不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
今の時期は最も採用活動が活発化する。求職者は夏のボーナスをもらって転職活動を開始し、企業人事は上半期の採用目標を達成しようとするためだ。
どの業界でも採用活動は活発で、求人数も増加傾向だった。業界未経験者、実務未経験者でも可とする求人も多く、伸びしろに期待して若手を育成しようとする企業も多い。
ソーシャル系、EC系などWeb関連企業の求人ニーズが、上限に近づきつつある。しばらく高止まりはするものの、実務未経験からの挑戦、異業種からの転身などのハードルは今後どんどん上がっていくだろう。
上限に近づきつつあるとはいうものの、ソーシャルゲーム系は採用ニーズが高い状態だ。コンシューマーゲーム企業出身のプランナーやエンジニアでも、年収維持もしくは年収アップでの転職が十分に見込める。
ソーシャルアプリ・プロバイダでは、エンジニアを筆頭とし、ディレクターやデザイナーも積極採用している。
ソーシャルアプリ・プロバイダは、特にイラストレーターの採用がさかんだ。実務未経験でも、専門学校の作品やプライベートの作品で選考が進むケースが見られる。また、メンバー層がある程度そろった企業では、組織固めに向けて中間管理職クラスの採用を開始している。
7月同様、EC関連の好調が続いている。特に8月は、新規事業の立ち上げ、既存コンテンツ充実のため、人材を求める企業が目立った。
ソーシャルゲーム関連の求人は、「ソーシャルアプリ開発」「サイト運用・保守」から「プロデューサー、ディレクター」「プランナー、マーケティング」「デザイナー」「営業」まで多岐に渡る職種で増加している。
若手層のポテンシャル採用枠、マネジメント層の求人が増えており、即戦力として活躍できることはもちろん、若手育成のスキルが問われている。
プランナーは企画力を重視し、「Web系企業での事業企画経験」「チームでの企画・開発においてメンバーをまとめた経験」「ゼロからサービスを企画し、立ち上げた経験」などを求める企業が多い。
一方、業界にはこだわらず、流行に敏感でモバイル・Web業界に対する興味と知識を重視して、異業界からの求職者も積極的に受け入れている。
システム・インテグレータ(SIer)での求人が増加している。業界経験者を募集することが多い。また、インフラエンジニアのニーズが増えている。
システム・インテグレータ(SIer)での求人が増加した。金融や医療、製造業、物流、通信、公共など、求人分野は幅広い。同業界の出身者=即戦力をターゲットとする企業が多い。
また、プロジェクト・マネージャ・リーダー職は、求人数は横ばいだがニーズは高い。プレイング・マネージャとして活躍できる人材には好機が到来している。
企業が保有するデータ量の増加に伴い、インフラエンジニアのニーズが高まっている。
ネットワークエンジニアの求人数は7月比で1.5倍、サーバエンジニアは約2倍となった。
サーバ負荷分散の経験がある人をターゲットとした求人、社内のインフラを支える社内SEの求人も増加している。
企業が扱うデータ量が飛躍的に増加していることから、データマイニングやデータアナリストの求人が目立つようになった。
中でもソーシャルゲーム業界は、ゲーム自体のデータ量に加えて膨大なユーザデータを保有しているため、データを分析して今後に生かしていくという意味で、今後のビッグデータ市場の成長に大きく寄与することになるだろう。
ソーシャルゲームの熱風はいまだ収まるところを知らず、市場を支える軸の1つとなった。
一方で、業界の象徴とも言える企業の株価が下落して、企業の先行きが心配されることから、「ソーシャルブームは過ぎ去ろうとしているのでは?」という見方があるのも事実だ。急激な衰退はないにせよ、今後の推移を注意深く見守っていきたい。
ソーシャルゲーム企業の海外展開と海外マーケットの事情が絡み合い、国内のソーシャルゲーム関連職に新しい流れが見えてきた。
国内枠で採用されたエンジニアが、数カ月後にはアジア拠点で活躍する——といったケースも珍しくはない。
新たな収益源を求めて海外展開を加速させる企業は今後ますます増えていく。それに伴い、国内ゲームを海外向けにローカライズする人材のニーズも高いことから、国際的な視野を持った人、語学力のある人の重要性がさらに増していくだろう。
国内のゲーム企業における直近の特徴的な動きとして、「管理部門の強化」が挙げられる。
急成長を遂げている企業では、成長を支える管理部門の強化が急務だからだ。ソーシャル業界の経験者だけではなく、異業界での経験しか持たない人材にも十分に転職の可能性がある。成長企業に興味がある人にはチャンスだろう。
7月に増加したSIerに加え、広告、モバイル、ゲーム、パッケージなど幅広い業界で求人が増加した。
メンバークラスの募集が活発化する一方で、マネジメント層の求人数は横ばいの状態が続いている。
求められる要件もレベルが高く、マネジメントの実務経験はもちろん転職前後に扱う商材の親和性や直近の実績が問われているため、いかに即戦力として活躍できるかが採用のポイントとなるだろう。
営業事務・営業アシスタント職の求人は、SIerやゲーム業界に加え、自社サービスを提供している企業でも増加傾向にある。
要件は、マイクロソフトオフィスの使用実務経験など比較的軽めで、ターゲットは20代前半の第2新卒層がメインだ。
企業が求める要件へのアピールのみでは他者との差がつきにくいため、英語・中国語・韓国語などの語学スキルや技術力をいかにアピールするかが鍵となる。
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