求人数減少に歯止め。でも「リーダー経験」必須!IT業界 転職市場最前線(2)

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。]

» 2009年06月17日 00時00分 公開
[ワークポート]

 2009年5月度は、低迷を続ける転職市場にも明るい兆しが見え始めた。

 求人数の減少、求職者の増加という様相は変わらないものの、「景気の底が見え、少しずつ回復傾向にある」という見方を示す企業担当者が多く、求人案件数の増加が見られたのである。

採用への慎重姿勢は変わらず

 業界・業種を問わず、採用に対する慎重姿勢は続いている。

 特に、受託開発やアウトソーシングを事業の軸とする企業ほど、こうした傾向が顕著である。経験豊富な人材でも「アテンドできる案件がマッチングできなければ採用しない」というノーリスク採用を行うケースが増えている。また、業績不振が続き、優秀なエンジニアを手放さざるを得ない企業は少なくないようだ。

 他業種と比較すると好調な課金型・手数料型のユーザー向けサイト運営企業においても、不況を追い風とする企業と、あおりを受け始めている企業とに分かれ始めている。廉価で「お買い得」な商品を多く取り扱うネット通販サイトや比較サイトなどが業績を伸ばしているのに対し、不況下においては敬遠されがちな「高級感」を打ち出した旅行・宿泊系サイトは低調である。

 また、採用企業の選考基準も一段と厳しくなっている。特に応募時の最初のハードルである書類選考において、経験・スキル以外にも細かい条件を設定し、応募者をふるいにかける企業が増えた。

重視されるポイント 不採用の実例
転職理由
共感・納得できる理由でなければ不採用
離職期間
離職中に何をしていたのか、
納得できる内容でなければ不採用
在職区分
離職中の人は不採用
各社の在籍期間
3年未満の退職履歴がある人は不採用
転職回数
20代で2社、30代で3社以上の職歴がある人は不採用

表1 スキル・経験以外に重視されるポイント

 SIer(システムインテグレータ)では、1次請け、2次請けなどの立場にかかわらず、「リーダー経験」を求める企業が多い。20代後半以上ではリーダー経験がほぼ必須であると考えてよい。さらに、元請けを中心とする企業では多くの場合、リーダー経験のほかに「業務知識」を必須としている。不況を乗り越えるための即戦力として、教育コストをかけずに開発力およびマネジメント力が期待できる人材の採用が主流であることが明らかになった。

選考ハードルの上昇に戸惑う声

 3月末を境にシステム保守契約の終了した人材が大量に転職市場へと流入し、4月以降、エンジニアの供給過多が続いている。5月度においても、新たに転職活動を開始する求職者が後を絶たなかった。

 5月の特徴として顕著であったのは、発注元企業の情報システム部門に勤務する、いわゆる「社内SE」の求職者が増えたことだ。「社内SE」の求職者には、在籍企業の業績不振による不安感や、ドラスティックな異動への抵抗から、自らの意思で転職活動を開始した人が多い。

 一方、「担当プロジェクトが終了し、次期プロジェクトが決まらない」という理由で転職を余儀なくされている人も多い。特にVBやVB.NETを利用した開発に従事していたエンジニアに多く見られる。これらの開発言語はバージョンアップが比較的早いため、長期的な運用を必要とするシステムの開発には不向きであり、短期プロジェクトに使用される傾向にあることが原因の1つと考えられる。

 業界を問わず、「求人数の減少」「求職者の増加」という傾向は一般的に広く認知されるところだが、予想以上に厳しい結果を突きつけられる求職者は多い。特に、数年前に転職活動を行っていた「転職経験者」からは戸惑いの声が聞かれる。前回の転職時よりも選考ハードル・競争率が大きく上昇したことにより、自身が認識する市場価値と現実の乖離(かいり)が生じているのだ。

 数年前の感覚で「自分の実力なら通過して当然」「自分を高く買ってくれる企業を見つけたい」「自分の希望する企業しか受けない」といった強気な転職スタイルをとる求職者は、苦戦を強いられるケースが常態化している。

転職活動の長期化により、人材紹介会社の利用・併用者が増加

 ワークポートの転職支援サービスの新規利用者を職種別に分類すると、「アプリケーション開発(Web・モバイル系)」「アプリケーション開発(オープン系)」「営業(法人向け)」が多く、先月から大きな変化は見られなかった。しかし、「社内情報システム・EDP・MIS」や「サポート・運用・保守・教育」の求職者が急増し、反対に「その他事務・管理系」「秘書・アシスタント」が合わせて4ポイント以上減少している。事務系バックオフィス要員の人員整理・配属変更を終えた企業が、社内SEやサポート部門の調整に乗り出した可能性を否定できない。

2009年4月 2009年5月
アプリケーション開発
(Web・モバイル系)
11.6%
アプリケーション開発
(Web・モバイル系)
11.0%
アプリケーション開発
(オープン系)
10.8%
アプリケーション開発
(オープン系)
10.3%
営業(法人向け)
10.8%
営業(法人向け)
9.6%
アプリケーション開発(汎用系)
6.5%
デザイナー
7.6%
デザイナー
6.2%
アプリケーション開発(汎用系)
7.2%
アプリケーション開発
(制御・組み込み系)
5.9%
サポート・運用・保守・教育
6.5%
その他 技術系(ソフトウェア)
4.9%
社内情報システム・EDP・MIS
4.8%
その他 事務・管理系
4.3%
プロデューサー・ディレクター
4.8%
プロデューサー・ディレクター
4.1%
ネットワークエンジニア
(保守・運用)
4.1%
サポート・運用・保守・教育
3.8%
その他 技術系(ソフトウェア)
3.4%
秘書・アシスタント
3.8%
アプリケーション開発
(制御・組み込み系)
3.4%
ネットワークエンジニア(設計)
3.5%
プロジェクトマネージャ
3.4%
社内情報システム・EDP・MIS
3.2%
ネットワークエンジニア(設計)
2.4%
プロジェクトマネージャ
2.7%
その他 事務・管理系
2.4%
ネットワークエンジニア
(保守・運用)
2.7%
その他 技術系(電気・電子)
2.4%
商品企画・マーケティング
2.2%
経理・財務
2.1%
生産技術・製造技術・
エンジニアリング
2.2%
その他 クリエイティブ系
2.1%
その他 クリエイティブ系
2.2%
経営企画・事業企画
1.4%
その他 技術系(電気・電子)
1.9%
秘書・アシスタント
1.4%

表2 ワークポートの各月の新規利用者に占める職種の割合
(調査対象:ワークポート転職支援サービス利用者)

 人材紹介会社を利用する求職者にも変化が表れた。ワークポートの転職支援サービス申込者の「人材紹介会社の併用数」を調査すると、ワークポートのみ(人材紹介会社の利用は初めて)という人が激減し、5社以上の人材紹介会社を併用している人の割合が増加した。人材紹介会社を利用しても転職を果たせず、次々に新しい人材紹介会社への登録を繰り返す人が増えた結果といえるだろう。

 「人材紹介会社を利用しても転職先が決まらない」という状況を裏付けるように、以前では考えられなかった「ほかの人材紹介会社を紹介する」人材紹介会社も増えている。

求人数の減少に歯止め、にわかに復調の兆し

 各企業の採用に関する慎重姿勢は依然として強く、求職者にとっては厳しい状況が続いているものの、2009年5月は求人数の減少に歯止めがかかり、新たな求人案件が市場に現れるようになってきた。優秀なエンジニアが多く転職市場に流入している現状を見て、「いままで採用できなかった優秀な人材の獲得」のために費用を投下する積極的な採用活動を行う企業も増えつつある。

 求人広告メディアの利用状況においても、人材ニーズの回復傾向がうかがえた。これまではオンラインによる求人広告の購入・掲載には消極的であった地方のIT企業が、安価で掲載できる媒体としてオンラインメディアの利用の検討を始めているようだ。

 「営業職」は先月に引き続き需要が高く、クリエイターの新規募集も目立った。5月に入り、プログラマやSEの募集を再開する企業が増えたことも、求職者にとってうれしい傾向だろう。こうした企業の特徴として「拡大志向よりも安定志向であり、好調期にも急激な事業拡大を行っていない」「固定顧客を確保している」「上場・非上場を問わず、業績が好調」などが挙げられる。

 また、在籍企業への経営不安から転職に踏み切る人が増えた結果、雇用側の意図せぬ「欠員」が生まれ、「急募」の求人情報が増えたことも特徴的であった。

 一昨年までの売り手市場から一転しての「買い手市場」に、コストを抑えた採用が比較的容易になったことは事実だろう。しかし、本当に求める人材の確保には苦戦している企業が多いのも実情である。

 企業は求人広告をただ出稿するだけではなく、その求人広告から企業ホームページへの導線を引き、これを機軸として効果的な露出を図る必要がある。会社代表や人事担当者のブログ、転職者へのメッセージ掲載、会社ブランディングなど、さまざまな切り口を設けて他社との差別化を図ることが、採用成功の重要なポイントとなるだろう。


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