WhatとHow、どっちも大事中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(28)

政策は「How」である。WhatよりもHowが重要だ。私は授業でそればかり話している。ところが、このところ、やっぱりHowよりWhatかなあ。と思わせることが増えてきた。

» 2013年03月18日 15時41分 公開
[中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

政策は「How」、政策の案は「What」

 政策は「How」である。WhatよりもHowが重要だ。

 私は授業でそればかり話している。政策の案=Whatはプランにすぎない。どう実行するか=Howが命だ。

 プランは小学生でも作れる。それが血と汗の犠牲の下で現実に施行されてようやく、それは政策と呼ばれるものになる。実行されないものは政策ではない。プランを提言してドヤ顔の、勘違いしている学者が多い。そして、HowはWhatの10倍大変なのだ。

 例えば、なんでも良い、「ポップカルチャー推進法案」を考えてみよう。1時間くれれば、創ってあげる。目的、定義、支援措置、国の責務などを内容とする。いや、ああでもないこうでもないともみにもめば1カ月や1年掛けてよかろう。だが、これを実現のステージに乗せると、10倍のステップが待ち受ける。

  1. 霞が関の官僚を説得し、担当部局の合意を得る。
  2. 研究会を開催し、推進の報告書を得る。
  3. 審議会に諮問し、答申を得る。
  4. マスコミ世論を形成し、実行やむなしの空気をつくる。
  5. 財務省を説得し、予算を獲得する。
  6. 省議を開催し、担当大臣の決裁を得る。
  7. 内閣法制局にどつかれた揚げ句、パスする。
  8. 関係省庁の調整を経て、閣議決定する。
  9. 与野党の政調・総務を根回し調整し、国会での成立をみる。
  10. 細部の施策を決める政省令やガイドラインを策定し、施行する。

 さらりと書いたが、どのステップもプラン作りより苦しく、死人が出たりする。それぞれについて、ハウツー本が書ける。売れないが。政策関係者の仕事の9割は「調整」だ。いや、どんな仕事だって、基本はそうだろう。学者やアーティスト以外は。

 だから私も授業では、学生が作ったプランについて、「反対しそうな人々を明確に示して、説得する方法を述べろ」「予算規模を確定して、財源を示せ」「実行した後に実際にビジネスや利用者がどういう行動を取るかシミュレーションしろ」といった指示を出す。

 橋下徹さんに学者がバカにされるのは、案作りのところで止まっていて、実行に移すリアリティがないことが多いからだ。自民党政権が日銀総裁を学者以外から充てようというのも同じ理由だと思う。

 ところが、このところ、やっぱりHowよりWhatかなあ。と思わせることが増えた。

 例えば「ノマドばやり」。ビジネススタイルもライフスタイルも、遊牧的な生き方が脚光を浴びている。だけど、それはハウツーにすぎない。ホリエモンもチームラボ猪子さんもアウトプットあってのノマド。ぼくもちょいノマドだけど、ノマドがステイ型よりアウトプットが1/10に落ちるなら話にならん。ノマドで「何をするの?」が大事。

 「社会起業ばやり」もそう。社会に貢献する活動を起業すること自体にあまり意味はない。起業はあくまでアクションであり、ハウツー。大事なのは、What。それで何をするのか。社会をどう変えるのか。その中身とボリューム。あくまで成功したかどうかが肝心だ。起業家個人は業績で評価しないとね。

 例えばぼくはNPO、社団、会社、コンソーシアムなど10個以上「社会起業」してるけど、成功したのもあればトホホな失敗も数多く、それをスッ飛ばして起業したこと自体だけで評価されると困る。松下幸之助さんやジョブスさんがビジネスを通じて社会を明るくした、それは大いなる社会貢献。世界の衣生活を一変させたユニクロ柳井さんや、ぼくが社外取締役を務める保育園経営のJPホールディングス山口洋代表の功績も社会起業の観点で正当に位置付けたい。NPO立ち上げましたドヤ顔の若い衆だって、その軸で評価してあげよう。

 ベンチャー起業にしろ、社会起業にしろ、経済社会へのインパクトが乏しい段階で、自伝や啓発書が出版されて注目を浴びる、その評価法ってのは健全じゃない、というか、そういうのがあってもにぎやかでOKなんだが、そういう言説が社会の真ん中に居座るとジャマになる。これはそのプレイヤの問題じゃなくて、それを持ち上げてトレンド稼業を企む大人の側、メディアの側の病気だ。

 そーゆーことをいうのは、年をとった表れである。そのとーりだ。だけど、普段若いのばかりと飲んでいる私が、そろそろ引退し始めた先輩方と飲んだりすると、世代をつなぐ役としてそろそろいっておかねばと思う。

 というのも、私たちが仰ぎ見た先輩は、うんと骨太だったからだ。ベンチャーといえばソニーやホンダであった。思い切り世界でフルスイングしていた。老舗の企業をリニューアルして、ハードとソフトを押さえ、プラットフォームとして世界を制するという、いまアップルやアマゾンがやっているような仕事を仕留めた任天堂もある。体制に行かずベンチャーにも行けないドロップアウトは、学生運動で火だるまになり、社会起業=革命で山荘に立てこもったり海外で乱射したりした。Whatのスケールや気迫が違っていた。

 そのスケールやリスクを取り戻せ、というのは無責任過ぎる。おマエどうなんだ、って話だから。ただ、少々光の当て方を変えてみたい。バランスを引き戻したい。

 とはいえ、ぼくにできることは、論述ではない。自分のプロジェクトを推し進め、それで社会を変えていくことで実証すること。WhatとHowを両方やることなのだろうと思う。

中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

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