テレビもスマート、なんだと。アメリカからGoogle TVやApple TVがやってくる。米テレビ局の映像配信Huluも上陸している。もちろん、日本だって手を打っている
スマートテレビ。スマテレ。勝手に縮めてみた。テレビもスマート、なんだと。アメリカからGoogle TVやApple TVがやってくる。米テレビ局の映像配信Huluも上陸している。もちろん、日本だって手を打っている。
NHKはテレビとタブレットなどダブルスクリーンでテレビ番組とヒモ付き情報を連動させる「ハイブリッドキャスト」という提案をしている。
高橋大輔さんが舞うシーンをテレビで観ながら、タブレットで足下アップの指示や再生のコマンドを与えてネット映像を見る。旅番組をテレビで観ながら、その地図をタブレットで確かめる。サッカー中継中、選手たちのフォーメーションがタブレット上にリアルタイムで示される。同じ画面がテレビ上にもオーバーレイされる。これらデータはネットによる配信だ。
在阪テレビ5局が連携した「マルチスクリーン型放送研究会」も、スマホなどセカンド端末での放送連動サービスを実験している。「女子アナ解放区サワリや」(!)では、テレビを見つつタブレットで女子アナを触ってアップにしたり、ユーザー投票で女子力を競ったり。コテコテの日本型スマート・コンテンツだ。
フジテレビの「メディアトリガー」は、スマホやタブレットをセカンドスクリーンにして、テレビ番組と通信コンテンツを同期させる。日本テレビ「JoinTV」は、データ放送を活用して同じ番組を観ているFacebook上の友だちがTV画面上に現れる。
いろいろある。スマテレのイメージはまだハッキリしない。大画面テレビにネット情報をかぶせる。ビデオオンデマンドを通信経由でテレビ端末で観られるようにする。タブレット端末で番組を観られるようにする。テレビ画面とスマホでのソーシャルサービスとを連動させる。いろいろある。そういうモヤモヤした新しい端末+ネット+ソーシャルの最小公倍数、それがスマートだというわけだ。
黒船来港だと騒ぐ向きもある。が、逆じゃないか。これはチャンスだぞ、と。アメリカとは違う、日本の強み、特性を生かせるんじゃないか、と。理由は、1.メディア環境、2.ユーザー力、3.産業構造の3ポイントだ。
日本は通信・放送融合ネットワークが完成した。地デジが整備され、高水準のブロードバンド網が全国整備されている。それを柔軟に使うための法制度:融合法制も昨年、施行された。環境的には最高だ。スマートテレビは、マルチデバイスと広帯域ネットワークとソーシャルサービスの組み合わせだが、日本にはそれが十分にみなぎる。
50年普及したテレビ、15年普及したPCとケータイ、これに次ぐ第4のメディアが一斉に普及していることは繰り返し述べているが、スマテレもその1つ。マルチスクリーンは、テレビから辿ってテレビに戻る一種の回帰現象といってよかろう。
参加するテレビ、それがスマテレのキモだ。
元来テレビはコミュニケーションの手段だった。茶の間に恭しく鎮座したテレビの周りで家族が時空間を共有する。それが1人一台になって、家庭コミュニティとコミュニケーションが分散した。それを今度はバーチャルなコミュニティで結び直す。それがスマテレの意図するもの。
となると、視聴者、いや、ユーザーのコミュニケーション力がスマテレの質を規定する。その点で、日本は負けない。
2011年12月9日、「天空の城ラピュタ」の滅びの呪文が、秒間ツイート数2万5088件に達し、世界記録を樹立した。アニメの再放送をみんなで見ながら、つながり感を共有して、「バルス!」。どうだ、このテレビ+ソーシャル度。外国にはマネできまい。
テレビ、PC、ケータイの3スクリーンを同時に使いこなす若者が大勢いる。世界のブログで使われている言葉を総計すると日本語が英語を抑えてトップ。そうした若い世代のネット利用力はスマテレの発展を下支えするはずだ。
日米のテレビ産業には大きな差がある。
アメリカはプレイヤーが多様。スマテレを巡る動きを見ても、放送局がHuluを仕掛ける一方、タイムワーナーやコムキャスト、DirecTVなどケーブルや衛星も力を入れる。AT&TやVerizonなどの通信系もIPTVでアピール。そして何より、Google、Apple、マイクロソフトなどIT系、コンピュータ系が全体を引っ張る。放送局はそれほど存在感がない。これは制作・伝送分離など過去の政策による帰結でもある。
日本のテレビは放送局が中心だ。電波もコンテンツも握っている。放送局に対する規制は緩く、新聞社と結びついた政治力もある。スマテレの立ち上げを促すのであれば、善し悪しではなく、この状況を「生かす」のが近道ともいえよう。通信・放送融合では日本は立ち後れた。スマテレは、先んじたい。
融合メディア環境を生かし、ユーザーのコミュニケーション力を発揮させ、放送局が力を入れてサービスを開発する。これがスマートテレビへの日本型アプローチだろうう。それはGoogle TVやApple TVが提案するスタイルとも異なる、日本の強みを発揮した独自のサービスであり得る。チャンスを生かせるかどうかが問われる場面だ。
中村伊知哉(なかむら・いちや)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。
デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。
twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/
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