不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
各社の決算が出そろい、採用計画も動き出している。目立つのは「海外展開」「新規事業立ち上げ」といったキーワードだ。ソーシャルアプリのマーケットが落ち着きつつある今、多くの企業が新たな軸となる事業を探していることがうかがえた。また、教育体制や福利厚生制度を充実させて人材育成に注力する企業が増加しており、未経験者や経験の浅い方にも明るい兆しが見え始めている。
内定までの期間の短縮化がさらに進み、選考回数が2回、さらには1回の企業が増加している。納得できる転職を実現するために、求職者は多くの企業に応募して複数社の内定を獲得し、条件面などを比較できる状況を作ることが大切だろう。また、5月は、新たな言語へ挑戦できる環境を整えて経験言語不問で募集する企業が増加した。依然としてJava開発経験を求める企業が大半だが、今後の動向に注目したいところだ。
求人数が安定しているのは受託開発企業だが、求職者の多くは自社パッケージ開発企業への転職を志望している。将来的なキャリアアップを視野に入れて転職を考えているITエンジニアは、さまざまな案件に携わり豊富な経験を積めるという受託開発企業ならではの魅力に再度目を向け、可能性を広げてほしい。
フロントエンドエンジニアからサーバサイドエンジニアへのキャリアチェンジが可能な求人も少しずつ増加している。特にモバイルアプリケーションの開発・運用経験がある方、アーキテクト的な役割を担当されてきた方のニーズが高い。
ネットワークエンジニア、サーバエンジニアの転職市場は、自社内での業務を主とするポジションと特定派遣を主とするポジションの両軸で転職活動を展開するITエンジニアが多く、非常に活発な状態にある。Linux/Cisco関連案件が多い傾向に変わりはないが、Windows、VMware等の求人ニーズも目に見えて増加している。
派遣エンジニアは年齢・経験ともに幅広い人材が求められており、市場は活発だ。面接から内定までのスピードも比較的早い傾向にある。求職者間の競争が激しく募集枠はすぐに埋まってしまうため、迅速な応募が鍵を握っている。
社内SEは、実務経験やスキルが不足していてもポテンシャルが評価されて採用に至るケースが多かった。採用ターゲットは20代・30代の若手エンジニアがメインとなっている。
ゲーム業界において、全体の採用活動は少しずつ落ち着きを見せながらも、「コーダー」「イラストが描けるデザイナー」といった職種のニーズは高く、複数名の募集も継続的に発生している。また、これまで自社Webサイトに注力してこなかった企業が方針を転換し、Webデザイナーとして手を動かしつつディレクター職を目指す方などを求める動きも目立った。経験を生かして次のステップを目指す方には、選択肢が多く活動しやすい時期だろう。
企業の顔ぶれは新旧入り交じりつつ、新規求人数は堅調な伸びを見せている。しかしながら個々の求人の募集期間は短くなっており、「5月に募集をスタートし、月内に充足し募集終了した求人の数」は4月に比べて130%増となった。新規求人で気になるものには即応募することが肝心だ。
DTPやグラフィックで経験を積んだ方のWebデザイナーへの転身が散見されている。若手であればスクールで学んで未経験からWebデザイナーへの転職を実現するケースも珍しくない。作品のテイストが企業の求めるものと一致するか否かが大きなポイントとなるため、積極的にチャレンジしてみるといいだろう。
1月〜4月の期間と比べ、Webディレクター職をはじめとするWeb系職種の募集は活発化している。全体的に選考スピードは上がっているが、Webディレクター職に関しては、3回以上の選考を実施する企業が多くを占めた。採用ターゲットは20代後半〜30代後半をメインとして、40代以上の即戦力にも広がっている。
EC市場の拡大は続いているものの、ECサイト運営、ECサイトディレクターの採用に関してはやや低迷している。特にECサイト運営職に関しては、採用枠が1〜2名という企業が多い上に人気が高く、求人が出ても即募集終了となってしまうのが実情だ。採用要件としては「2年以上のWebデザイン経験」「HTML、CSS、Photoshop、Illustratorの経験」などデザイン能力を求められる傾向にあり、ポートフォリオが決め手となるケースも少なくない。
活発な採用活動が行われているのは営業職で、好調なネット広告分野にさらに注力していこうという企業の思惑が感じられた。ターゲットとしては、依然として若手を求める傾向が顕著だ。
ここ数年顕著な成長を見せるインターネット企業では、プログラマであればPHP、Perl、Rubyなどを学べる制度を作り勉強会やセミナーへの参加を促す、デザイナーであればHTMLやCSSなどの講座を設けるなど、採用してからの人材育成に力を注ぐ動きが目立つ。メインターゲットは依然として即戦力だが、経験が浅い方にもチャンスがあるといえるだろう。
ソーシャルゲームを中心に積極的な採用活動が続くゲーム業界だが、半年前と比較すると、企業側もやや慎重になってきている印象だ。これまでは20代前半のポテンシャル層から40代のベテラン層まで幅広く採用していた企業が、より良い人物を採用したいという思いから求人を「オープンポジション」に限定するケースもあった。
iPhone/Androidアプリのダウンロード数増加に伴い、ネイティブアプリの開発を行っている企業の採用が活発化しつつある。Objective-C、Javaといった言語での開発経験は、今後の採用で重視されていくだろう。また、ネイティブアプリに注目が集まっている現在、スマートフォンアプリやゲームにとって重要な要素であるUI・UXに対するニーズはさらに高まると考えられる。デザイナー希望の方は、UI・UXデザインを意識したポートフォリオを作成することが大切だ。
「Web広告」「ソーシャルメディア」をキーワードとした新規求人が多く見られた。若手でキャッチアップの早い方が求められており、面接ではソーシャルメディアの利用経験を問うなど「ユーザー視点を持っていること」が重視されている。
5月に書類通過・内定が多く見られたのは、システムソリューション営業職だった。採用要件には「業界不問」「経験年数不問」といった文言が目立ち、経験年数が浅くても書類でしっかりと実績をアピールできた求職者は面接に進んでいる。
新規求人のターゲット層に大きな偏りは見られず、若手から40歳以上のシニアまで幅広い層が求められている。書類通過者の年齢層もバランスよく、各社ともに多彩な人材を求めていることがうかがえた。
新年度を迎えて増員を図る企業が多く、活発な採用活動が展開された。ポテンシャル層の採用も盛んで経験が浅い求職者にはチャンスだが、他者との差別化が図りにくいのが難点だろう。書類の段階で意欲を示すのはもちろん、面接時にも職種と業界、業種に対する熱意をぶつけることでライバルに差をつけたい。
5月は営業事務・一般事務の求人数が急増した。アルバイトや派遣社員が担当していた業務を正社員に切り替えた求人もあり、IT業界の順調な業績回復ぶりがうかがえる。業務内容は一般的なファイリングや営業アシスタントから営業ツール作成等を行う営業事務やデータ入力、販売管理、契約事務まで非常に幅広く、求職者はスキルや経験に合わせた選択ができる。なお、経理・財務職は4月の好調を維持しており、これに次いで人事採用・人事労務職、総務職も多くの求人が見られた。
第二新卒層をターゲットにした求人は増加傾向にあり、経験の浅いポテンシャル層にとっては好機だ。ポテンシャル層の定義は企業によってさまざまだが、大きくは「全くの未経験層」と「2年弱の経験を有する層」に分けられる。後者を求める企業は大手から小規模企業まで多岐にわたるため、企業規模の選択の幅も広がっている。
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