スマートフォンアプリ開発者の需要、ついにガラケーを上回る:IT業界 転職市場最前線(25)
不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
新年度には、多くの企業が新たな採用計画を策定する。
IT業界は震災の影響をさほど受けず、各社が活発な採用活動を開始した。中には数十名単位での採用を計画している企業もあり、転職希望者には明るいニュースと言えるだろう。
ソーシャルメディアの隆盛、スマートフォンの台頭により、インターネットやモバイル業界では、非常に意欲的な採用を行う企業が目立つ。
一方、低迷が続いている業界・業種もある。とはいえ、即戦力だけでなく若手ポテンシャル層やマネジメント層を求める求人は確実に増えており、転職成功の可能性は広がっている。
Web業界
Web業界は震災の影響が比較的小さく、他業界に先駆けて採用活動を再開する企業が多かった。このため、新規求人数や就業決定者数においても、Web業界が他業界をけん引する形となった。
エンジニア:震災の影響は小さく、好調を維持
震災の影響を受けて一時は選考が滞ったものの、Webエンジニアの求人は引き続いて増加傾向にあり、依然として好調を維持している。
クリエイター:求人数は上向き。採用ターゲットが拡大
新規求人は微増ながら、自社メディア関連を中心に、順調に推移している。隆盛が続くソーシャルアプリのデザイナー職が全体のおよそ半数を占めるが、Webデザインやグラフィックデザイン関連の求人も上向き傾向にある。
20代前半のポテンシャル層や、30代後半〜40代のベテラン層を求める求人があり、「若くてもポテンシャルを考慮」「年齢が高くてもマネジメント経験を評価」など、年齢に応じた経験を積んでいれば採用に至る可能性が高まっている。
ディレクター/プロデューサー:幅広いジャンルで積極採用が続く
自社サイト運営企業のみにとどまらず、代理店や制作会社からの求人も増加が続いている。特定のジャンルにニーズが偏らず、多くの企業が積極採用を行っており、Web業界全体の活況がうかがえる。
モバイル業界
スマートフォン関連求人が、顕著な伸びを見せている。特に、スマートフォン対応を専任で行う人材の募集が目立つようになった。これまでは、従来のフィーチャーフォン関連の求人がメインであったが、ついにスマートフォン関連の求人数がこれを上回った。
エンジニア:スマートフォン開発要員のニーズが高騰
モバイル系エンジニアのニーズが続く中でもスマートフォンアプリ開発に関する求人の増加は顕著で、開発系エンジニアの新規求人のうちおよそ7割を占めるほどの勢いだ。スマートフォンアプリ開発のニーズ高騰を受け、フィーチャーフォン向け開発要員とスマートフォン向け要員を切り離して募集するケースが増えている。ゲームなどのエンターテインメント関連だけでなく、情報サイトなどを手掛けるエンジニア募集も増えている。
クリエイター:スマートフォン対応でニーズが拡大。デザイナーはFlashスキルが必須
デザイナー職においては、ゲーム系アプリ開発の求人増に伴い、Flashの経験が重要視されるようになった。Flashのスキルは、ほとんどの求人内容に「必須」または「尚可」として記載があり、モバイル系デザイナーにとっては必須条件となりつつある。
プランナーやディレクターポジションでは、フィーチャーフォン向けに絞った求人が減少傾向にある一方、スマートフォン関連の求人は増加している。ソーシャルアプリプランナーやスマートフォンアプリプランナーの求人が続出している他、広告代理店からも「スマートフォン向けの広告商品企画」などのニーズが発生しており、採用市場の盛り上がりが感じられる。
システム業界
ハードウェア業界などの一部の業界・ポジションでは低迷が続いているものの、Web系エンジニアやインフラ系エンジニアの採用ニーズは回復に向かっている。しかし、求められる経験やスキル、年齢層には偏りがあり、それらのターゲット層から外れた場合は厳しい転職活動を強いられるだろう。
自社プロダクト系:ハードウェアはハイスペック、ソフトウェアは中堅層にニーズが集中
一部の外資系企業では継続して人材募集を行っているものの、選考水準の高い状況が続いている。
28歳〜38歳くらいまでを対象としたプロジェクトマネージャ職や、海外向け営業職などが目立ち、いずれもビジネスレベルの英語力を必要としている。また、年収レンジは800万〜1000万円程度が想定されており、このことからも求められる人材のレベルの高さがうかがえる。
ソフトウェア業界では、セキュリティ関連の求人が引き続き好調である他、携帯端末やカーナビシステムの組み込みエンジニアの募集が、わずかに増加した。想定年収は400万〜600万円程度であり、35歳くらいまでの人材がメインターゲットである。
SIer:若手Webエンジニアが人気。30代は上流・リーダー経験が必要
Web系SIer(システムインテグレータ)からの求人が堅調な伸びを見せている。
ただし、Webプログラマや社内SEでは若手を求める傾向が強く、全体の40%が採用ターゲットを20代に絞っている。30代以上では、豊富な実務経験だけでなく、要件定義・基本設計などの上流工程やリーダー経験を必須とする求人が多い。
また、開発環境・言語としてはLinux、Java、PHPが主流だ。業務系システムや制御・組み込み系からの転職はハードルが高い。
インフラエンジニア:求人数は3月比1.2倍に回復。中堅層のニーズ高
大手NIer(ネットワークインテグレータ)が、少しずつではあるが採用を再開し始めている。Linux・UNIX関連のサーバエンジニアの求人が主流だが、20代後半から30代半ばまでを対象としたWindowsサーバエンジニアやネットワークエンジニアの募集も増えており、インフラ系エンジニアの求人数は3月比1.2倍となった。
ネットワークエンジニア職ではリーダークラスの求人が目立ち、マネジメントスキルや携わったネットワークの規模が評価基準になっている。また、年収400万〜600万円程度の中堅層にニーズが偏っており、年収レンジの高いベテラン層の転職はまだまだ厳しい状況が続いている。
ゲーム業界
震災の影響はほとんど見られず、4月以降は新たに採用活動を開始する企業が増加。震災時に採用活動が停止・鈍化した反動から、面接・採用決定数が増え、ゲーム業界の採用活動自体が活性化している。
ソーシャルゲーム:人気のソーシャルゲームで安定した雇用ニーズ
大手パブリッシャーがソーシャルゲーム専門の企業を設立するなど、ソーシャルゲーム関連の採用ニーズは衰えを見せない。前年にヒットタイトルを生み出した企業では、特に積極的な採用方針を打ち出している。昨年ほどの急激な求人増は見込めないまでも、今後も安定したニーズが期待できる。
コンシューマゲーム:継続的にニーズがあるものの選考ハードルは高い
コンシューマ業界の選考ハードルは依然として高い。各社とも厳選採用を行っているが、転職成功事例を見ても、ニーズは継続的にあることが分かる。ただし、コンシューマ機(特に次世代機)での経験を問う企業が大半であるため、モバイルやオンラインゲームからコンシューマゲームへの転向は容易ではない。
その他
営業関連職:広告・自社サービス企業で、採用枠とターゲット層が拡大
新規求人数は3月と同水準程度だが、採用人数を拡大する企業が増えている。中には、数十名単位での採用枠を設ける企業があり、積極的な姿勢が見て取れる。
積極採用を行っているのは、インターネット広告業界および自社サービス企業で、ポテンシャル・第2新卒層だけでなく、マネージャ層の求人も増えつつある。ポテンシャル層の採用では異業界からの受け入れにも寛容な企業が目立つ。
バックオフィス:人事・労務職の新規求人が増加
インターネット業界や外資系企業を中心に、人事労務職の求人が増加した。
インターネット業界の求人はスタッフ層の募集が多く、20代・年収300万〜500万円程度の人材がメインターゲットだ。外資系企業ではマネージャ層の求人が目立つ。年齢は20代後半から40歳くらいまで、年収700万〜1000万円程度の人材をターゲットにしている。
社内SE:インフラ系社内SE、ヘルプデスクなどで求人増
インフラ系社内SEを中心に、求人数が増加。これまで派遣社員に任せていたヘルプデスクなどのポジションを正社員として新規募集するケースが見られ、求人の幅が広がっている。
ただし、社内SE職は求職者からの人気が高く、応募多数により早期募集終了となるケースが多い。
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