『FabLife』のインターネット黎明期のようなワクワク感:D89クリップ(52)(3/3 ページ)
「今までできなかったことが、自分でできるようになるというのは、それ自体がすごいロマンなんです」Fablab Japan発起人のものづくりとは
「何かを作る」「人と交流する」根源的な楽しみが合体する
──『FabLife』からは、自分でやる楽しさも、楽しみを人に伝える楽しさも、いろいろな楽しさが伝わってきます。
そうですね。fabの触媒力はものすごくて、ものづくりにまつわるいろいろな楽しみが喚起されて連鎖し、何が自分の興味の出発点なのか、どこから始まったのかが、もう自分でも分からないんです(笑)。こうして対話する度にあらためて思い出して、ストーリーを紡ぐ感じですね。それはたぶん「僕自身が変わった」からだと思うんです。一番大きなことはそれだと思うんです。
fabを始めたきっかけとして、情報と物質をつなげることをやりたかったというのがあります。2000年の前半はWebやソフトを作っていて、その後は都市をテーマにしていたり、メディアアーティストとして鳥や植物と対話するものを作っていたり、いろいろなことをしていた時期があるのですが、割と非物質的な領域でした。ゼロ年代の終わりころ、やっぱりマチエールとかテクスチュアとか、物質の物質性みたいなものを軸に、自分の方向性を考え直したいと強烈に思いました。学生のころ建築を学んでいたこともあって、フィジカルな方に向かいたいと思った。
それともう1つ、「公共性」とか「まちづくり」に対する関心もありました。函館の桟橋に一夜限りのバーを立ち上げるプロジェクトなんかもやっていたんです。
もっとさかのぼれば、昔から、いつかは自宅に自分のための工作室を作ろうと思っていました。まぁ1人じゃつまらないから、時間を限って開放してみようとも考えていて、「地域のガレージ」みたいなものが良いかなぁと夢想していたんです。そのときにFabLabを知って、実際にインドまで見に行って、「まさにドンピシャ」だったのです。ぼんやり考えていたピースがぜんぶあるんじゃないか、つながっているじゃないか、重ねられるじゃないかと。
FabLab鎌倉の機材は、車を買うためにこつこつ貯めていたお金を、全部はたいて、自己投資でそろえました。それでそこに住みながら、いろいろ変なものを作る実験を始めてみたら、地域のいろいろな作り手が興味を示して来訪するようになりました。自分にはできない工作方法、柿渋塗りとかのさまざまな名人が来るわけです。いろいろなジャンルの作り手がいて、そういう人たちとつながるのが今度はメチャメチャ楽しくなってきた。そして、一緒に工作機械の実験をしたり、ものを作るようになりました。今では、単なる工作室を超えて、コミュニケーションをしたり、議論や対話をしたり、教え合う場にもなっているわけです。
「何かを作る」というのと、「人と交流する」というのは、どちらも人間にとって根源的な楽しみで、fablifeは2つの根源的な楽しみが合体するから、もう最強に楽しいんですよ。
fablifeを楽しんでいる実例はいくらでもあって、例えば、この間Fablabに、ずっとDIYをしていた50代ぐらいの男性が「今まで僕は、家で1人でコツコツものを作ってきた。でも、誰かと一緒に作りたくなってきた」として来てくれて、すごく楽しんでいました。DIWO(Do It With Others)ですね。
逆に、コミュニケーションやイベント、おしゃべりや人との出会いが好きな人も、「何かを作る」「プロジェクトをやる」といった、形に残る成果物をともに作るという、もう1つの根源的な楽しみに出会えると良いですよね。共にものを生産する中で、掛け替えのない経験を得るということ。あ、これってもしかして「チームラボ」なのか(笑)。
アートと社会性、テクノロジへの愛
──田中先生はメディアアーティストとしての活動が目立つ時期があったり、都市や社会のシステムをテーマにしていた時期があったりした中で、今が一番楽しそうで、関わっている人間の輪が大きくなっている気がします。もちろん何かをやめたわけではなくて、システムやアートへの関心も、『FabLife』からは感じますが。
ありがとうございます。自分が何者なのかは、語っておきたいですね。
もともとは、建築家を志していました。建築は、今まで世の中になかった「1点ものの建築」を作るという意味でアーティストであり、出来上がったものはみんなが長く使う、時代を超えた共有物・公共物・実用物でもあるという意味で社会性や集団性がある。芸術性と社会性が両方あるものを設計するという意味で「アーキテクト」であって、それがあこがれでした。何でそのままストレートに建築に行かなかったかとい 作ろう うと、テクノロジへの愛をもっと前面に出したかった。
批評的な作品を作りたいという気持ちもあったし、世界を救うソーシャルなエンジニアになりたいという思いもずっとあって、もちろんテクノロジも大好きで、どれか1つを選ぶことが長い間できませんでした。それらを共に目指すというのは、あまり他人に理解されない部分だと思っていました。既存の職能の1つに自分をマッピングできなかったのです。でも、インドで世界中から集まってきたファブマスターに会ったときに、すごく共通するものを感じた。世界のさまざまなFablabには、アートと社会の両方に関心を持った人がいっぱいいて、テクノロジを使って活躍している。必要なもの、作りたいものを、毎回いろいろ調べながらその都度作っている。そこにはすごく安心したし、勇気付けられました。「世界中に俺みたいなヤツ、たくさんいたじゃないか」という感覚。そして、世界に散らばっているこういう人たちと、同時代を一緒に生きていきたいと思ったのです。
本にも書きましたが、かつては、職人と芸術家と親方の3つを兼ね備えた「アルチザン」という人々がいたんですね。それがファブマスターに近いと思うのです。「アーキテクト」というよりも「アルチザン」に近い位置から、手作業とシステム(機械)の折り合いについても考えていこうと思っています。
──テクノロジに対する愛は、喜々として新しい技術に向かう姿勢、他の人が作ったものを見る視線といった形で、『FabLife』全体のバックボーンとして感じます。
テクノロジへのロマンは、もしも衰退しているとするなら、回復したいと思っているものの1つです。
僕が小学生のころに思い描いた今の時代、2012年ぐらいにはもう宇宙に住んでると思ってた。テクノロジはロマンだったんです。人工衛星とか宇宙とか。ロマンという言い方に語弊があれば「想像力」ですね。
でもいまも、また違ったかたちで、未来への想像力を延長することでいまの批評や熟考のきっかけにしようとするものがありますよね。スプツニ子!みたいな、アートというよりSFですよね。それも日常や身の回りをえぐるタイプのものですよね。そういうところから、SF的な感性が復活してくると良いなぁと思っています。別に媒体は小説でなくても良いはずなんです。「未来のアイテム」を、先取りして今作ってしまえば良いと思うんです。現実と空想の中間みたいな存在を、いまもう作れるんだったら、とりあえずベータ版として作ってしまう。そして、「なんだろう、これは?」みたいなことを議論するんです。そういう空想をカタチにしていくような実践が、もっと必要ですよね。『FabLife』の、さらに向こうとして。
「いままでできなかったことが、自分でできるようになる」というのは、それ自体すごいロマンなんです。根本的な。僕はそのロマンにずっとドライブされてきたし、今もドライブされている。そのドライブ感に自分も乗っていきたいし、次の世代に伝えたいし、シェアもしたい。今、ファブラボと大学の両方にいて2足のわらじで活動している、一番の理由はそれですね。
筆者紹介
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β委員
高須 正和(@tks)
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジ/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。次のイベントは、8/25-6のMake:Ogaki Meeting 2012(岐阜県大垣市)にチームラボとして出展します!
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