識した事業開発ポジション、ディレクター・プロデューサー関連の求人が増加している。経験者が少ないため、さほどソーシャル性を持たないサイトの企画経験であっても、採用に至るケースが多い。
携わったWebサイトがECサイトや特定ジャンルの情報サイト、音楽・エンタメコンテンツ系のサイトであっても、BtoCサービスの企画経験であれば、十分なアピール材料になるだろう。
ハードウェア・システム業界に大きな動きはない。後者は新規求人が微増したものの、全体の求人数は横ばいで推移している。40歳ぐらいまでのプロジェクトマネージャ職、語学力必須の海外向け営業担当職の求人が目立つ傾向は変わらない。
ハードウェア業界では、ハードウェア(特にカーナビ)に関する不具合解析、改善業務の経験がある20代を採用ターゲットとした新規募集があった。他、組み込み系ソフトウェアベンダの開発エンジニアや、ITアーキテクト、コンプライアンス管理担当職などが追加され、5月からの新規求人の増加傾向はそのまま続いている。
長く採用を自粛していたシステムインテグレータ(SIer)、ネットワークインテグレータ(NIer)が採用活動を再開したため、求人総数は10%増加した。
インフラエンジニアが求人数の多くを占めるが、インフラエンジニアに次いで開発エンジニアの求人も増加している。最大の特徴は、採用対象となる年齢が引き上げられている点だろう。350万円〜600万円程度の年収レンジが7割を占めていることが懸念点だが、経験が豊富であれば応募可能な求人が目立つようになったことは見逃せない。
求人数、求職者数が共に5月を上回り、6月は業界の好調ぶりを実感した。求人数の増加とともに求職者数も伸びており、マーケットの活況が求職者を後押しした感がある。今後も同様の傾向が続きそうだ。
アバターやアイテムなどへの課金ビジネスでは、デジタルコンテンツの大量消費に伴うデザイナーの採用が急務となっている。特にニーズが高いのは2Dデザイナーで、デッサン力の高い人材が高い評価を受ける傾向にある。
オンラインゲームやソーシャルゲームにおいて、ゲームの運営に関わる企画からカスタマーサポートまでを担う「運営職」の募集が目立つ。中でもカスタマーサポートは、メールや電話でのサポート経験があれば、業界外からの経験者でも積極的に受け入れる傾向にある。6月は、念願だったゲーム業界への転職をこのポジションで実現させた、という転職例があった。
Web業界におけるポテンシャル層の求人、マネージャ層の求人が好調だ。システム系の営業職募集も増加し、新規求人数では5月を上回った。
SIerの営業職は、春から順調に増加を続けている。6月は、業務知識や専門知識を問う上場企業の求人が目立った。公共・医療・金融などでは経験者を対象とする求人が増加しているものの、ポテンシャル層、第2新卒層をターゲットとする求人は少ない状態が続いている。
一方、Web業界ではマネージャ層の求人が落ち着きを見せ、ポテンシャル層・第2新卒層に向けた求人の勢いが増した。これらの求人は採用ハードルが低く、業界不問でソリューション営業経験、新規開拓営業経験、無形商材の営業経験などを求めるものが多い。
一般事務職、営業事務職の募集増加が目立った。需要があったのはWeb業界、メーカー、広告業界などで、一様に「事務経験やPCスキル(Word、Excel、PowerPoint)を有すること」を採用条件としている。求める年齢層としては30歳代前半までが多く、若手を望む傾向だ。
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