不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
7月は、これまでの傾向と同じように、活発な採用活動を行う企業が目立った。特に、スマートフォン(iPhone、Android)市場の活況は衰える様子がなく、開発エンジニア、ディレクター、プロデューサーの新規求人が増加した。
一方、特筆すべき変化がある。スマートフォン関連の職を目指す求職者にとっては好機が続くが、市場の成熟に伴ってスマートフォン経験者が増えてきた。そのため、これまで主流だった「ポテンシャル採用」が減少しつつある。これからスマートフォン関連の求人に応募しようとする人は、市場の動きをよく見極めて動いていただきたい。
7月の就業決定者全体の約35%がWeb業界だった。ポテンシャルを見込んで採用するケースが目立ち、採用意欲の高さが伺える。
ポテンシャル採用は、(1)今の仕事には関係なくとも、Web技術を自ら勉強していること、(2)勉強成果を形として見せられることという2点をクリアしているか否かが、合否の分かれ目になる傾向がある。
エンジニア系職種の求人が全体の50%近くを占め、6月比で25%プラスとなった。クリエイティブ職種は約30%(6月比162%マイナス)であり、エンジニア求人の好調が際立つ。しかし、この2職種が全体の採用意欲をけん引していることに変わりはなく、今後もこの傾向は続いていくだろう。
バックオフィス系、営業系、社内SE職まで、幅広い求人が展開された。転職市場全体を見ても、Web業界の採用意欲は飛びぬけて高い。求職者には積極的な応募を推奨したい。
スマートフォン向けアプリ開発では、自社Webサービスのスマートフォン化、アプリ化を進める企業において、採用が増えた。ポテンシャル重視の採用は減少し、経験を重視する企業が増えている。
求人のほとんどがHTML、CSS、JavaScript、ActionScript、PHP、Rubyといった技術を用いた開発経験者をターゲットとしており、スマートフォン向けではさらにJava、Objective-Cが求められる。
また、モバイル業界ではグローバル展開を狙う企業が増えており、中国語・英語を中心とした外国語スキルを求める求人が増加している。外国語スキルだけでなく、高い日本語能力も求められるためハードルは高いが、採用が決定したケースでは、通常の10〜15%ほど年収が増加している。
開発エンジニアの求人では、新規求人の約3割をスマートフォン(iPhone、Android)アプリ開発が占めた。地方での求人も目立ち、スマートフォン開発プロジェクトの増加が業界をけん引していることが分かる。
かつてはガラケーのサイトデザインには特殊なノウハウが求められ、容量の制限もあった。しかし、現在はWebサイトとほとんど変わりがない。そのため、デザイナーに求められるスキルが標準化しており、「モバイルサイト制作・デザイナー」というジャンルでの求人数は減少した。もはや、「モバイルサイト制作・デザイン」という区切り自体が消滅しつつある。
ゲーム・エンタメ系ジャンルの制作ディレクターの求人が、大多数を占めた。モバイルゲームというスタンダードなものから、コンシューマ向けゲームからの移植、フラッシュマーケティング、電子書籍関連、特定ジャンル向け情報サイト(スマートフォン対応含む)まで幅広い。Web受託開発企業からの新規募集は少なくなり、ほぼすべてが自社サービスを運営する企業からの求人である。
ハードウェアの求人は横ばいながら、ソフトウェアの求人は10%ほど増加した。「セキュリティプロダクト」「カーナビ」「半導体」など具体的な案件を見越した求人が多い。募集職種は、ほとんどがエンジニアである。
ここ数カ月横ばいで推移しているハードウェア業界に対して、ソフトウェア業界は引き続き増加傾向にある。6月に続いて、カーナビや半導体関連などを扱う職種が目立った。7月はターゲットとなる年齢層が拡大し、20代限定の求人から40歳台まで応募可能な求人が数多く見られた。
ここ数カ月で急増したインフラエンジニアの好調は続いており、約70%が「Linuxサーバの設計・構築経験」を要件としている。
開発系の求人でも、PHPを筆頭にJava、Rubyを必須とする求人が多く、Webアプリケーションの開発経験やWebサービスに関する何らかの経験を必須とするものが大部分を占めた。
注目すべきは、組み込みエンジニアの求人が、わずかながら増加に転じたことだろう。ターゲットは28歳〜40歳位までの年齢層であり、CまたはC++での3年以上の開発経験を採用条件とする求人が多く見られる。
自動車ECU、ロボットの設計、開発経験といったピンポイント求人に加えてブリッジSEの求人も少し出始めているが、日本人で中国語がビジネスレベルの人をターゲットとしているため採用ハードルは高い。
ソーシャルゲーム業界とコンシューマ業界は、相変わらず活況だ。どちらも、ほぼ同程度の求人数がある。
しかし、採用枠には大きな差がある。コンシューマ業界は1〜2名程度の求人であるのに対し、ソーシャル業界は大量採用枠を設定する企業が多い。
コンシューマ業界は1人を採用する際にとても慎重な選考を行うため、必然的にソーシャル業界より採用に至るケースが少ない。しかし、志望者は依然として多い。なぜなら、コンシューマ業界の経営悪化に伴って転職を考える人が、自分の経験業界を目指すからである。また、いちプレイヤーとしてコンシューマゲームを好む人が多いことも、一因だろう。
「今後の成長が見込めるかどうか」というポテンシャルを含めて判断するため、採用ハードルがコンシューマ業界に比べて低い。企業側のニーズとしては圧倒的にソーシャルゲームが有利なので、「コンシューマ業界志望だったが、ソーシャル業界に変更する」転職志望者も多い。
営業職の新規求人数が6月の水準を上回った。また、Web業界では広告業界での求人が増え、メンバーからマネージャまで幅広い層がターゲットとなった。
これまではWeb業界の営業職が主流だったが、SI業界の営業職が増えつつある。いまや、SI業界の営業職は、Web業界と比べても遜色ないほどだ。ある程度の業務知識を求める求人が大多数を占める中、同業界での経験やソリューション営業経験、エンジニア経験などがあれば応募可能といった、「業務知識不問」の求人もある。
Web広告関連では、従来のPCやモバイルといったプラットフォームに加え、新たにスマートフォンを含めた広告のプランニング、プロモーションの提案を業務とする求人が増加した。
広告業界での経験に加え、マーケティング要素を採用条件として挙げる企業も増えつつある。このため、広告営業経験だけでなく、広報やマーケティングという形で広告に携わった経験がある人にも、採用の門戸は広がっている。
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