ソーシャルゲームが誕生して以降コンプガチャなどの問題が続き、政府が動いた。ソーシャルゲーム協会」が設立された
2012年11月8日、「一般社団法人ソーシャルゲーム協会」を設立した。Japan Social Game Association、略称:JASGA。ジャスガと読む。
2007年にソーシャルゲームが誕生して以降、スマホの普及と相まって、市場規模は急速に拡大している。しかし、コンプガチャ問題など、不安や社会的な問題が呈される状況も招いた。業界としても問題は自覚をしていたので、GREE、DeNA、mixi、NHN、サイバーエージェント、ドワンゴのプラットフォーム6社は、事前に水面下で消費者庁と話しつつ、各種ガイドラインを作るなど、自主規制で健全化しようと動いていた。
しかし2012年5月、消費者庁がコンプガチャを景表法で禁止されている「カード合わせ」に該当し、規制の対象となるという見解を示した。政府が動いた。業界も対応を急ぎ、7月から新団体設立の準備を進めた。
協会の理事には6社とコンピュータエンターテインメント協会(CESA)、日本オンラインゲーム協会(JOGA)の代表が就き、代表理事・共同会長には、グリーの田中良和社長とDeNAの守安功社長が就任。さらに、ソーシャルゲーム提供会社や通信会社など計46社からの発足となった。私が事務局長を務める。
設立当初は、
の3点に重点を置いて活動する。
ところで、なぜ私が事務局長を務めることになったのか。
無論きっかけは、コンプガチャ問題だ。私はそれまでこの動きと強いつながりはなかったが、業界の対応にも、政府の動きにも、危惧を抱いていた。
DeNAとGREEのように裁判を起こすほど熾烈な競合関係にありながら、業界はこの危機に対応して、連携する動きを見せていた。しかし、踏み込みが甘く、遅くはないか。かつて成長産業に政府が介入してきた歴史から見て、のろのろしていると、成長産業の芽を摘むような仕打ちが来てもおかしくない。
案の定、消費者庁は規制に動いた。ただ、これに対し、消費者庁と、経産省、総務省らのスタンスの違いも見えた。健全化への要請と、成長産業への期待との対立だ。この問題に関心を持つ国会議員から消費者庁の行動への疑問も聞こえてきた。
まずい。私は個人として初めてパブコメに意見を提出したことを契機に、政府関係者と話をすることになった。内閣官房・知財本部とも、健全化と成長の2元方程式について相談した。民主党、自民党の国会議員にも業界代表を紹介しつつ、業界の立ち回り方を相談した。
私が政官界と業界の双方に申し上げたのは、以下の3点。
業界としても、団体を作る議論が始まった。行きがかり上、私も参加することになった。さまざまな調整を経て、業界団体としての社団法人を形成し、その中に第三者機関的な評議委員会を作ることにした。業界の代表が責任を持って問題に当たることを前面に出すと同時に、中立的な対策を取る組織とするわけだ。
最大の課題は、熾烈なライバル関係にある関係企業が1つのテーブルに着く構図、一枚板になれる組織を構成できるかどうか。危機意識をバネにしたものではあったが、関係者の多大なる努力、大量の汗を流した結果、1つの解に行き着くこととなった。
そうなると、残る課題は「中立性」だ。業界の内輪によるお手盛りの対応になるのではないか。健全化とか正常化とかいってもしょせんはナアナアになる。その厳しい視線を跳ね返して国としては、相当の中立性・客観性が求められる。
その条件は2つ。パワフルで独立した評議機関を置くこと。そして、事務局が中立のガバナンスを効かせること。前者は堀部政男師匠をヘッドにして、厳しい委員の方々にチェックしていただくことが了承されていたので、心配無用。問題は事務局機構で、当初は理事会社からの出向で発足するとしても、中立性を保つクサビが必要。とうとう、私が引き受けざるを得なくなった次第。
この仕事、リスクが高い。ソーシャルゲームに対する世間の怒りや不安を浴びる先頭だから。ボコられる。
ただ、ここで間違うと、ソーシャルゲームという、ひょっとすると今後の日本を引っ張ってくれる産業をしぼませることにもなりかねない。政策屋としては、割に合わないが取らなければならないリスクと判断した。
漂う社会不安に対し、成果が出せるのか。不十分だった場合、さらなる規制が入るのではないか。そして、業界内部のせめぎ合いをまとめることができるのか。RMTをいまだ放任するネット事業者や、GoogleやAppleなど海外のプラットフォーマーにも影響力を行使できるのか。課題は多い。
現に今年に入ってからも、関係企業による未成年者に対する利用限度額設定についての不備が重ねて表面化し、対応に追われている。自主規制や再発防止策を強化するとともに、情報公開を進めることへの要請は高まるばかりだ。
でも、まずはこぎ出すことが大事。私は、目の前の問題を早期に片付けて、大きく成長するための運動に乗り出したい。80年代、任天堂の山内会長がMITへの5億円の寄付を通じて、ゲーム業界の発展可能性を唱えさせた。90年代終盤、セガの大川会長がドリームキャスト発売を前にして、MITへの35億円の寄付を通じて子どもとメディアのポジティブな研究をゲーム業界が主導することを示した。こうした未来開拓をソーシャルゲーム業界の若い経営者にも期待したい。
ソーシャルゲームはコミュニケーション力を高める。ソーシャルゲームは豊かなコミュニティを育む。ソーシャルゲームをすれば頭が良くなる。そんな新しい文化、新しい産業を形成してくれることを願いつつ、この新組織の業務をスタートさせる。
中村伊知哉(なかむら・いちや)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。
デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。
twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/
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