不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
9月のIT業界転職市場を振り返る。9月は、連休や台風などの影響を受けることもほぼなく、採用活動は活発だった。
9月の就業決定者のうち、全体の約75%が「Web業界」と、その好調は衰えを見せない。8月のトピックとして取り上げた「海外展開を見据えた採用」はさらに増加傾向にあり、英語力が鍵となる職種は今後も増えていくだろう。
8月に続き、活発な採用活動が続いている。企業側が、四半期・半期を締めるタイミングに合わせて、新規求人の追加や案件の見直しを行ったため、求職者のチャンス拡大につながった。
エンジニア系職種は全体の約48%(前月比+11%)、クリエイティブ系職種は約32%(前月比−5%)を占め、中でもJavaエンジニア、PHPエンジニアの求人が特に好調であった。9月の就業決定者のうち全体の約75%がWeb業界だが、他の業界での就業決定者も、何らかの形でWeb業界とつながるポジションであることが多かった。
8月と同様、プロモーションやマーケティング、営業、サポートなど幅広い職種の求人があった。積極的に海外進出を計画する企業が増えているため、外国籍を持つ人の採用に注力する企業が目立つ。Web業界においては、「英語」が今後のキーワードとなりそうだ。
スマートフォンユーザーの増加は求人マーケットにも多大な影響を及ぼしている。Webやモバイルにおけるカテゴリの1つとしての扱いではなく、明確に「スマートフォン向け」であることをうたった求人が目立つ。人材獲得競争は激化しており、企業はあらゆる職種において苦戦を強いられているのが現状だ。
企業は、積極的にエンジニアを採用しようとしている。新規求人のうち約半数が、スマートフォン(iPhone、Android)アプリ開発エンジニア、ソーシャルゲーム開発エンジニアの求人だったことからも、その採用意欲がうかがえる。
Java、PHPエンジニアのニーズは相変わらず高く、BtoC向けのWebサイトやアプリなどを開発した経験を持つエンジニアも歓迎される傾向にある。Objective-C、Perl、 Ruby、Pythonなど、募集言語の幅を広げたり、求める経験年数を1年以上に緩和したりといった、採用ハードルの引き下げも見られた。
ソーシャルゲームのディレクター、プランナー職の求人増加が目立った。ソーシャルゲーム関連の実務経験があれば、経験年数やプロジェクトに携わった期間は問わないというケースが多い。コンシューマーゲーム業界からの転身は厳しいが、ソーシャルゲームとの親和性が高いオンラインゲームやモバイルゲームの経験者は、採用ターゲットとなり得る。
エンジニアについては、アサイン案件の増加を理由に募集を行う企業が多く、8月以来の好調を維持している。プロジェクトの内容としては「スマートフォンアプリ開発」「ECシステム構築」「ソーシャルメディアのアプリケーション開発」「教育機関向けシステム開発」などが多い。
SI求人の約65%はJava、PHP、.NETなどWebに特化した言語とスキルを求めている。中でもオープン系言語での開発経験を有する人のニーズが高い。
ソフトウェア開発では、「教育」「EC」「Web」がキーワードだ。そのため、「学校教育向けパッケージソフト開発」「EC支援ツール開発」などの求人が目立つ。
メンバークラスとリーダークラス、もしくは経験者とポテンシャル、それぞれにポジションを設けて求人を展開する企業が多かった。また、最近では「テクニカルディレクター」の募集が目に付いた。
これは、Web制作に関する一連の流れを踏まえてシステム側の視点から企画立案し、受注後は開発パートナーへの発注から納品まで責任を持つポジションであり、バックエンドのシステムまで一貫して請け負う制作会社で多く見られる。「Webアプリケーションの開発経験」「要件定義におけるクライアントコミュニケーション」に加えて「Webディレクション経験」が必須条件となっている。
夏以降、組み込みエンジニアの求人がコンスタントに増加している。Web系に比べると数こそ劣るものの、仕事内容は幅広い。C、C++での開発経験が求められる傾向は変わらない。
NIerの求人では、若手を求めるものが目立ち、大手通信キャリアや、プロバイダなどの案件増加に伴い、設計・構築の経験、または構築・運用の経験が求められている。
ゲーム業界では、9月の就業決定企業のうち約95%がソーシャル業界で、コンシューマ業界はわずか5%に留まった。職種で見ると、プログラマ職、プランナー・ディレクター職、デザイナー職がそれぞれ3分の1ずつと、採用職種に偏りはない。
ゲーム業界における9月最大のトピックとといえば「東京ゲームショウ2011」の開催である。来場者数は過去最高の2万2668人を記録し、ゲーム業界の人気ぶりを裏付ける結果となった。活況を物語るソーシャルゲーム企業の大きなブースが印象的だったが、コンシューマ業界も新型ハードやビッグタイトルの出展など、明るい話題を提供し、採用ニーズの高まりを予感させた。
ソーシャル業界とコンシューマ業界の求人数を比較すると、ソーシャル業界の強さが分かる。プログラマを募集するソーシャルゲーム企業数はコンシューマ企業の2倍、プランナー・ディレクター職は2.2倍、デザイナー職は2.5倍であった。
業界の活況具合が大きく影響していると思われるが、経験豊富な人材を慎重に採用していくコンシューマ業界と、ポテンシャルも考慮してがんがん採用していくソーシャル業界という、採用方針の違いも大きいだろう。
新規求人は微増ながら、インターネットコンテンツ・プロバイダ、インターネット広告代理店、パッケージソフトウェアメーカーなどの募集が開始となった。また、最近の傾向として、「海外営業職」など、英語力を求める求人の増加が挙げられる。
微増となった新規求人では、20代をターゲットとしたポテンシャル採用や、異業種からの転身を歓迎する求人、経験した営業の形態を問わない求人など、採用ハードルを下げた求人が目立った。
法務職の募集が増加している。ソーシャル企業をはじめとして、自社製品・サービスを有する企業やグローバルに事業を展開する(または、展開する予定がある)企業において、採用募集が多い。
英文契約の作成や審査経験を有することが望ましく、英語のスキルは必須だ。他方、人事関連職では、若手のアシスタントから30代のマネジメント経験者まで、幅広い層をターゲットとする求人が出そろった。「人材業界経験者」などピンポイントの人材をターゲットとしているケースが多い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.