なぜか盛り上がるオープンデータ、その本質中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(41)

公開することで税収が上がるわけじゃない、なのに盛り上がっちゃうオープンデータ活動。参加者は、もう、ホメるしかないです。ところで、オープンデータの本質って何だろう?

» 2013年11月20日 18時26分 公開
[中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

ホメるしかない、オープンデータ

 「オープンデータ流通推進コンソーシアム」が設立された。いわゆるビッグデータをほじくり出し、共有し、活用して、価値を生んでいく活動を進める団体だ。117社の企業会員とともに、政府・自治体その他さまざまな情報のオープン化を進めている。私は理事・普及委員長として関わっている。

 ただ、率直に言って、現段階ではビッグデータ活用の必要性やそのイメージが十分に認識されているとは言い難い。

 日本経済団体連合会(経団連)では、会員企業を対象に、公共データの産業利用に関する調査を実施したところ、ニーズが高い公共データは、地図、交通、防災。次いで都市計画、医療・介護、統計だという*。

* 日本経済団体連合会、2013年3月19日発表(リンク



 例えば、これらの公共データの活用例としては、交通量や道路交通情報などを活用して、スマホやカーナビのサービスの充実、事故の予測に基づく新たな保険商品の開発が想定される。人口データ、家計調査などを活用すれば、高齢者への宅配サービスの開発、保険商品の開発、きめ細かい介護サービスの開発も考えられるという。

 「こういう機関の持つ、こういうデータをオープンにしてくれれば、こういうサービスやビジネスを開発できる」という産業界の需要の表れだ。その、産業界の需要と政府所有データ公開とのマッチングがぼくらの役割となる。

 既に総務省が推進した実証実験が成果を上げている。交通分野では、JR東日本、東京都交通局、東京地下鉄と横須賀テレコムリサーチパークが連携して、鉄道やバスの運行情報、駅や停留所の施設情報を共通のデータ規格でオープン化し、都市部の交通状況を可視化している*。

* 実証実験の詳細は総務省公開資料にある(リンク)。



 地盤情報に関しては、国や自治体が持つボーリング調査に基づく地盤データを活用して、防災に資する精緻なハザードマップを提供している。東日本大震災が発生した際には、トヨタ自動車、本田技研らが持つカーナビ情報を活用して、実際の通行情報をGoogle Maps上にマップして配信したが、これを、さらに被災地の自治体が持つ通行止め情報を国土地理院でデータ統合、それらも可視化している*。

* ITS Japanの天野肇氏が詳細をドキュメントとして公開している(リンク)。



オープンデータと著作権、法の壁を塗り替える

 コンソーシアムのデータガバナンス委員会では、公共データの知財問題に取り組んでいる。国の保有するデータを活用しやすくするためには、著作権の利用の自由度を高める必要がある。

 国が保有する公共データには著作権が発生しないよう著作権法を改正する、国がその権利を自ら放棄する、クリエイティブ・コモンズなど二次利用促進のためのライセンスを採用する、などのアプローチが考えられる。こうした要請に対して、一部省庁も前向きだ。しかし、全省庁・全国の自治体に拡げるには相当な大仕事となる。IT本部や知財本部でも問題提起していきたい。

ふたを開けて見れば……オープンデータの本質

 さて、オープンデータの運動は、公共データをオープンにさせる、「カナテコ」で開くことが当初の眼目だったのだが、やり始めた途端、そんなことは些末なことだということが明らかになってきた。それよりも、 個々人や企業の持つ超大量のデータを公共データとともに共有すること。「みんなのデータ」が公共性を持つことがハッキリしてきたのだ。

 この活動を推進してきた方々の尽力には頭が下がる思いだ。オープンデータ化の活動そのものを見れば、直接の見返りがない運動であるにもかかわらず、政府も自治体も企業も個人も皆、嬉々として参加し、前のめりに動いている。こういうのは、ホメるしかない

 そこでこの春、優れた取り組みを見せる関係者をコンソーシアムとして勝手に表彰するというイベントをやってみた。

 最優秀賞は福井県鯖江市「データシティ鯖江」だ(リンク)。

 さまざまなデータをXMLなどの形式で公開している。優秀賞にはOpen Knowledge Foundation、株式会社カーリル、税金はどこへ行った?チーム、気象庁、青森県、LODチャレンジ実行委員会、CKAN日本語化コミュニティが連なった。

 表彰式で私が講評を述べたのだが、受賞おめでとうございます、とは言えなかった。コッチが勝手に表彰してるんだから。「受賞していただき ありがとうございます!」

 ノミネート活動を眺めて、さまざまな活動が展開されていることに心を打たれた。ほとんどの「新しい活動」は、お金がもうかる、あるいは「やれ」という命令があってやる、が相場だ。ところがオープンデータは、皆さんの純粋な公共心と熱意でスタートしていることに感動する次第だ。

 さらに、より心強く感じたのは、受賞された方々の多様性。中央官庁もあれば、首都圏の大都市もある。地方の県もあれば、市も町もある。企業も、非営利団体も、だ。国立の研究所も、学生もある。地方も中央も、大組織も個人も、同じく熱意を持って取り組む主役がいる。大きな可能性を感じる。

 いまはまだ、点が散らばる活動かもしれない。これを面に広げていき、オープンデータ列島を形成していきたい。関係者の皆さんに、ぜひ引き続き力強く主導していただきたい。

中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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