今回は、Windows Serverとは切り離せない関係にある管理ツール製品「System Center」の次期バージョンについて、削除される予定のコンポーネントや機能を説明します。
「System Center Technical Preview」は、「Windows 10 Technical Preview」や「Windows Server Technical Preview」と同時に2014年10月初めに公開されたSystem Center製品の次期バージョンの早期プレビュー版になります。
System Centerは、もともとマイクロソフトが提供する複数の運用管理製品群の統一ブランドでした。それが、「System Center 2012」で一つの製品に統合され、それまでの個別製品はSystem Center製品に含まれる「コンポーネント」という位置付けになりました。System Center Technical Previewとしては、以下の六つのコンポーネントが提供されています。
System Center Technical Previewのこれらのコンポーネントは、Windows Server Technical PreviewおよびSQL Server 2014の環境に導入することが可能で、Windows Server Technical Previewを管理することができます(画面1)。ただし、次期バージョンに搭載される新機能は、残念ながら今回のTechnical Previewには何も実装されていません。
例えば、Virtual Machine Manager Technical Previewには、次期Virtual Machine Managerから削除される予定の機能(後述)が残っていますし、Windows Server Technical PreviewのHyper-Vに追加された新機能にも対応していません。まだ詳しく確認したわけではありませんが、System Center Technical Previewの機能は、System Center 2012 R2とほぼ同じもののようです。Operations ManagerとService Managerは、インストーラーに表示される製品名も”System Center 2012 R2”のままでした。
System Centerの次期バージョンの新機能や強化点を評価するというのであれば、System Center Technical Previewでは目的に沿えません。次のプレビューリリースまで待った方がよいでしょう。なお、今回はConfiguration ManagerのTechnical Previewは提供されていません。Windows 10の管理などに対応したConfiguration Managerのプレビューは、2015年前半にリリースされる予定とのことです。
System Centerの次期バージョンの新機能や強化点について、現時点で公表されている情報はほとんどありません。一方、削除される機能のリストは、すでに公表されています。なお、このリストは削除される全ての機能を含むものではなく、また、今後変更される場合があります。
現時点で削除されることになっている機能は、以下の通りです。現在、System Center 2012 R2またはそれ以前のバージョンで運用管理を行っているのであれば、これを踏まえて今から自社の管理基盤の将来計画を立てることをお勧めします。
削除される機能でインパクトが大きいのは、「App Controller」でしょう。App Controllerの機能の一部が削除されるのではなく、App Controllerそのものがなくなります。App Controllerの削除は、System Center Technical Previewですでに行われました。
App Controllerは、Virtual Machine Managerで管理されるプライベートクラウド、サービスプロバイダーが提供するクラウド、およびMicrosoft Azureに対応したセルフサービスポータルです(画面2)。ハイブリッドクラウドの管理ポータルとして、System Center 2012で追加されたコンポーネントです。Virtual Machine Managerは自前でセルフサービスポータルを持っていましたが、App Controllerと入れ替わるように、System Center 2012 Service Pack(SP)1でVirtual Machine Managerから削除されました。
次期バージョンで早くもApp Controllerが消えてしまうのは残念な気もしますが、目まぐるしく変化するクラウドに製品として対応するのは困難だったのでしょう。例えば、現行バージョンのApp Controllerは、Microsoft Azureが現在提供している膨大なサービスのほんの一部にしか対応できていないはずです。
App Controllerの代替として、マイクロソフトはすでに「Windows Azure Pack」を提供しています。Windows Azure Packは、Windows Server 2012 R2およびSystem Center 2012 R2の上位で動作する、Microsoft Azureと一貫性のある操作と機能を持つ管理ポータルおよびセルフサービスポータルを提供します(画面3)。マルチテナントに対応し、公開されたAPI(REST API)でカスタマイズできるため、クラウドサービスプロバイダーが自社のサービスを提供するポータルとして利用することも可能です。
セルフサービスポータルとしては、もう一つ、Service Managerのアドオンである「Cloud Services Process Pack」で構築する方法がありました。こちらもWindows Azure Packと入れ替わる形で、次期バージョンからは提供されなくなる予定です。
現行バージョンのVirtual Machine Managerは、Hyper-Vだけでなく、VMware vCenter Serverを介したVMware ESX/ESXiホストの管理、およびCitrix XenServerホストの管理に対応しています(画面4)。
System Centerの次期バージョンでは、VMware ESX/ESXiホストの管理において、vCenter Server 4.1〜5.1のサポートが削除されます。Virtual Machine Managerの次期バージョンでVMware ESX/ESXiホストの統合管理を継続するには、VMwareの管理サーバーを後継バージョンにアップグレードする必要があります。
Virtual Machine ManagerによるCitrix XenServerホストの管理は、次期バージョンでサポートされなくなる予定です。Virtual Machine Managerを次期バージョンにアップグレードする際には、これまで統合管理していたCitrix XenServerをVirtual Machine Managerの管理とは分ける必要があるでしょう。Citrix XenServerホスト環境が小規模の場合は、XenServer上の仮想マシンをHyper-V仮想マシンに移行するという方法もあります。
Virtual Machine ManagerはVMwareに対応した「V2V仮想マシン変換ツール」を標準装備していますが、XenServerには対応していません。XenServer上のWindows仮想マシンであれば、マイクロソフトが無償提供している「Microsoft Virtual Machine Converter(MVMC)3.0」を使用して、物理サーバーのP2V(Physical to Virtual)変換でHyper-V仮想マシンに変換し、Hyper-Vホストに移行することが可能です(画面5)。MVMC 3.0はWindows ServerのHyper-VへのP2V変換の他、VMware仮想マシン(WindowsおよびLinuxゲスト)のHyper-VへのV2V(Virtual to Virtual)変換およびMicrosoft AzureへのV2V変換に対応しています。
また、XenServerはVHD(Virtual Hard Disk)形式に対応しているため、WindowsまたはLinux仮想マシンをVHD形式でエクスポートすることで、比較的簡単にHyper-V環境に移行することができます。
「Microsoft Server Application Virtualization」(Server App-V)は、Windowsデスクトップやリモートデスクトップサービス向けのアプリケーション仮想化テクノロジである「Microsoft Application Virtualization(App-V)for Desktop/for Remote Desktop Services」のサーバー版です。
App-Vは、デスクトップアプリケーションのインストールをパッケージ化してデスクトップに配信し、OSから分離された仮想的な環境上で実行するというテクノロジです。インストール不要でアプリケーションを実行でき、削除も簡単なので、ユーザーごとにアプリケーションを動的に切り替えるということが可能です。最新のMicrosoft Officeのインストールには、このApp-Vのテクノロジが応用されています。
Server App-Vは、System Center 2012以降のVirtual Machine Managerとともに提供され、仮想マシンにアプリケーションを自動展開する手段を提供します(画面6)。Virtual Machine Managerでは、サービステンプレートを使用して、インターネットインフォメーションサービス(IIS)のWebアプリケーションやミドルウェア、SQL Serverデータベースを自動構成し、階層型アプリケーションを自動展開することができます。Server App-Vは、主にミドルウェアの自動展開に適しています。
「サービス展開の自動化」はプライベートクラウドの重要な部分であり、Server App-Vはその要素技術として期待されていましたが、残念ながらVirtual Machine Managerの次期バージョンではサポートされなくなる予定です。
Windows Serverの次期バージョンでは、オープンソースのコンテナー管理テクノロジである「Docker」のサポートが追加される予定ですが、DockerとServer App-Vのコンセプトや機能は重複する部分があります。この新しい方針がServer App-Vのサポート終了に影響しているのかもしれません。
次回からはいよいよ、Windows Serverの次期バージョンの新機能や強化点について、Windows Server Technical Previewに基づいて説明します。次回はサーバーOSにも標準搭載されることになる「Windows Defender」を取り上げます。
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2014)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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