不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
IT業界の転職市場は、上昇気流に乗っている。
本格的な回復を果たしたとはいえないまでも、業界外からの採用や、若手ポテンシャル層の採用が始まるなど、求職者にとってうれしい傾向が見られる。
特に、新規事業やWeb・モバイルサイトの新規立ち上げに伴う募集が増えるなど、企業各社の「攻め」の姿勢が印象深い。多くの企業が、ソーシャルアプリや新しいプラットフォーム(スマートフォン、iPadなど)へ参入するための新たな人材確保に力を入れている。
その立役者は、なんといってもソーシャルアプリ/ソーシャルメディアだろう。IT系転職市場はソーシャルアプリ関連の求人で賑わい、Web/モバイル業界では採用競争が起こっている。
一部の業界・業種ではいまだに回復の遅れが目立つものの、確実にチャンスは広がっている。この波を上手く捉えて、ぜひ転職を成功させてほしい。
Web業界の採用意欲は衰えを知らず、求人ニーズは日々高まっている。
業績好調による増員や欠員補充のための募集が継続的に発生していることに加え、新年度の採用計画が定まったことで、これまで採用を控えていた企業からのニーズが顕在化した。
特に4月ごろから「急募」の求人が増加している。急募求人は募集企業の採用意欲が高く、選考スピードが早い。また、書類選考も通過しやすい傾向があり、求職者にとっては狙い目といえる。ただし、募集終了までの期間も短いため、いち早く求人情報をキャッチし、スピーディーに応募することが必要だ。
Webエンジニアは非常にニーズが高い。LAMP開発経験者を求める企業が多く、5月以降に発生したWebエンジニア系求人のおよそ65%が、LAMP開発経験を必須または尚可とする求人だった(特にPHP経験者のニーズが高い)。年齢による違いはあるものの、2〜3年程度の業務経験が求められる。20代半ばまでの若手であれば「(LAMPでの)実務経験半年で応募可能」とする求人も見られた。
Web業界では自社サービスの開発を内製化しようとする動きが続いており、同様に自社のインフラを任せられるネットワーク、サーバエンジニアのニーズが拡大している。その結果、SIer/NIerから自社サービス運営企業へ転職を果たす事例が増えている。
また、即戦力層から若手ポテンシャル層へと、採用ターゲットが広がりを見せている。経験言語を指定しない若手募集(Linux環境によるWeb開発エンジニア経験者、など)が増え始めている。
Webディレクターやプロデューサー職は新規求人が多く、順調なニーズの回復が見られる。ソーシャルアプリ関連の求人が豊富なほか、Webを専業としない事業会社が、EC事業拡大のためにWebディレクター/プロデューサーを募集するケースが増えている。Web制作会社やWebインテグレータも積極採用に乗り出している。
低迷が続いていたデザイナー職も、景気回復の追い風を受けて求人数が増加した。ソーシャルアプリ市場の拡大により、FlashやJavaScriptの経験者を求める企業が増えている。このほか、SNS運営/制作会社からのニーズも徐々に回復に向かっている。
モバイル業界では、ソーシャルアプリやソーシャルメディア関連の求人数が急増している。しかし、ソーシャルアプリ事業者の中には、「1〜2年で業界のトップグループに入れなければ生き残れないだろう」という見方もあるようだ。このため、各求人への応募時には、求職者側でも慎重な見極めが必要だろう。
このほか、エンターテインメント/ゲーム業界を中心とした、従来型の「キャリア公式サイト経験者」を募集する求人が目立った。
モバイルアプリケーション開発者の求人ニーズは衰えることがなく、20代の若手エンジニアの採用に至っては、募集企業間での激しい獲得競争が始まっている。特にPHP経験者は人気が高く、応募条件を緩和する動きが見られた。若手であれば、PHPによる実務経験がなくても選考の対象となるケースがある。
また、少しずつではあるが、iPhoneやAndroidのアプリケーション開発エンジニアの募集が始まっている。ソーシャルアプリと合わせて、今後注目の分野といえる。
クリエイター職種では、ゲーム系、エンタメ系の求人が大半を占めている。募集条件に「丸みのあるデザインが得意な方」「女性向けコンテンツの経験」「エンタメ系コンテンツの経験」などと指定されることが多く、経験分野を限定して募集する傾向が目立った。
モバイルプランナーやディレクターポジションでは、大手受託系企業からの求人が増加した。本年度中に数十名規模の採用を予定している企業もあり、安定したニーズが見込める。また、自社コンテンツ(勝手/公式サイト)の運営企業も積極的な採用を行っている。
求人ニーズの急激な回復は見られないものの、SIerやNIerでは求人数が緩やかに増加。選考基準の緩和や若手ポテンシャル採用の再開などが見られるようになった。
一方、ハードウェアメーカーやソフトウェア業界からの求人ニーズは横ばいが続き、いまだ厳しい状況を脱していない。
ハードウェアメーカーからの採用ニーズは回復せず、前月から引き続き求人数が減少した。携帯電話、内視鏡、電気回路などの分野で、特定の技術スキルを求める求人がわずかに存在するだけで、応募資格を持つ人材は非常に少ないのが実情といえる。
ソフトウェア業界では前月に求人数増加が見られたものの、その後は横ばいが続いている。比較的ニーズが高いのはセキュリティソフト関連企業だが、求められる経験やスキルを満たしている求職者は少ない。
生損保や銀行を中心とした金融分野で安定したニーズを維持しているほか、キャリア/公官庁向けプロジェクト要員の採用が活気付いている。製造系や流通系システム関連の求人も少しずつ増加の傾向にあり、明るい材料といえるだろう。
エンジニア募集においては、選考基準の緩和が見られる。ターゲットを絞ったピンポイント採用から、今後の事業展開を見越した採用へと、採用方針を転換する企業が増えているようだ。ただし、案件獲得のめどや、獲得した案件との最終的なマッチング度合いを確認するため、採用決定までに時間がかかるケースが多い。最終面接から3日以内に結果を出す企業は3割程度と、最終段階において各社が慎重になっていることが分かる。
大幅な求人増とはいかないが、Web系の開発案件に着手する企業が現れ、全体の求人数はわずかに増加した。上流工程の経験者を求める傾向がいまだ根強いものの、企業は少しずつ若年層にも目を向け始めているようだ。20代半ばまでの若年層であれば、ネットワーク、サーバの設計/構築経験が一部または短期間であっても、書類選考に通過するケースが増えつつある。
ソーシャルゲーム、オンラインゲーム分野は採用意欲が高く、多くのポジションで求人ニーズが発生している。他業界から転職を果たす事例も増えており、ゲーム業界未経験者にも可能性が広がっている。
一方、コンシューマゲーム分野では大きな動きが見られず、通期の採用を続けるに留まっている。採用を急がないため選考ハードルが高く、転職が難しい分野といえる。
ソーシャルゲーム分野では、開発エンジニア、ディレクター、プロデューサーをはじめ、プランナーや運営など、多くのポジションで求人が発生している。採用意欲も高く、多くの企業が積極的な採用を行っている。
モバイルコンテンツプロバイダーがソーシャルゲームへの参画を図り、ゲームのノウハウを得るためにコンシューマゲームのディレクション経験者を採用するケースが増えている。コンシューマゲーム、モバイルゲームの双方で経験を持つディレクター/プロデューサーは、複数の企業からオファーを受けることが少なくない。
オンラインゲーム分野は、コンシューマゲームと比較すると採用意欲が高い。特にプランナーとエンジニアのニーズが高まっている。また、意外にもサポート系のポジションもニーズが高い職種だ。サポート職はゲーム業界外から採用するケースが見られ、通信関係やPCソフトのサポート経験のみでも、ユーザーとしてオンラインゲームを深く理解していれば採用に至ることがある。サポート職は他業界からゲーム業界に転職できるポジションとして、人気が高い。
パチンコ/パチスロなどの遊技機業界は依然として求人数が多い。募集終了となることが少なく、求人数は増え続けている。豊かな表現が可能になった液晶表現の進化に伴い、CGデザイナーのニーズが高まっている。
営業関連職は順調に求人数が増加している。首都圏の求人ニーズに留まらず、地方都市での採用も活気付いている。また、新たな支店やコールセンターなどの立ち上げに伴う「責任者クラス」の募集が見られるようになった。新年度の採用計画策定により、バックオフィス系職種も求人の幅を広げている。
営業関連職の求人数は好調な伸びを示し、前月比で3割増となった。Web業界の広告系求人が堅調なほか、「BtoB向けのEC」や「メディアレップ」「広告代理店向けの開拓・深耕営業」で求人数の増加が見られた。特に、SEO/SEMを中心としたWeb広告関連の営業職では採用競争が激化している。
また、これまで採用をひかえていた商社系SIerの採用活動が活発になった。ただし、新たなビジネス展開のための要人として同業界のビジネスプロセスに精通した人材が求められており、選考ハードルが非常に高い。一方で、先述のWeb広告やSEO/SEM関連営業職では、若手層の募集拡大が見られた。
経理/財務職の求人ニーズは堅調である。特定の業界に偏ることなく、幅広い業界から新規の求人が発生した。ただし、選考ハードルが下がることがなく、採用企業の規模/業態にマッチする人材をよりピンポイントに求める傾向が強まっている。未経験分野にチャレンジしてスキルアップを希望する求職者が多いが、企業側の要望とは乖離(かいり)があり、転職に難航するケースが見られる。より自身の経験にあった企業を選ぶことが、成功への近道といえる。
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