不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
3月は、未曾有の大地震が発生し、日本中に激震が走った。
震災発生後1週間程度は、採用活動を自粛・休止する企業が多く、選考スピードが鈍化した。しかし、それ以降は順調に採用活動が再開され、震災に伴う募集終了や採用中止はほとんどなかった。また、被災者の生活再建を支援するため、50〜100名の新規雇用計画を打ち出して避難所の被災者を対象に応募を募る企業が現れた。
震災によって甚大な影響を受けている業界は多いが、IT企業の採用意欲は衰えていない。
震災の影響のためか、3月の採用活動はやや鈍化した。
しかし、大幅に採用意欲が低下することはなく、求人数・採用意欲ともに一定水準を保っている。3月下旬以降は採用活動が回復傾向にあり、むしろ震災の反動で採用活動が活性化することが予想される。
コンテンツプロバイダの採用意欲は衰えず、Webエンジニアの求人は増加が続いている。20代〜30代前半の人材にニーズが集中しているものの、40代での転職成功事例もあり、企業側の採用意欲は高いことがうかがえる。
新卒社員が入社する4月以降は、若手ポテンシャル層よりもリーダークラスの採用が主流になっていくだろう。
Webデザイナーの求人が回復傾向にある。急激な求人増には至っていないが、スマートフォンやソーシャルアプリを中心に、特に制作会社からの新規求人が増加した。制作会社からの求人はこれまで「Webサイト(またはモバイルサイト)」のみを対象とするものが大半を占めていたが、ソーシャルアプリの受託開発に伴う新規募集が目立つようになった。
スマートフォンアプリ開発に伴う人材募集が増えている。エンジニア職だけでなく、デザイナー(マークアップエンジニア)やプランナー、ディレクター職でもスマートフォンアプリ向けの求人が目立った。
2月に引き続き、スマートフォン関連のエンジニア採用が活発だ。これまではフィーチャーフォン向けのアプリやサイト開発者募集が主流だったが、スマートフォンに的を絞ったエンジニア募集も増加している。これらの求人では、実務経験者に限定せず、趣味での開発経験も評価対象とする場合がある。
スマートフォンアプリ開発は、ほぼグローバルスタンダード規格であるため、外国籍の人材にも門戸が開かれている。これまで重要視されていた「日本語力」がビジネスレベルに達していない場合でも、採用に至るケースがある。
モバイルクリエイター職は新規募集の少ない職種ではあるものの、マークアップエンジニアの募集が増えている。CSS、(X)HTMLコーディング、Flashなどを用いて、主にアプリのUI(ユーザーインターフェイス)実装を担当するポジションであり、業務の細分化に伴って急増している求人枠と言える。
モバイルプランナー/ディレクター(プロデューサー)職の新規求人では、スマートフォン関連での募集が目立った。特定のデバイスに特化した経験よりも、Web (PC)、モバイル、スマートフォンなどに幅広く対応できる人材のニーズが高い。このため、スマートフォン関連の実務経験がなくても、Web (PC)やモバイルサイトの経験者は採用ターゲットになっている。
また、新たに募集開始となった求人では、「受託開発企業からの求人増」が特徴的で、コンテンツプロバイダからの求人は2割程度にとどまり、受託開発企業からの募集が8割を占めた。
インターネット業界やSNS・スマートフォンの好調を受け、Web系人材の採用ニーズは順調に回復に向かっている。一方、業務系システムや制御/組み込み系エンジニアの採用には慎重な企業が多く、依然として選考ハードルが高い状態が続いている。
ハードウェア業界、ソフトウェア業界ともに採用を抑える傾向が続いており、両業界とも採用活動は必要最小限にとどめている。
セールス系(営業・ソリューション営業・プリセールスなど)が約6割を占め、20代後半から35歳くらいまでの人材がメインターゲットになっている。その他の職種では、バックオフィス職や組み込みエンジニア、サポート系職種が各10%程度である。サポート系職種では、採用対象を20代に限定する企業が少なくない。
Web系システムインテグレータ(SIer)からの求人が、堅調な増加を見せている。
Webプログラマは20代、システムエンジニアは20代後半から33歳程度まで、リーダー候補として35歳程度までを想定した求人が多い。Java、PHP、Perlを用いたプログラミング経験を必須とする求人が全体の7割を占め、業務系システムや制御/組み込み系での転職はハードルが高い。
しかし、一部には言語を特定せず「何らかのプログラミング経験」のみで応募可能な求人がある。ただし、これらの求人は応募が殺到する傾向にあり、高倍率であるとともに採用充足によって早期募集終了となるケースが多い。
インフラ系エンジニアの求人は、サーバ系エンジニアとネットワーク系エンジニアの求人がそれぞれ40%ずつあり、残る20%が基盤系エンジニアの求人という内訳だ。
Linuxサーバやネットワークの設計・構築経験者にニーズが集中しており、保守・運用経験のみでの転職は、依然として厳しい状況といえる。年収350万〜600万円程度、35歳前後までの人材がメインターゲットである。
ネットワーク系エンジニアは、SIer・ネットワークインテグレータ(NIer)からの新規求人が徐々に回復している。一方、通信キャリア企業やインターネット接続業者(ISP)企業は、積極採用には慎重なところが多い。
ゲーム業界の転職市場では、震災による影響は少なく、求人数はやや増加の傾向にあった。震災の影響を受けて転職活動を中止する求職者もいるが、少数にとどまった。
ただし、外国籍のエンジニアやクリエイターは別で、震災による帰国者が続出している。リーマンショック後に外国籍人材の採用が激減したものの、2010年後半から大幅に増加傾向にあった。震災後、多くのゲーム企業が外国籍人材の採用を再開しているが、外国籍人材が日本を出国しているため、採用が難しくなっている。
ソーシャル・オンラインゲーム関連職ではこれまで順調に求人数が増加していたが、3月以降は新規募集がほとんどなかった。しかし、前月から継続して募集している企業が多く、求人数に大きな減少はない。積極的な採用を行っている企業が多く、引き続き採用ニーズの高い職種と言える。
求人ニーズに大きな変化は見られない。求人の増減は少なく、横ばいの状態が続いている。次世代機(特にPS3、Xbox360)開発経験者の人気が高い。
営業職の新規求人数は、2月と同水準を維持した。求人案件は、若手ポテンシャル層を求める業界と、ハイスペック層を求める業界とに二極化している。
第2新卒を中心とした若手営業職を積極的に採用しているのは、インターネット広告代理店やメディアレップなどで、年収300万〜500万円程度、30歳くらいまでの人材をターゲットとしている。業界経験を問わない求人も増えつつあり、一部では採用ハードルの引き下げが見られた。採用を急ぐ企業も多く、面接回数を減らしたり、1次面接・2次面接を同日に行ったりと、企業側の選考スピードへの意識が高まっている。
また、金融業界を顧客とするSIerが、営業部長職などのハイクラス層を募集するケースが目立った。中には年収1000万円を超える求人もあり、それだけ選考ハードルは高い。
外資系企業では20代の若手採用は行わず、即戦力となる業界経験者に限定した採用を行う傾向にある。
経理・財務職の求人はやや減少したものの、一定水準の求人案件数がある。
海外展開を行っている、または海外展開を視野に入れている企業からの求人が多く、特にインターネットサービス企業からの募集が目立った。担当業務には、経理・財務職の一般的な業務のほか、「海外本社(子会社)連結決算業務」「為替管理」「海外取引の入金請求処理」などが加わる。そのため、英語力をはじめ、国際会計基準や米国公認会計士の知識、海外とのビジネス経験などを求めるケースが増えている。
その他、財務分析業務経験者や社内システム構築(会計・販売系など)経験者を募集する企業がある。
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