不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
2011年末のIT業界転職市場は、例年とはひと味違った。通常、12月に入ると求職者の動きは沈静化する。ところが2011年末は、活発なまま年を越したという印象だ。
これまで目立った動きがなかった分野でも好転の兆しが見えるなど、2012年への期待は大きい。もう1つ目立つ動きが、海外法人を設立する企業の増加だ。2012年は、海外展開に成功する企業と、撤退を余儀なくされる企業の明暗が分かれる年になりそうだ。
Webサービスはリーマンショック以降、着実に成長を続けているため、年末も変わらず募集数は多かった。この好景気に乗ろうとする求職者がいる一方、「今の好況がいつまで続くのか分からない」という不安から転職を急ぐ人も多かった。
Webサービス拡大に伴ってエンジニアを増員する企業が多く、エンジニアの争奪戦はますます激化している。Web業界が成長していく限り、エンジニアの需要は減らないだろう。スマートフォン関連の案件も、どんどん増えている。
ECビジネスの求人マーケット拡大が目立った。エンジニアだけでなく、ディレクター、コンサルタントからカスタマーサポートまで募集職種は幅広い。マーケティング職の採用には、特に注力しているようだ。
スマホ関連の求人が圧倒的に増えている。スマホ関連の求人数は、既存のモバイル関連のなんと6倍。従来のモバイルサービスをスマホへと移行する企業が増加しているためだ。
モバイル関連の求人数が減少しているわけではない。それだけ、モバイルをはるかにしのぐスピードと規模で、スマホ関連の求人数が増加しているのである。
求人数全体のうち40%が、Java、Objective-C、PHPなどの開発経験を要するWeb系エンジニアの求人だ。他、Webサイト・アプリ企画、進行管理などのWebプロデューサー募集が約20%、デザイン・UI設計などのデザイナー募集が約15%。
エンジニアは相変わらず「経験者」のニーズが高い。教育コストを抑えつつ、即戦力として活躍してほしいという企業側の意向が読み取れる。一方、「何らかの開発経験があれば可(言語不問)」「実務でなく、個人での開発経験があれば可」といった要件で、ポテンシャル人材の採用に注力する企業もあり、キャリアチェンジやスキルアップを志す求職者にとってはチャンスだと言える。
大手メーカーの採用再開、新規プロジェクトへのアサインなど、システム・インテグレータ(SIer)業界の求人に好転の兆しが見えている。ネットワーク・インテグレータ(NIer)でも求人が増えつつある。
数十名規模で採用を再開した大手SIerの求人が、全体を牽引する形で求人数が増加した。「Java」「Webアプリケーション開発」の求人がメインだ。
通信業界向けの求人を中心に、設計構築担当から運用保守、サポート職まで、幅広い職種の求人が増えた。
全体の8割以上が、「インフラの構築経験を求める求人」である。運用・保守の経験しかないエンジニアは、自宅で環境構築を実践するなどの努力をいかにアピールしていくかがポイントとなる。
スマホ関連の求人が急増している。募集職種の多くは、Android/iPhone関連のアプリ制作エンジニア、デザイナーなどだ。大手Web企業の大量採用なども目立った。
新規求人は継続的に増加している。エンジニアやクリエイター(ディレクター、プランナー、デザイナーなど)、マーケティング、バックオフィスに至るまで幅広く募集をかけている。
PS3、Xbox360、Wiiなどのゲーム関連の求人は継続しているものの、業界全体の冷え込みは厳しい。2011年12月には有名タイトルの発売などのニュースがあったものの、転職市場に影響を及ぼすまでには至らなかった。求人の大多数はゲームプログラマだが、次世代機(PS3・Xbox360など)での経験が必須のため、選考ハードルが高い。デザイナー職では3DCGデザイナーの募集が多く、2DCGデザイナーには厳しい状況だ。
SI業界、ソフトウェア業界での求人は減少傾向にあり、採用ハードルも高い。反面、 営業職では、20代の若手をターゲットとした求人がメインで、「無形商材(ソリューション)」「Web業界経験」「Web広告営業経験」を必須とする求人が大多数を占めた。一方、業界経験を問わず人物を重視するポテンシャル採用もある。「事前に業界や企業をどれだけ研究したか」が合否を分けるポイントとなる。Web業界では、営業やバックオフィスの求人は増加している。Web業界以外からのキャリアチェンジを考える求職者にはチャンスである。
Web・モバイル系企業に加えて、ソフトウェア・ハードウェアメーカー、SIerからの新規募集が増加。また、事業拡大を図るWeb系企業を中心に、大阪・福岡・名古屋といった地方都市での採用が多かったことも特徴だ。
バックオフィス系では、人事・経理・事務といった管理系ポジションの新規求人が増加している。
経理・財務職や総務職では「マネジメント経験」「語学力」「上場企業での経験」を必須とするなど応募ハードルの高さが目に付くが、人事・労務職では経験1〜2年程度のスタッフ層やポテンシャル層での募集も多い。事務職やアシスタント、ゲーム・サイト運営職、ユーザーサポート職といった求人に応募が殺到する傾向は相変わらずだ。
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