1日で5万人の来場があった、世界最大の子ども向け創作イベント90組の「ワークショップ・コレクション」の模様をお伝えする
東急・日吉駅から慶應義塾大学のキャンパスへと続く数百メートルの通学路。幾重にも親子連れの波が押し寄せている。年に1度、この町は子どもたちの歓声に包まれる。コンテンツを創作する子ども向けワークショップの展示会「ワークショップ・コレクション」だ。
従来のアナログの表現手段と最先端のデジタル技術を駆使した全国選りすぐりのワークショップ・プログラムを一堂に集め、紹介する。子どもの創造・表現活動を支援すると同時に、ワークショップにかかわる人々、研究・開発者、実践者、保護者、企業、学校関係者、アーティストたちの出会いを促進する。
今年2月には1日で5万人の来場があった。世界最大の子ども創作イベントである。実は日本はこうした活動の本場なのだ。NPO法人CANVASと慶應義塾大学メディアデザイン研究科(KMD)が主催している。頑張っている。
参加したのは90組の創作系ワークショップ。作ってみよう、表してみよう。
粘土細工、手紙作り、毛玉工作、缶詰のラベル作り、せんたくばさみで空間演出、音楽に合わせて絵を描く、芝居で自分表現、江戸のつまみ細工を体験する、新聞紙を使って空想のタコのオブジェを作る、ハギレを使ってバッグを作る、ドングリを使ってクラフトを楽しむ。
デジタル系の活動も豊富。パソコンを使ってアニメを作る。パソコンでキャラクターを作ってゲームを作る。自分だけのデジタル新聞を作る。ロボット画像を作って戦う。iPad2でオリジナル楽器を作る。自分だけのオリジナル・ウェブブラウザを作る。PCでプログラミングをしてロボットを操作する。デジタルで触覚を伝える。キャラクターを作って世界のひとたちとバーチャルに対話する。
スペシャル=事前予約制のスペシャルワークショップも充実している。NHK“わくわくさん”でおなじみの久保田雅人さんによる工作ショーや、モノづくり企業による“体感型”ワークショップもある。小松製作所「ブルドーザーは力持ち」ではOBのおじさんたちがブルドーザーの仕組みを体験させてくれていた。
頑張ってくれた。
注目ワークショップを2つ。まずは「よしもとキッズ わらわ戦隊オモロインジャー」。よしもと芸人と子どもたちがユニットを組み、一緒にネタを作り披露するワークショップだ。レイザーラモンHG(レイザーラモン)、ワッキー(ペナルティ)、ジョイマン、もう中学生、大西ライオン、佐久間一行、GO!皆川、デッカチャン、鉄拳、5GAPといった面々が子どもたちとネタづくりとパフォーマンスに取り組んだ。芸人より子どもの方が会場の笑いを取るペアもいて、芸人も手を抜けない。よく頑張った。
もう1つが「Tap*rapしりとり」。アーティストの季里さんによるiPadを使った絵しりとり。絵をかいて次の言葉につなげていき、ipadの画面をタップすると、みんなの描いた絵が爆発したり集まったりする。同じく季里さんの「えまきもん!」もある。みんなで作ったiPadの絵巻世界を卵や猫が飛び跳ねる。みんな、頑張ったね。いずれも「デジタルえほん」社が発売したアプリを用いてワークショップを楽しむもので、新種のデジタルコンテンツとリアルのライブとを掛け合わせた将来性のある取り組みだ。
このほか今回は、東日本大震災の被災地、宮城県石巻市の子どもたちが制作する「石巻日日こども新聞」を配布・展示したり、マルチスクリーン時代の到来を踏まえた第一回「デジタルえほんアワード」の表彰式が開催されたりするなど、「今」を反映した取り組みもあった。
今年の特徴は2つ挙げられる。まず、企業出展が本格化してきたこと。ベネッセ、無印良品、朝日新聞、ECC、WAO、フジテレビ、マイクロソフト、Yahoo!、第一生命、しくみデザイン、オリンパス、NHK、NTTといった顔ぶれだ。そして、デジタル色が強くなったこと。特に、タブレット端末を用いたワークショップやARを導入した活動が目立った。
しかし、毎年変わらないのは、混雑。2時間待ち、3時間待ちというワークショップも多く、主催者としては申し訳ない。にもかかわらず、0歳から小学校高学年まで、いやお父さんもお母さんも、朝から夕方までずっと楽しく参加して、作って作って、「また来るねー」と帰っていく。
年に1度のイベントではなく、常設のワークショップコレクションが各地に開かれていて、いつでもどこでも体験できるようになればいいのにね。ま、それが僕たちの仕事なのだが。
頑張ります。
ハリウッドを凌駕するようなクリエイターやプロデューサーをどう生むかという高等教育は重要な緊急課題だ。コンテンツ産業政策の本丸である。しかし同時に、デジタル技術がすべての人に行き渡り、すべての人が表現する時代には、創造力と表現力の全国的な底上げ策がもっと大切になる。初等教育の問題だ。教育政策、地域政策だ。ワークショップコレクションは、その方向性を示している。
政府は2年前の「知財計画2010」で、「創作系ワークショップへ参加する子どもの数を2020年には年35万人にする」という国家目標を立てた。実はこれはワークショップコレクションへの参加者数を念頭に置いてはじいた数字だったのだが、1日で5万人を呼び込めるほど需要が高まっているのだから、頑張ればすぐにでも達成できそうだ。
頑張りましょう。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。
デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。
twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/
記事中写真:著者撮影
アイコンイラスト:土井ラブ平
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