不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
震災の影響も落ち着き、各業界から多くの新規求人が発生した。
iPhone・Androidを中心としたスマートフォン分野においては、引き続きエンジニア・クリエイターともにニーズが高まっている。また、新たにFacebookをターゲットとした求人も見られるようになった。
求職者側の動向を見ても、夏の賞与時期に合わせて転職活動を開始する人材が増えており、IT業界の転職市場は活気づいてきたといえる。ただし、採用意欲の高い求人ほど選考スピードが速く、早期に募集終了となる傾向が強い。このため、求職者は求人の動向に気を配り、チャンスを逃さないための準備を整えておくことが必要だ。
Web業界では、5月も採用意欲の高さが目立った。採用決定職種はエンジニア系・クリエイティブ系が半々で、大きな偏りは見られない。
技術やサービスの展開が速いWeb業界では、新規募集開始となる求人が多い半面、採用決定(人員充足)による募集終了が早いことも特徴だ。
Web系開発エンジニアの募集は引き続き増加傾向にあり、新規求人数においては4月の2倍となった。ソーシャル分野の台頭以来PHPエンジニアの需要が高まっていたが、Java経験者を求める求人増加が目立ちつつある。5月は、Javaエンジニアの需要がPHPエンジニアの需要を抜いた。
クリエイター職は、年間を通じて激しい増減のないポジションである。震災やゴールデンウィーク、新卒メンバーの参入などの要素が重なり、クリエイターの求人は微増にとどまった。新規求人の内訳は、自社メディア・クライアントワーク(制作会社など)でほぼ同数程度。特に広告関連分野における制作や運用人員を求める傾向が見られた。
スマートフォン(iPhone/Android)関連求人の好調が続いている。iPhoneに続き、Android端末の普及が進んだことにより、新たな求人が次々に発生している。
スマートフォンアプリ・サイト開発の実務経験がなくても、個人での作成実績を提示したり企画書を用意したりしてアピールすることで採用につながった事例があった。一方、実務経験があっても、アピール不足によって不採用となるケースが少なくない。
スマートフォン関連事業に注力する企業は増え続けており、今月もスマートフォンアプリ開発の新規求人が目立った。また、いち早くスマートフォン向けアプリの開発に着手してきた企業は業績好調であり、増員のための募集を積極的に行っている。
エンターテインメントを中心とした個人ユーザー向けアプリケーション開発が主流だが、Android OSにおける法人向け業務用アプリケーションの開発のニーズも高まっている。業務用アプリケーション開発では「JavaでのBtoBシステム開発」を生かせる求人が多く、求職者にはチャンスが広がっている。
スマートフォンの普及に伴って、UI(ユーザー・インターフェイス)・UX(ユーザー・エクスペリエンス)の改善が各社の課題となっている。市場の拡大により、より幅広い年齢層のユーザーに受け入れられるデザインの必要性が高まっており、UIやUXを専門に手掛けるポジションでの求人が増えている。
その他、ゲーム系デザイナーやグラフィックデザイナー(アバター、アイテムなど)のニーズが高い。
モバイルディレクター・プロデューサー職では、新規求人の多くがスマートフォンを対象としたものであり、フィーチャーフォン向けの求人はほとんど見られなかった。モバイル業界における市場の変化が、顕著に表れた結果だろう。
また、FacebookやTwitterでのマーケティング専任者を設ける企業が出始めている。広告代理店やWebコンサル企業においても、ソーシャル・スマートフォン分野に強い人材を採用し、教育していこうという動きが見られた。
ハードウェア業界は停滞が続いているものの、ソフトウェア業界やインテグレータからの求人は上向き傾向が続いている。ただし、採用ニーズには偏りが見られる。徐々に採用ターゲットが広がりつつあるものの、大幅な需要拡大にはいま少し時間がかかりそうだ。
ソフトウェア業界における求人が前月比10%増となった。グループウェアなどの自社製品を取り扱う企業から、エンジニアやプリセールス、導入SEなどの新規求人が増加。いずれも27歳から38歳くらいまでの即戦力層がターゲットとなっており、年収400万円〜800万円程度の人材が求められている。
一方、ハードウェア業界の採用傾向は変わらず、40歳くらいまでを対象としたプロジェクトマネージャや海外向け営業担当など、ビジネスレベルでの英語力を必要とする求人が多い。
2次請け、3次請けシステムインテグレータからの新規求人が増え、求人数は前月比10%増となった。募集職種は、エンジニア系・営業系が大多数を占める。
エンジニア系職種では、全体の70%がJavaやPHPを使用したWebアプリケーション開発経験者の募集であり、そのほかASP.NETやVB.NETでの開発経験を必須とする求人がある。ただし、企業側がターゲットとする年齢層は25歳〜33歳と非常に狭く、35歳以上での転職活動の場合は、苦戦を強いられそうだ。
営業系の職種では、製造・金融なといった特定業界での営業経験、ハードウェア・ソフトウェアの双方を扱っている企業での営業経験が求められる傾向にある。このため、業界外からの転職は非常に厳しい状況と言えるだろう。しかし、ターゲット年齢は25歳〜38歳くらいと比較的広い。同業界で経験を積んでいる人材にはチャンスが広がっている。
ネットワーク、サーバエンジニアの新規求人は微増ながら、前月から継続募集している企業が多く、求人枠が広がっている。4月はWindows系サーバエンジニアの求人増が目立ったが、現在の新規求人はほとんどがUNIXやLinuxの経験者の募集となっており、Windows系エンジニアのニーズ拡大は見られなかった。
ネットワークエンジニアにおいては、引き続き設計・構築経験を必須とする求人が主流ではあるものの、ネットワークの運用・監視をメインとする人材の募集も始まっている。
コンシューマー、オンライン、ソーシャルを問わず、すべての分野において採用活動が活発だ。求職者側も、これまでのようなコンシューマー企業へのこだわりは薄れ、幅広く転職の可能性を探る人が増えている。
実際に、多くの人材がコンシューマー業界からソーシャル業界への転職を果たした。このようなコンシューマー系企業からソーシャル(インターネット・モバイル)系企業への転職では、年収アップとなるケースが多いのも特徴だ。
大手コンシューマー企業が、ソーシャルアプリ開発要員の採用に力を入れている。数カ月前にも同様の傾向が見られたが、後発ながらソーシャル分野に本気で参入を試みる企業が現れている。また、これまでは積極採用を行っていなかったソーシャルゲーム企業が、増員のための新規募集を開始するケースも目立った。
ディレクター・プロデューサー職の求人は共に前月比5%程度の求人増となった。特にソーシャルゲーム関連においては、海外展開に向けた人員を求める動きが見られた。
既存求人の継続募集に加え、プランナーやディレクター職の新規求人が発生した。特に、コンシューマーを中心としながらも「プラットフォームを問わず幅広くゲーム開発に携わりたい」という人材を求める企業が増えており、コンシューマーゲーム業界からソーシャルやオンラインゲームへの転向を考えている求職者に人気の求人となっている。
先月に引き続き、Web業界からのポテンシャル層・マネジメント層求人が目に付く。複数名の採用枠を設ける企業が増加傾向にあり、求人数も高水準を維持している。
ポテンシャル層の求人では、ソリューション営業や新規開拓営業・無形商材を扱った経験が求められるものの、経験業界を不問とするケースが散見される。異業界からの受け入れも視野に入れた採用活動が活性化している。
マネジメント層では、同業界で同様の業務経験を積んでいる人材が求められている。ポテンシャルを重視しながらも、成功事例や実績事例の提示を求める求人が増加した。また、関西圏(大阪)の求人も増加傾向にあり、景気の回復がうかがえる。
先月は人事職の求人増が目立ったが、今月は経理・財務職の求人が増加した。インターネット広告企業やWebサービス企業からの求人が多い。
マネジメント層、スタッフ層ともに求人は増加しており、経理・財務の他、IR・ファイナンスなどの専門職募集が増えるなど、経験・スキルに応じた求人が出そろった。スタッフ層では実務経験3年、日商簿記3級程度の知識を有する人材が求められており、マネジメント層では実務経験5年の他、マネジメント経験を必須とする企業が多い。
先月と同数程度の新規求人が発生している。先月はインフラ関連の求人増が目立ったが、今月は開発をメインとする求人も増えた。マネージャポジションが多く、社内システムや基盤をしっかりと構築したいとする企業側の意図がうかがえる。データベース専任の募集も増えている。
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