【転職市場】iPad関連で採用ターゲットが拡大IT業界 転職市場最前線(15)

不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。

» 2010年07月22日 00時00分 公開
[ワークポート]

 前回、「IT業界の転職市場は、上昇気流に乗っている」とお伝えした。この傾向は止まらず、6月も業界全体の求人マーケットは上向きとなった。

 市場動向に大きな変化は見られないものの、iPad、スマートフォン(Android)、ニンテンドー3DSなど新しいデバイスの登場に伴い、新たな職種・ポジションの募集が始まっている。

 好調のWeb/モバイルやゲーム業界と比べると、ハードウェア業界やソフトウェア業界はいまだ苦境を脱していないが、少しずつ明るい兆しが見え始めている。

 しかし、数年前までの「売り手市場」と比べれば、求人数・応募要件ともに求職者にとっては厳しい状況に変わりはない。転職を成功させるには、十分な情報収集と対策が不可欠である。

Web業界

 Web業界の採用意欲は上昇を続けている。「Webエンジニア」「Webデザイナー」「Webディレクター」などの職種が目立つほか、「Webアナリスト」や「マーケティングリサーチ」などのポジションでも新規募集があった。業界全体の転職市場が好調な中でも、とりわけ多くの職種・ポジションで募集が開始された。

 Web業界の求人は「急募」であることが多く、募集開始から1カ月程度で採用を決定するケースが少なくない。転職を成功させるには、新規求人に対してできるだけスピーディーに応募することが必要といえる。

エンジニア:LAMP求人が好調。若手を中心とする大量採用の動きも

 WebエンジニアではLAMP開発経験者(特にPHP)を中心に、好調を維持している。引き続き「経験言語を指定しない若手募集(Linux環境によるWeb開発エンジニア経験者など)」も目立つ。デバイス(PC/モバイル/スマートフォンなど)にこだわらないコンテンツ提供や海外進出を視野に入れた、エンジニアの大量採用を行う動きが見受けられる。特に、基礎ができている若手エンジニアの採用に力を入れる企業が多く、コンシューマ向けサービスの開発経験がないエンジニアにもチャンスが広がっている。

クリエイター:新プラットフォームの誕生で、新たなニーズ拡大に期待

 デザイナーなどのクリエイティブ職は、少しずつ求人数が回復の傾向にある。ソーシャルアプリ/ゲームやFlashクリエイターのニーズが高い。iPadやニンテンドー3DSなどの新しいプラットフォームが登場したことにより、UIデザイナーや3D技術のデザイナーなど、新たな分野・ポジションでの求人ニーズの発生が期待できる。

 Webディレクター職では、「改善提案」「企画から運用までの一連の経験」がポイントといえる。クリエイティブ面だけでなく、開発ディレクションを手掛けられる人材に注目が集まっている。

モバイル業界

 これまでは大手モバイルコンテンツプロバイダや、インターネット系上場企業からの求人が大多数であったが、6月以降は中小ベンチャー企業からの採用枠拡大が見られた。また、募集企業の代表(社長など)がTwitterで採用を告知するなど、新たな採用手法が見られるようになった。

エンジニア:モバイルアプリやソーシャルメディア開発分野で活発な採用が続く

 モバイルアプリ開発分野では、活発な採用活動が続いている。「20代のPHPエンジニア」を求める企業が非常に多く、コーディング力だけでなく、「自分たちで面白いサービスを作っていきたい」という意気込みのある人材を好む傾向がある。

 ソーシャルアプリ/ソーシャルメディア関連求人の採用意欲は衰えを知らず、今後もエンターテインメント、ゲーム分野を中心に転職市場の活況が続きそうだ。

クリエイター:Flashクリエイターが人気。一方、iPad関連で採用ターゲットが拡大

 Flashクリエイターを求める企業が目立つ一方で、企業側から求められるスキルを持つ求職者は少ないのが実情だ。経験・スキルだけでなく、転職回数やヒューマンスキルを厳しく評価する傾向にあるため、順調に採用を成功させているケースは少ない。採用に苦戦している企業が多いからこそ、Flashクリエイターには積極的なチャレンジをお勧めしたい。

 また、iPadの発売を受けて、「iPad向けアプリ」や「リアルコンテンツからiPad向けアプリへの編集」など、新たな採用ニーズが発生している。Webの経験だけでなく、紙媒体での経験が生かせる求人が登場するなど、今後も採用ターゲットの拡大が期待される。

ディレクター/プロデューサー:iPhone、iPad向け求人が勢いを増す

 企業規模を問わず、モバイルコンテンツプロバイダからの堅調な求人ニーズがある。モバイルディレクター/プロデューサーの求人数は前月比で1.25倍となった。これまでは「経験3年以上」の即戦力を求める企業が大多数を占めていたが、第二新卒を中心とした若手の募集も回復傾向にある。

 以前は主流であった「キャリア公式サイトの経験者」よりも、iPhone/iPad向けアプリ、Android向けアプリなどへ事業軸の転換を図る企業が増えている。iPhoneやiPad、Androidスマートフォン関連は新興市場であるため、新規事業要員の募集であることが多く、大部分は社名非公開での募集となっている。

システム業界

 システム業界の動きは鈍く、ハードウェア/ソフトウェア業界ともに足踏み状態が続いている。いまだに厳しい状況にある企業も少なくないが、一部では募集職種の拡大や、下半期の増員に向けた動きが見られるなど、明るい傾向もうかがえた。

 リーマンショック以前と比較すると選考水準の高い状態が続いているが、昨年から年明けにかけての低迷期と比べると、応募条件や採用基準の緩和が見られ、転職に成功する人が増えている。

自社プロダクト系:求人数は横ばいが続くも、求人再開に向けた動き

 ハードウェア業界からの求人ニーズは、いまだ回復の兆しが見られない。一部の外資系企業で求人募集があるものの、日系企業では継続的に採用活動を行っている特定の企業を除けば、積極採用に踏み切る企業はほとんどない。しかし大手メーカーでは、下半期の増員に向けた動きが見られるようになった。

 ソフトウェア業界では、比較的好調なセキュリティ分野のほか、一部のERPパッケージベンダで採用活動が継続しているものの、特に目立った動きはなく、求人数も横ばいが続いている。依然として開発エンジニアの求人が大半を占めるが、品質保証(QA)エンジニアの求人が少しずつ増え始めている。

SIer:Web系エンジニアが好調。20代・離職中の人材には転職の好機

 引き続き、採用ニーズが回復の傾向にある。求人数は前月比で10%増となった。

 これまではピンポイント採用や欠員補充のための「1名採用」が大半を占めていたが、Web系エンジニア(特にPHP)を中心に複数名の採用枠を設ける企業が増えた。ただし、20代のみをターゲットとする求人が多く、「すぐに入社可能であることが条件」「募集終了が早い」といった傾向が強まっている。「20代」「離職中」の人が有利に転職活動を進められる一方で、30代以上のエンジニアには厳しい状況が続いている。

インフラエンジニア:「仮想化」「クラウド」がキーワード

 採用ニーズに大きな変化はなく、求人数も現状維持にとどまった。ただし、大手NIerが採用を再開しており、明るいニュースといえる。現状では募集職種が限られているが、今後のニーズ回復に期待が持てそうだ。

 また、仮想化技術を用いてクラウドサービスを構築するケースが増えており、ネットワーク/サーバエンジニアの求人では「仮想化」がキーワードとして目立ち始めている。とりわけVMwareの求人が多く、経験者は優遇される傾向が見られる。

ゲーム業界

 ソーシャルゲーム関連の求人が増加を続ける一方で、コンシューマゲーム関連の求人は減少傾向にあり、新規求人はほとんど見られなかった。

 しかし、任天堂が発表したニンテンドー3DSが話題を集めるほか、プレイステーション3が3D対策の強化を打ち出すなど、体感型ゲームへのシフトチェンジを図るコンシューマゲーム業界の動向が注目される。すでにニンテンドー3DS向けのゲーム開発を進めている企業もあり、今後の採用ニーズ回復が期待できる。

ソーシャルゲーム:コンシューマゲームからソーシャルゲームへの転向は狙い目

 ソーシャルアプリのゲームコンテンツ分野で求人を行っている企業は、以下の3種に分類することができる。

  • インターネットサービス事業者で、ソーシャルアプリ市場へ参入した企業
  • モバイルコンテンツプロバイダ
  • ゲーム業界からの参入企業

 この中で最も求人数が多いのはインターネットサービス事業からの参入企業であり、以下モバイルコンテンツプロバイダ、ゲーム企業と続く。

 一方、ゲーム業界(主にコンシューマゲーム開発)出身者でソーシャルアプリ業界への転職を希望する人は少なく、新たな分野への挑戦を志す人にとっては狙い目といえそうだ。

オンラインゲーム/パチンコ/パチスロ:求人ニーズに大きな変化は見られず

 オンラインゲーム業界は、高い採用意欲を維持している。しかし、現在のオンラインゲームではアイテム課金型の収益モデルが中心であるため、従来の「作り込み・売り切り型」でゲーム制作を行ってきたクリエイターの中には、オンラインゲームを敬遠する人もいるようだ。

 パチンコ/パチスロ業界は引き続き求人数の多い業界ではあるが、選考ハードルが非常に高いのが実情である。すぐにプロジェクトにアテンドすることを想定した、高いレベルでの即戦力が求められる傾向にあるようだ。

営業:求人数は2割増。ハードウェアメーカーからの求人も復調の兆し

 営業関連職の求人は順調に推移している。新たに募集を開始した求人の数は、前月比で約2割の増加が見られた。とりわけ、Web広告やWebマーケティング企業(SEO、リスティング関連)の求人が好調だ。Web系広告営業は年収300万〜500万円、SEOコンサルタントは年収600万〜800万円の募集が多い。Webマーケティングの技術的な知識と、営業としての経験・実績を兼ね備えている人材は転職市場での評価が高く、高年収が狙いやすい。

 IDC(インターネットデータセンター)でのクラウド/ホスティング営業職や、シンクライアント端末の営業職など、「クラウド」「仮想化」をキーワードとする求人が勢いを持ち始めている。いまだ若干名採用の企業が多いものの、今後のニーズ拡大に期待が持てる。

 ハードウェアメーカーやSIerは、業務理解の高い即戦力を求める傾向にあり、応募条件を厳しく設定し、ターゲットを絞り込んだピンポイント採用を行っている。一方、Web/モバイル系企業は、若手をターゲットに募集要件を幅広く設定する傾向にある。


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