アナログな文脈の中のものをデジタルに置き替えてみたら、デジタルの本質がよく見えた。「デジタルえほんアワード」から考える、デジタルの意味とは?
デジタルえほんアワード第2回の受賞作品の発表と表彰式が2013年3月12日に行われた。スマートフォンやタブレット、サイネージや電子黒板など、テレビ・PC以外の新しい端末での子ども向けのデジタル表現全てを「デジタルえほん」とし、応募作品の中から優秀な作品を表彰するものだ。NPO「CANVAS」、株式会社「デジタルえほん」の共催である。
審査委員はゴージャスだ。絵本作家 いしかわこうじさん、角川グループホールディングス会長 角川歴彦さん、精神科医・立教大学教授 香山リカさん、絵本作家 きむらゆういちさん、東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長小林登さん、デジタルハリウッド大学学長 杉山知之さん、クリエイター・プロデューサー 水口哲也さん、脳科学者 茂木健一郎さん。私は主催者側で下働き。
今回の受賞の注目は、作品賞に輝いた「めがねはちょうちょにあこがれる」。作者は、竜海中学校 宇野侑佑さん。現役の中学生が部活で作成したというデジタル作品だ。メガネがきれいなチョウチョにあこがれて、いろんな方法で蝶になろうとするお話。
このとき、宇野さんは文化祭に向けて3Dのカーレースゲームを制作中だと言っていた。機能が豊富なので英語の勉強をかねて英語版のソフトウェアを使っているそうだ。たくましいなぁ。
今回、慶應で表彰式が行われるため、仲間から「慶應大学おめでとう」というメッセージを受け取ったというお話を引率の先生がされていた。冗談じゃなくて、慶應に来てくれるといいな。
審査委員からいただいたコメントがいい。
香山さん そもそもデジタルえほんなるものを操作できるのか心配だったが、スグにその世界に引き込まれた。
杉山さん デジタルえほんは、新しい表現メディア。スマホ、タブレットの枠からも飛び出し、子どもから大人まで楽しむものが出てくるだろう。
水口さん 親が参加して初めて完成するえほん。新しい仕組みのものが出てきており、多様化している。
角川さん そしてこれからますます広がっていく。ジョブズもエラいが、この分野を切り開いているみんなもエラい。
小林先生からは、さらなる宿題をいただいた。
産声を上げた赤ちゃんはまず周りを見回す。情報を求める存在。情報は脳や心の栄養。受賞者はその仕組みを研究してほしい。日本はアメリカや韓国に教育の情報化が遅れている。日本の将来のためにも『子どもが情報をとらえる力』を考えてほしい。
次は絵本作家のいしかわさんのコメントだ。
デジタルえほんは、絵本をデジタル化したものじゃない。屋外でケータイを使ったフィールドワークものや、ドリル学習えほんなど、それならではの表現メディアだ。90年代にマルチメディアが期待されていたころは、結局は定着しなかった。キーボード主体だったからだ。スマホやタブレットは、デジタルだがアナログ的なツールが出てきたことが大きい。中学生の受賞はうれしい。作る喜びをそこに見いだすことができる。
同じく絵本作家のきむらさん。
その通り。絵本をデジタル化したものではない。全く違う発見があった。だが、まだまだ可能性がある。3年後は審査員ではなく、受賞者側に回りたい。
デジタルえほん、と私たちは命名したのだが、絵本をデジタル化したものではない。絵本でもない、アニメでもない、ゲームでもない、今のところ「デジタルえほん」とでも呼ぶしかない新しいジャンルだ。どんどん新種の表現が生まれ、ジャンル不明の作品が現れる。その可能性を皆が見出している。
最後に、茂木さんからこうハッパをかけられた。
「“デジタル”という言葉は誤解されている。絵本は紙じゃなきゃダメだという意見には根拠がない。デジタルとはインタラクティブのことだ。考えてみれば、紙芝居はインタラクティブだった。それが進化したものだと見ればいい。しかし、日本はその対応が遅い。20年間眠っている。スピード感が必要だ。動画のYouTubeはアワードなんてなくてもスゲー、という存在になっている。デジタルえほんも、こんなアワードがなくたってスゲーとなるようなものにならなければ。審査員が選ぶというスキームではなく、みんなが選ぶといった手法で広げていきたい」
そうだ、まだ始まったばかりだ。スピードアップして、変化を続けていきたい。
中村伊知哉(なかむら・いちや)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。
デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。
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