不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
昨年から勢いが衰えないソーシャルゲームアプリ開発に加え、話題のスマートフォン(iPhone・Android)関連職種の求人が、IT業界の転職市場をけん引している。エンジニアやクリエイター職種だけでなく、運用やサポートスタッフなど、新たな人材のニーズが発生している。
また、ソーシャルやスマートフォンの勢いには及ばないまでも、他業種でもじわじわと、しかし確実に求人数が増えている。まだ足踏み状態が続く業種も少なくないが、チャンスは広がっていると言えるだろう。
また、40歳前後までを対象としたマネジメント層の募集が増えたことも特徴的だ。ただし、要職であるため、経験やスキルを絞り込んだいわゆる「ピンポイント採用」を行う企業がほとんどで、選考突破の壁は高い。
多くの企業が3月に期末を迎えるに当たって、採用を積極化させている。選考がよりスピーディーになる中、いかにタイミングを逃さずに応募につなげられるかが、重要な鍵となっている。
1月にはやや落ち着きを見せたWeb業界が、2月には再び活発な動きを見せている。求人数の増加率は1月と大きく変わらないものの、書類選考の通過率は向上しており、採用各社による積極的な姿勢が見て取れる。
1月は振るわなかったエンジニア職が勢いを取り戻した。Web業界への転職成功者のうち、6割以上がエンジニア職で決定している。
また、アプリケーション開発だけでなく、サービスの拡大・安定化を図るうえで欠かせないインフラ系エンジニアを求める傾向が高まっている。
デザイナー職の求人が増加。「スマートフォン向けWebデザイナー」や「ECサイトデザイナー」などの募集が目立った。ActionScript・JavaScriptなどのスクリプト言語や、Flashなどの動的Webサイトを作るスキルを求める企業が多い。
また、XHTMLやCSS、CMSにJavaScript、SEO対策、ユーザビリティ、アクセシビリティ、文章構造や情報設計など、幅広いスキル・知識を有する「マークアップエンジニア」のニーズが高まっている。
ディレクターやプロデューサー職においても、自社サービス運営企業では10%、Web制作会社やインテグレータからは5%程度で求人が増加した。
1月に引き続き、スマートフォン関連の求人が好調だ。自社コンテンツのスマートフォン対応を進めたいインターネットおよびモバイル系企業の他、受託制作企業からも増員のニーズが高まっている。
1月から引き続き、「iPhone・Androidアプリエンジニア」といったスマートフォン向けエンジニアの採用が増加している。これらのポジションでは、企画段階から参加し、リリース後の運用まで期待される傾向にある。
また、新しい面接スタイルが出てきた。面接時に「自作のアプリケーションを実際に端末で紹介・説明する」という形式が見られる。
モバイルサイトを専門に扱う制作・デザイナー職の採用意欲は落ち着きを見せており、新規に募集開始となる求人は少なかった。応募条件は「CSS・(X)HTMLコーディング・Flash」のスキルを基本とし、最低でも実務経験1年以上が必要だ。
モバイルコンテンツプロバイダからの募集が増加した。その多くは、エンタメ系コンテンツを扱う企業からの求人だった。
しかし、エンジニア職と比較すると採用枠は小さく、選考においても企業側の慎重な姿勢がうかがえる。また、モバイルプランナーやディレクター職では30歳前後からマネジメント経験が求められる傾向が強い。
ハードウェア・ソフトウェア業界の採用ニーズは足踏み状態が続いている一方で、SIer(システムインテグレータ)が勢いを取り戻しつつあり、新たな募集開始が目立った。
しかし、自社サービスを有する企業への転職を望む人が多く、SIerの中には採用に苦戦している企業も散見される。
ハードウェア、ソフトウェア業界では求人数の横ばいが続いている。営業・プリセールス系が半数以上を占め、総務・経理などのバックオフィス職が15%、筐体(きょうたい)・組み込みエンジニアやテクニカルサポート系職種がそれぞれ10%程度である。
バックオフィスのマネージャクラス採用では40歳前後までをターゲットとした求人もあるが、ほとんどが30代前半までをメインターゲットとしている。
流通業界向け物流システムの開発エンジニアやサーバエンジニア、製造業向けのシステム開発エンジニアの求人が増加した。これまで低迷が続いていた、2次請け・3次請けSIerからの採用ニーズ回復の影響が大きい。
開発系エンジニアでは、25歳から35歳くらいまでの「Linux環境でのJavaによる開発経験が2年以上」をターゲットとする求人が多い。インフラ系エンジニアでは、40歳くらいまでを対象に、幅広い経験・知識の保有者を募集するケースも見られるが、「Linuxサーバの設計・構築経験者」を求めるものが大半を占めている。
求職者側では、自社サービスを有する企業への転職を望む人が多く、SIerの中には採用に苦戦している企業も散見される。
ネットワーク、サーバエンジニアの求人は、1月よりも増加した。ただし、サーバ関連技術を求められるケースが多く、ネットワークのみの経験者には厳しい状況が続いている。一方、サーバエンジニアの求人は豊富であり、転職しやすい時期と言えるだろう。
ゲーム業界の転職市場に、再び活気が見え始めている。ソーシャルゲーム業界だけでなく、オンラインゲーム業界、コンシューマゲーム業界においても、求人が増加傾向にある。特定職種へのニーズの偏りはなく、「プログラマ」「デザイナー」「ディレクター」など幅広い分野でニーズが高まっている。
急激にシェアを広げているスマートフォンに対し、ソーシャルゲーム各社の対応にはやや遅れが見られる。各社がスマートフォン対応を急いでおり、ソーシャルゲームにおけるディレクター、プロデューサー職では求人数が15%増加した。応募から内定に至る「内定率」も向上しており、積極的な採用が続いている。
コンシューマゲームでは、30歳から30代半ばの即戦力層のニーズが高い。特に、PS3やXbox 360、Wiiといった次世代機の経験を持つ人材は、高評価を得られる傾向にある。プランナー職では、経験年数よりも「プロジェクトの開始からマスターアップまでの一貫した経験」を重視する企業が増えている。
2月にはニンテンドー3DSが発売されたが、現時点で3DS関連での新規募集は見られない。既存社員で対応している企業が多いようだ。
社内SE求人は、1月から倍増した。社内SEの求人では基幹システム系とインフラ系とに分けられるが、各求人数に大きな違いはなく、開発経験者・インフラ経験者ともにチャンスが広がっている。また、情報セキュリティ担当職の募集も徐々に増え始めている。
マネージャクラスの人材募集が目立つ。割引クーポン共同購入サービス企業の他、「BtoBモバイルソリューション企業」や「Webインテグレーション企業」「自社パッケージソフト開発企業」など、複数の業界から新たな採用ニーズが発生した。
営業マネージャやマネージャ候補の求人では、年収500万〜700万円程度とする企業が多い。
1月は若手スタッフ層の募集が目立ったが、2月はマネジメント層の求人が多かった。これに伴ってターゲットとなる年齢層が広がり、40歳前後まで応募可能な求人が増えた。
職務内容は、一般的な経理・財務業務の他、マネジメント業務や「上場準備」「海外本社(子会社)との報告業務」「基幹システム」「資金調達」などの内容が含まれている。Web系企業を中心に、グローバルな事業展開を見据えた動きが活発になっている。
業種別に見ると。インターネット、モバイル業界からの求人が63%を占め、SIerが25%と続く。SIerからの募集は好調とはいえないまでも、上向き傾向が見られた。
SNS関連サービスの好調を背景に、「掲示板投稿監視サービス」などのSNS関連求人が増えている。年収は300万〜450万円程度で、ヒューマンスキルを重視する傾向がある。業界経験がなくても応募可能な求人があるため、業界未経験者にもチャンスが広がっている。
また、インターネット業界やモバイル広告、SEM関連企業では、20代の若手ポテンシャル層をターゲットとした採用を断続的に行っている。年収は350万〜450万円程度がボリュームゾーンだ。
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