Javaや.NETなど、LAMP以外にも採用ニーズ広がる:IT業界 転職市場最前線(17)
不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
ソーシャルメディアを中心に、Web/モバイル業界の勢いは衰えず、活発な採用活動が続いている。「急募」とする求人が多く、募集開始から終了までの期間が短いのが特徴だ。また、ソフトハウスやSIer(システムインテグレータ)からの採用ニーズも順調に回復へと向かっている。
こうした好調な業界においては、募集職種の多様化や採用ターゲットの拡大が見られ、転職成功の事例が増えている。
一方、ハードウェア業界やNIer(ネットワークインテグレータ)の回復は鈍く、いまだ苦境から抜け出せない人材が多いのが実情だ。
しっかりと市場の動きをとらえ、チャンスを逃すことなく応募につなげることが、転職成功の鍵を握っているといえるだろう。
Web業界
Web業界の転職市場は好調を維持している。お盆前後は採用スピードがやや失速したものの、採用意欲に衰えは見られない。
職種別に見ると、Webエンジニアの求人が最も多く、次いでWebデザイナーが好調だった。そのほか、広告営業や社内SEなどの求人も増加している点に注目したい。
エンジニア:LAMP経験者以外にもニーズが広がる
5月以降、Webエンジニアの採用は非常に活発であり、引き続きLAMP経験者が人気だ。「LAMP開発経験者が理想だが、まずはPHPができればOK」という企業が多い。これらの経験を持つエンジニアは、経験年数による差はあるものの、おおむね20代では40〜50%、30代で30%以上の書類通過率を誇る。
次いで、Linux、Java関連求人が増加している。少数ではあるものの.NETでの開発経験者を求める求人も増えつつあり、LAMPエンジニア以外にも可能性が広がっている。
前月同様に「急募」の求人が目立つ。「応募開始翌月の入社」を目標とした求人が多く、それだけ「採用決定までの期間が短い」のが特徴だ。
また、業界で名の知られる「有名企業」への転職成功事例が増えたことも特徴的といえる。このような有名企業の求人には応募が殺到する傾向があり、早期に募集終了となる場合があるため、求人が発生したら早急に応募することが必要だ。
クリエイター:スペシャリストの求人が増加。年収アップの可能性も
デザイナー職の求人は増加傾向にある。ただし、エンジニア職と同様に募集開始から終了までの期間は短い。前月に新規募集開始となった求人のおよそ半数は1カ月以内に募集終了となった。
Flashクリエイターをはじめ、UI(ユーザーインターフェイス)デザイナーやインフォメーションアーキテクトなど、スペシャリストを求める求人が増加している。このようなスペシャリストは専任として活躍している人材の絶対数が少ないため、企業側のニーズに合致すれば、年収アップが狙えるポジションである。
求人票にある必須経験年数に満たなくても、採用に至った事例がある。実務経験以外でも、アピールできるスキルがあれば積極的にチャレンジしてほしい。
ディレクター/プロデューサー:ポテンシャル層、リーダー層でも採用ニーズが発生
自社サイト運営企業、Web制作会社/インテグレータの双方から、新たな採用ニーズが発生している。これまでの求人は即戦力人材の募集に集中していたが、20代の若手ポテンシャル層や、リーダー層の募集も見られるようになった。書類選考の通過率もわずかに上昇しており、ニーズの高まりがうかがえる。
ただし、「1名募集」であることがほとんどであり、募集開始から終了までの期間が短い。
モバイル業界
ソーシャルアプリやソーシャルゲーム関連を中心に、採用活動が非常に活性化している。
AndroidやiPhoneなどへの事業展開に積極的な企業からのニーズも顕在化しており、今後はさらなる求人の増加が期待できる。一方、8月以降はディレクター/プロデューサー職を中心に、フィーチャーフォン(日本で普及している多機能携帯電話)を対象とした従来型キャリア向けコンテンツ制作のための人員募集も増加した。
エンジニア:募集枠の拡大が見られるも、大規模サイトの経験が求められる
GREE、モバゲータウン、mixiなどのソーシャルプラットフォーム向けゲームの提供を目的とした求人が多く、LAMP経験者の募集が活発に行われている。
このようなソーシャルアプリケーションプロバイダは、これまで小規模ベンチャー企業が主流であったが、徐々に大手メディア企業からの募集が目立つようになってきた。複数名を募集する企業もあり、採用枠の拡大につながっている。
ただし、大規模なアクセスを想定した開発を求められるため、小規模サイトの開発や業務系サイトの経験しか持たない場合、LAMP経験者であってもスキルのミスマッチと判断されることが多い。また、自社で採用している開発フレームワークの経験者を優遇する傾向にあるため、CakePHPやsymfonyなどのフレームワーク経験者は、職務経歴書に明記すると有利となる場合がある。
クリエイター:30代リーダー層の採用が始まる
これまでは20代の若者をターゲットとする求人が大部分を占めていたが、新たに30代の採用ニーズが見られるようになった。若手を取りまとめるリーダー経験者を求めたいというのが企業側の意向だ。数名程度のチームリーダー経験や後輩指導の経験であっても、効果的にアピールすることで採用の可能性は高まるだろう。
若手の採用では、引き続きFlashクリエイターの人気が高く、経験者にとっては転職しやすい時期といえる。
ディレクター/プロデューサー:自分でもソーシャルゲームをプレイしておこう
モバイル業界のディレクター/プロデューサー求人数は増加が続いている。特に、好調が続いているソーシャルゲームやソーシャルアプリ関連の採用が活発だ。実務経験のほか、プライベートでのソーシャルアプリ利用経験も選考の判断基準となる場合がある。そのため、面接前には応募企業の作品(ソーシャルゲーム/ソーシャルアプリ)をプレイしておくのはもちろんのこと、同業界/同ジャンルの人気ゲームとの違いや改善点などをまとめておくなど、ソーシャル分野への意識の高さをアピールできるように準備しておくとよいだろう。
システム業界
SIerやソフトハウスからの募集再開の動きが活発であり、Javaや.NETによるオープン系エンジニアの求人が増加している。しかし、C、C++、VBを求める求人は少ないのが実情であり、これらの言語が経験の主流となっているエンジニアには厳しい状況が続いている。
業務知識としては、金融系のほか、医療系やコールセンターの知識・経験を必須とする求人が増えつつあり、企業の求めるターゲット層が広がりを見せている。
自社プロダクト系:苦境が続くハードウェア業界、回復基調のソフトウェア業界
ハードウェア業界は、前月はわずかに求人数が回復したが、その後の波及効果は見られなかった。求人の大部分がエンジニアまたは営業職の募集であり、そのほかの職種はほとんどニーズが見られない。日系・外資系を問わず、いまだ積極採用には遠いようだ。
ソフトウェア業界は、前月比でさらに10%の求人増となり、比較的好調といえる。ERP関連求人が堅調なほか、電子決済システムや組み込み系、そのほかパッケージソフト関連でも求人が増加した。また、品質保証(QA)のポジションでもニーズが発生した。
SIer:メンバークラスからマネジメントクラスまで、幅広いニーズ
Web系エンジニアを中心に、求人数が増加。JavaやPHPの経験を必須とする求人が大半を占める。また、ネットワークエンジニアの求人も増えつつある。
求人の約20%はプロジェクトリーダーまたはマネージャ職での募集である。メンバークラスからマネジメントクラスまで、幅広くニーズがあるといえる。
インフラエンジニア:Windows系のサーバエンジニアやネットワークエンジニアにもニーズが
前月は回復傾向にあったが、その後は大きな変化が見られず、求人数は横ばいとなった。NIerの動きは鈍く、積極的な採用活動は見られない。インフラエンジニアで転職を考えている人は、SIerや事業会社などにも目を向けて、転職活動を行うことをお勧めする。
これまではLinuxを中心としたサーバエンジニアの求人がほとんどであったが、Windows系のサーバエンジニアやネットワークエンジニアにも採用ニーズが見られるようになった。
インフラエンジニアは開発エンジニアと異なり、幅広い業務経験が求められる傾向にある。「設計・構築」「データベース」「仮想化技術」が現在のキーワードだ。
ゲーム業界
順調なソーシャルゲームに比べ、コンシューマ業界では停滞が目立つ。一方、これまで大きな動きがなかったパチンコ/パチスロ分野において、わずかながら求人数の増加が見られた。実機のディレクター/プロデューサーだけでなく、パチンコやパチスロのモバイルコンテンツ向け求人が増えている。
ソーシャルゲーム:落ち着きが見られるものの、好調を維持。新規参入企業が狙い目
前月から引き続き、ソーシャルゲーム業界はにぎわいを見せ、転職市場においても勢いを保っている。しかし、新規求人の発生ペースは鈍化しており、各社の採用活動が一定の落ち着きを見せ始めている。
職種別に見ると、プランナーやディレクターなどのポジションはすでに充足しつつあり、現在の募集はエンジニア職が大半を占める。ソーシャルアプリ開発経験者の絶対数が少ないため、採用に難航している企業は少なくない。特にネームバリューのない新規参入企業は苦戦を強いられているケースが多く、求職者にとっては狙い目といえるだろう。
コンシューマゲーム:勢いが乏しく、企業側・求職者側ともに動きは鈍い
ソーシャルゲームと比べ、コンシューマゲーム業界は勢いが乏しく、転職市場においてもほとんど採用意欲を感じることができない。業界関係者は実情を理解しているためか、求職者の動きも鈍化している。「転職したくても(市場を考えると)踏み切れない」状況のようだ。
営業など
営業関連職:Web広告分野が好調。必須要件の緩和やポテンシャル採用が目立つ
営業関連職においては、Web広告やWebマーケティング企業からの求人を中心に好調を維持している。8月以降は特に、大手Web広告代理店からの新規募集が目立った。「金融」「不動産」「コスメ」「エンタメ」などの業界の営業に精通していれば、Web広告の経験がなくともチャレンジが可能だ。若手から即戦力層の採用ニーズが高く、年収400万〜600万円程度の求人が主流になっている。
アフィリエイト広告やSEO/SEM関連企業は、若手のポテンシャル採用を行っている。広告営業経験があれば、Web媒体に限らず紙(雑誌)媒体の経験のみでも採用ターゲットになり得る。
そのほかの職種:秘書、プロモーション、事務職での募集開始が見られる
経理/財務職の採用活動が停滞している一方で、件数は多くないものの「上場企業の役員秘書」の新規募集が見られた。企業のグローバル展開を見据え、秘書経験に加えて語学力(英語)を求める企業が多い。
また、モバイル/オンラインゲームを中心に、「ゲーム関連のプロモーションスタッフ」の採用ニーズが高まっている。広告会社やプロモーション会社の出身者、または事業会社での広告企画経験者が求められている。
そのほか、「事務職」や「アドミンスタッフ」などの形で、経験の浅い若年層の採用を開始したり、合同説明会を実施して一斉に選考を行う企業などが見られた。
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