中村氏が3年前にドヤ顔発表した「メディア政策10の目標」という試案を振り返りつつ、新たな環境に立ち向かう作戦を考えよう
2009年5月、私は「メディア政策10の目標」という試案を発表した。焦っていた。地デジ整備の展望も融合法制の成立も見通すことができない。GoogleやAppleなど海外からの大波も押し寄せてきている。民主党政権誕生の4カ月前で、いよいよ政治は混沌とし、霞が関は脳死状態。
それまで私は、産官学の論議を高めて民主的に政策を進めるスタイルを尊重していたが、もうそんなフワフワした態度じゃダメだ。手触り感のある対策を敢然と進めよう。そこで10のテーマを政治・行政に突き付けることにした。
あらためて書き出してみる。以下の10点だ。
10の施策も合わせて添付した。
メディア融合を推し進めるとともに、コンテンツの発展や公的部門の情報化の促進に比重を置いた内容だ。3年前はこのあたりが本丸と考えていた。衆論を重ねてたどり着いた提言ではない。焦りに任せた独白である。だが、いいところツいてるんちゃう? ちょっとドヤ顔でもあった。
で、政権が交代した。当初、メディア融合にも競争促進にも電波解放にも後ろ向きだったので、ますます焦りが高じ、いっそこのメニューを持って外国政府のコンサルでもやろうかと思っていたのだが、だんだん政権側が聞く耳を持ち始めた。
10の目標の中でも、すでに政府が合意したものもある。1.放送2次利用比50%、2.コンテンツ海外収入比10%、4. デジタルサイネージ市場1兆円、8.コンテンツ留学生4.5万人などは、知財本部や総務省などの政府報告にも記載された。9.小学生3割アニメ制作は採用されなかったが、年間ワークショップ参加者目標35万人が知財計画に記載され、デジタル教科書の政策展開も活発になるなど、前進を見せているものもある。
理論と分析を基に提案しておしまいという通常の学者のスタイルは私には無縁だ。私は政策屋であり、実行されなければ政策ではない。実行されないものは思い付きかアイデアと呼ぶべきであり、政策とは呼ばない。だから、実行され始めてようやくドヤ顔ができるというわけだ。
ところが、これが、じぇんじぇんダメなんだな。
だって、ご存じのとおり、この3年でメディアの局面が様変わりしてしまったから。3つの大変化。
さらに日本は、未曽有の震災を経て、復興・再建というより大きな宿題を負った。ITの発展もその文脈の中でとらえなければならない)
こうした新環境に立ち向かう作戦はいまだ描けていない。決められない政治で議論ばかりが時間を費やす。だが、全体図を描く余裕はない。事態が流動的な今必要なのはビジョンではない。決断だ。目の前にある課題に対する対策を、どんどん決定し、実行し、片付けていく。しばし、そうする覚悟が必要だと思う。
(なかむら・いちや)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。
デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。
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