不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
新入社員への対応が落ち着きを見せ始め、中途採用が再び活発化している。新年度の採用計画に伴って求人枠が増加。ポイントは「スピード」だ。求職者はもちろんのこと、企業側もスピードを意識して、加速する転職市場動向に追い付くようにしたい。
中小規模のWeb制作企業からの求人が増加しており、Webデザイナー職が目立つ。慢性的な人手不足に悩んでいる業界だが、最近はソーシャルゲームコンテンツ業界に人材を奪われることが多く、採用は依然にも増して苦戦している状況だ。
Web系のプログラマを求める企業は依然として多い。ソーシャルアプリ開発の求人が目立つが、ECサイトをはじめとした、自社Webサイトの構築に関する求人も引き続き好調だ。特にJava、PHPでの開発経験者をターゲットとした求人が最も多い。
ターゲットとなる年齢層を40代まで引き上げる企業もあり、若手エンジニアに比べると採用ハードルは高いものの、チャンスは拡大している。
大手ポータルサイトやEC系はWebデザイナーの求人が好調だ。しかし、求人数も多いがエントリ数も多く、書類通過は狭き門となりつつある。コーディング経験はもちろん、JavaScriptの知識を求めるものも多い。
Webデザイナーからのステップアップ職として注目を集める「アートディレクター職」は、企業からのニーズが徐々に高まってきている。広告代理店やWebコンサルティング会社では、クライアントとの折衝ができるデザイナー出身者が強く求められている。
求職者は、これまでの経験に近いところからスタートしてキャリアアップを目指す他、アートディレクターへの転向を目指すのも1つの道である。
ソーシャルゲーム業界の求人は、依然として高い水準を維持している。求人数は前月比5%アップと、伸び率は低かったものの、採用活動は非常に活発だ。
若手であれば、開発言語を問わずポテンシャルを重視して採用する企業が多い。一方、Android/iPhoneアプリ開発では、実務経験がなくても個人でアプリを作成した経験を評価して採用に至るケースが増えている。業務系開発からWeb・モバイル業界へ挑戦する求職者も多い。
ソーシャルゲーム業界の採用はまだ増加している。イラストレータのようなキャラクターデザイン、マークアップ・エンジニア、Flashでのモーションデザインを手掛けるFlashクリエータなど、どの職種も複数名枠で募集している。
自社でスマートフォン端末向けのアプリを開発している企業は、UI・UXなどユーザビリティを意識した設計経験がある人、HTML5の知識を有する人を求める傾向にあった。
4月に続き、Web系システム・インテグレータ(SIer)の求人が好調だ。このニーズにけん引されて、サーバを扱うエンジニアの求人が、ネットワーク・インテグレータ(NIer)で増加しつつある。
増加トレンドであるSIerの求人は、開発系が7割、インフラ系が2割、その他が1割と、開発系のニーズが高い。中・小規模のSIerでも、案件の受注増に伴い、採用が活発化している。
求人数自体は5月とそれほど変わらなかったが、職種の幅が増えた。設計構築担当から運用保守、サポート職の求人が多い。また、ネットワーク系よりもサーバ系の求人展開が多く、SI業界の好調が、NI業界にも良い効果を及ぼしているようだ。今後は、サーバ系を中心に求人増となる可能性が十分にある。
ゲーム業界の求人は、エンジニアが全体の約25%、デザイナーが15%、ディレクタが10%強、マネージャ・リーダーが5%、プランナーが5%となった。主要職は合わせても60%であり、その他職種が40%を占めている点が目を引く。
エンジニア職では、Web系言語での開発経験が求められている。協業や版権元からの受注増に伴い、アプリ開発の受託制作の求人が目に付くようになっている。
クリエイター職では、グラフィックデザイナーからのキャリアチェンジ枠が増加。グラフィックデザイナーとしての経験を生かし、Web企業への転向を目指す求職者にとっては好機が到来している。
これまでのソーシャルアプリに関する求人は、「インフラエンジニア」「開発エンジニア」「クリエイターのように、ゲーム開発に携わる職種の募集が大多数を占めていた。
これらの職種の勢いは決して衰えてはいないが、5月はエンジニア・クリエイター以外のの求人が増加していることが特徴だった。「シナリオライター」「営業」「映像編集」「広報、宣伝担当」「法務」など、幅広い職種で募集がかかっている。
背景には、これまで外注していたものの内製化、上場の準備など、業務拡大や業績好調がある。他業界からの転職を志す人にとっては、チャンスといえるだろう。
20代の若手を求める傾向は変わらず、ポテンシャルを重視した採用方針も目立つ。異なる業界での活躍を目指す若手にとっては、転職活動がしやすい時期だろう。
若手採用ではどの企業も長期的な人材育成を目指していることから、経験年数はあまり問われない反面、自己PRや転職回数などをチェックする傾向にある。
今月もSIerをはじめ、ソフトウェア・パッケージメーカー、Webサービスプロバイダなど、幅広い企業が募集を開始。新規求人数は4月の約3倍となった。
20代の若手を求める企業が多く、業界不問で営業経験のみを問うケースも多い。対して30〜40代のマネジメント層の求人数は横ばいに終わり、大きな変化は見られなかった。
バックオフィス関連では、特に人事・経理の求人増加が目に付いた。人事関連では採用をメイン業務とした募集が多く、特にWebコンテンツプロバイダが人事部門強化を目的とした求人を展開している。
また、グローバル採用(日本人留学生や海外国籍の人材採用)が進むとともに、英語スキルを求める企業が増えている。
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