不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
新年度は、さまざまな新しい動きが出る時期である。まず、新入社員が入社するなどの若手増員に伴い、彼らを育成するマネジメント層やマネージャ候補生となる人材を求める動きが目立った。
また、新年度は企業ごとの採用計画が発表される時期でもあり、これから次第にそれぞれの戦略が見えてくるだろう。2011年度比で2倍の人数の採用予定を掲げる企業もあり、転職市場はさらに活性化するだろう。
求人数全体のうち、約7割がWeb企業からの求人と、最も好調である。特に、ECサイトに関わる求人が目立ってきている。WebエンジニアやWebディレクター・Webデザイナーをはじめ、Webサイト企画・運営、マーケティング関連の求人が増加している。東日本大震災により、Web経由で物を調達する動きが活発化したことが、1つの要因と考えられるだろう。
LAMP開発経験のあるエンジニアのニーズは依然として高い。Web業界全体の求人数のうち、Webエンジニアの求人26%と最も高い。エンジニアへの求人が、今後もWeb業界を牽引していくだろう。
Webエンジニアに次いで、次に求人数が多かったのがWebデザイナー(19.5%)である。イラストやキャラクターデザイン、紙や販促物などグラフィック系のデザイン経験を必要とする求人が増加しており、DTPデザイン経験、マンガや絵を描くことが好きな人には、チャンスが拡大している。
ソーシャルゲーム関連の採用が、相変わらず活発だ。一部のソーシャル・アプリ・プロバイダは1カ月で10人以上を採用するなど「積極採用」を継続しているほか、コンシューマー・オンラインゲーム企業もソーシャルゲームへのシフトを加速させている。
ゲームだけではなく、音楽・エンタメ分野のスマートフォン向けアプリ開発も増加している。大量採用ではないものの、EC系やポータルサイト系の求人も、継続的に展開している。Java、Objective-C、PHPという鉄板どころだけではなく、RubyやPerlでの開発経験を有する人材のニーズも高まっている。
メインターゲットはPHP、Javaでの開発経験者だが、Objective-Cでの開発経験者への需要も、一定数ある。普段からソーシャルゲームに馴染んでいるなら、異業種からでも十分、転職のチャンスはあるだろう。
エンジニア同様、デザイナーのニーズも高く、ゲーム業界以外からの転職希望者にも内定が出ている。ポートフォリオできちんとしたデッサン力をアピールすることがポイントだ。
一括請負によるシステム構築モデル依存からの脱却・転換を図り、積極的にクラウドコンピューティング事業に投資する企業が目立つ。クラウドサービスに関わるエンジニア、サービスを提案する営業職、サポート職といった求人が増加している。他、セキュリティ分野の求人増加にも注目しておきたい。
システム・インテグレータ(SIer)の採用は依然として活発だ。中でも、Web系SIerの採用ニーズが高く、エンジニアの募集は業務系SIerの3倍以上である。
要件として、Linux環境でJavaやPHPを用いての開発経験を挙げる企業が多い。また、パッケージベンダの採用も活発化しており、エンジニアのみならず、セールス職やサポート職の求人も増えている。
好調が止まらないSIerとは対照的に、ネットワーク・インテグレータ(NIer)の好調は、いったん休止符を打たれた。求人数は、2〜3月にかけてはほぼ横ばい。代わりに、セキュリティ・エンジニアの求人が増加してきている点に注目したい。
ソーシャルゲーム業界では、人気のある版権を使用したタイトルが人気で、会員数100万人以上のヒットタイトルも出始めた。これに伴い、豊富なIPを有するテレビ局が、ゲーム開発会社と協業して自社のIPを有効活用しようとする動きを強めており、今後の鍵を握る存在になるのではないか、と見ている。
求人数は1月比120%と、ソーシャルゲーム業界を中心に、活発な採用活動が続いている。プロデューサー・ディレクターの求人が1月比1.4倍、クリエイティブ・デザイナー系の求人が0.8倍、エンジニア(開発・インフラ系)の求人が1.3倍だった。また、「急募」の求人は1月比1.3倍であった。
エンターブレインが2012年1月に行った発表によれば、2011年国内ゲーム市場規模は昨年比92%と、市場規模は縮小しており、厳しい状況が続いている(参考: 2011年のゲーム市場規模は前年比92% )。
とはいえ、人気ソフトの投入によって市場を活性化しようという動きが功を奏し、コンシューマゲーム開発のニーズも少しずつ増えてきた。そのため、コンシューマゲーム開発企業への転職成功事例も少しずつではあるが、増えている。
20代の若手やポテンシャル層をターゲットにした求人が増加している。「若く勢いのある人材を採用」することにより、新年度のスタートダッシュを切りたい、という企業の意向だろうか。
20代の若手やポテンシャル層をターゲットにした求人が増加している。「若く勢いのある人材を採用」することにより、新年度のスタートダッシュを切りたい、という企業の意向だろうか。
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