マイクロソフトは10月1日、開発コード名“Windows Threshold”、製品名は“Windows 9”や“Windows TH”になるのではとウワサされていた次期Windowsのプレビュー版「Windows 10 Technical Preview」を公開しました。正式リリースは2015年後半だそうで。
クライアント向けWindowsの次期バージョン「Windows 10」の最初のパブリックプレビュー版となる「Windows 10 Technical Preview」が、2014年10月1日(米国時間)に公開されました。公開されたのは、英語版(en-us、en-gb)、簡体字中国語(zh-cn)、ブラジルポルトガル語(pt-br)の4言語版のみで、今のところ日本語版(ja-jp)は公開されていません。
以下のマイクロソフトのアナウンスによると、今回のプレビューは企業向けの機能と、デスクトップおよびラップトップPC向けのエクスペリエンス機能にフォーカスしたものだそうです。2015年の早い時期のコンシューマー向けイベント、2015年春の開発者向けカンファレンス(Build 2015)を経て、2015年後半(later in the year)に正式リリースとなるようです。
正式リリースはまだまだ先です。今回のTechnical Previewの機能がそのまま正式リリース版に搭載されるとは限りませんし、まだまだ新機能の追加や改善、仕様変更が加えられるかもしれません。
Windows 10 Technical Previewは誰でも評価できますが、一般ユーザーの方は手を出さないことを強くお勧めします。止めはしませんが、どうしても試してみたいという方は、ダウンロードサイトに記載されている注意事項をよく読んでお試しください。ISOって何、インストールできない、PCが正常に起動しなくなったのでどうにかしてほしい、元の状態に戻したい、そのまま製品版に移行したい……といったことは口にしないように。
次期Windowsがどうなるのか、気になるという方のために、筆者が代わって人柱となりましょう。何かあったときの被害は最小限にしたいので、仮想化環境(Hyper-VとVMwareを使用)にインストールして試しています。さらっと触ってみただけなので、簡単に確認できる新機能をピックアップして紹介します。正式リリースは遠い先なので、あまり気は進まないのですが……。
Windows 10 Technical Previewは、「Windows 10 Technical Preview」(Proエディション相当)と「Windows 10 Technical Preview for Enterprise」の二つのエディションが公開されています。Enterpriseは最上位エディションで「Windows To Go」や「DirectAccess」「AppLocker」「VDI拡張」など、Proエディションにはない企業向け機能が搭載されています。このエディションの違いは、現行バージョンのWindows8/8.1とさほど変わらないでしょう。
Windows 8やWindows 8.1の新しいユーザーインターフェース(UI)の操作にようやく慣れてきた人は、Windows 10 Technical Previewは操作に戸惑うかもしれません。「スタートボタン」をクリックすると、なんだか懐かしさが漂う「スタートメニュー」が表示されます(画面1)。このスタートメニューは、Windows 7以前のあのスタートメニューとはちょっと違って、Windows 8.1のスタート画面とアプリ一覧をスタートメニューに変形したものといった印象です。
全画面表示だったPCの設定やモダンアプリは、デスクトップ上で実行されるようになり、ウィンドウの大きさもリサイズすることができます。モダンアプリの起動でデスクトップからモダンUIに切り替わる、という動作はなくなりました。なお、モダンアプリのリサイズは可能になりましたが、アプリを起動するには以前と同様、1024×768以上の解像度が要求されました。
もう一つの大きな変更点は、仮想デスクトップへの対応です。仮想デスクトップとはいっても、仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)の仮想デスクトップのことではありません。
複数のデスクトップスペースを作成して、デスクトップを切り替えて作業できる機能です。「Windows Sysinternals」に「Desktops」というユーティリティがありますが、あの機能がOSに標準搭載されたと思ってください。
しかも、Windows SysinternalsのDesktopsよりも洗練されている感じがします。デスクトップは「タスクビュー」(Task View、タスクバーの左から三つ目のアイコン)から作成、削除することができ、デスクトップ間の切り替えは「タスクビューで選択する」「タスクバー上のアプリのアイコンのクリックする」「アプリの切り替え([Alt]+[Tab]キー)」で行えます(画面2)。
「チャーム」は廃止されるのではとウワサされていましたが、ちゃんとありました。Windows 8/8.1のスタート画面も廃止になったわけではありません。「タスクバーのプロパティ」(Taskbar and Start Menu Properties)で、スタートメニューとスタート画面のどちらを使用するかを選択できます(画面3)。今回のプレビュー版はデスクトップとラップトップPC向けなので、スタートメニューが既定の設定になっているのかもしれません。あるいは、タブレットPCにインストールすると動作が違ってくるのかもしれません。
Windows 10 Technical Previewと同時に、Windows Serverの次期バージョンのプレビューである「Windows Server Technical Preview」も公開されました。@IT読者の方は、クライアント版よりもサーバー版の方が気になるという人もいることでしょう。Windows Serverの現行バージョンはWindows Server 2012 R2ですが、次期Windows Serverの正式名はまだ明らかになっていません。
Windows 10 Technical Previewと同様に、Windows ServerのGUI使用サーバーには、「スタートメニュー」が復活し、既定で有効になります(画面4)。やはり、サーバー管理はこっちの方がしっくり来ます。しかし、Windows Server 2012 R2の管理に慣れてしまっているなら、「スタートボタン」の右クリックで表示される簡易メニュー([Win]+[X]キーでも表示可能)の方が素早く管理できるかもしれません。
「スタートメニュー」の復活を除けば、ぱっと見た感じはWindows Server 2012 R2とほとんど変わりません。現時点で変更の多くは、役割や機能に対する変更や、新たな役割や機能の追加のようです。
Windows Server Technical Previewで「役割と機能の追加ウィザード」(Add Roles and Features Wizard)を実行してみたところ、以下の役割と機能が新たに追加されていることを確認しました。
Windows 8/8.1には、マルウェア対策(ウイルス対策、スパイウェア対策、ネットワーク検査システム)機能として「Windows Defender」が標準搭載されましたが、これがWindows Serverにも搭載されるようになりました(画面5)。Windows Defenderは既定でインストールされ、自動メンテナンスタスクの一部としてクイックスキャンが自動実行されるようになっています。Windows DefenderのGUIを追加すれば、Windows 8/8.1のWindows Defenderと同じように使用できます。
Windows Defenderを含む、Windows Server Technical Previewの新機能や変更点については、以下のドキュメントをご覧ください。筆者もこれから目を通すつもりです。
Windows Server Technical PreviewのHyper-Vの役割に関しては、いくつかの新機能の中から三つをピックアップして、実際にWindowsおよびLinuxのゲストOSをインストールして試してみました。
一つ目は、「チェックポイント」(旧称スナップショット)の新機能です。新しいHyper-Vには、チェックポイントの作成方法として、従来の方法(Standard checkpoint)とは別に、新たに「プロダクションチェックポイント」(Production checkpoint)の機能が追加されました。
従来のチェックポイントは、その時点のディスクとメモリの状態を保持するものであり、ディスクの状態とアプリケーションとの一貫性が問題になることがありました。そのため、運用環境ではチェックポイントは避けるべきでした。新しいプロダクションチェックポイントは、ゲストOSのボリュームスナップショットサービス(VSS)と連携して動作し、メモリの内容をディスクにフラッシュした状態でスナップショットを作成します(画面6)。
二つ目は、「メモリのホットアド/ホットリムーブ」です。これまでも、動的メモリが有効な仮想マシンでは、メモリ容量の追加と削除がオンラインでできました。
新しいHyper-Vでは、動的メモリを使用しない仮想マシンであっても、メモリの追加や削除をオンラインでできるようになります(ホットアドはWindows Server Technical PreviewまたはWindows 10 Technical Previewゲストの第2世代仮想マシンのみ対応)。また、第2世代仮想マシンでは、WindowsゲストとLinuxゲストの両方で、ネットワークアダプターのホットアド/ホットリムーブにも対応します(画面7)。
三つ目は、「Linuxゲストにおけるセキュアブートのサポート」です。現行のHyper-Vバージョンでは、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)7.0、CentOS 7.0、Ubuntu 14.04 LTSなどのゲストOSで第2世代仮想マシンがサポートされますが、セキュアブートには対応していません。新しいHyper-Vでは、今のところUbuntu 14.04 LTSとSUSE Linux Enterprise Server 12(現在ベータ)の二つについて、セキュアブートにも対応します(画面8)。
Hyper-Vの役割はハードウェアに依存するため、物理環境(またはハイパーバイザーのネストをサポートするハイパーバイザー)で評価する必要があります。Windows Server Technical Previewのそれ以外の役割の多くは、仮想化環境でも評価できます。
Microsoft Azureのサブスクリプション契約(無料評価版を含む)を利用できる場合は、「Microsoft Azure仮想マシン」で評価するという手もあります。Windows Server Technical Previewのイメージはすでに仮想マシンギャラリーに準備されているので、ほんの数分でWindows Server Technical Previewがインストール済みの新しい仮想マシンを展開できます(画面9)。
新しいバージョンのWindows Serverの統合管理には、新しいバージョンの「System Center」が必要であり、これらの製品は同時にリリースされるというのが、ここ最近のWindows ServerとSystem Centerの関係になっています。
Windows Server Technical Previewと同時に、「Virtual Machine Manager」「Operations Manager」「Orchestrator」「Service Manager」の四つのコンポーネントについて「System Center Technical Preview」が公開されています。System Centerも、次期製品の正式名はまだ明らかになっていません。
試しに、Virtual Machine ManagerをWindows Server Technical Preview上にセットアップしてみましたが、現行バージョンとの違いはこれといってありませんでした(画面10)。Windows Server Technical PreviewのHyper-Vやその他の役割(WSUSやIPAM、Network Controllerなど)に対応させただけのように見えます。
例えば、「Server Application Virtualization」(App-V)や「Web Deploy」のコンポーネントは現行バージョンと同じようですし、Hyper-Vの新機能であるメモリやネットワークアダプターのホットアド/ホットリムーブには対応していないようです。ローカルヘルプは古いバージョンのままでした。
System Centerから削除されるものについては、いくつか明らかになっています。ハイブリッドクラウド対応のポータルである「App Controller」は、次のSystem Centerでは提供されないようです。Virtual Machine ManagerにおけるServer App-Vのサポートもなくなるようです。どちらも面白い機能なんですが、利用者が少なかったんでしょうね。なお、今回のTechnical Previewでは提供されていない「Configuration Manager」は、2015年前半にプレビュー公開予定、「Data Protection Manager」は情報がありませんでした。
今回は、クライアント版とサーバー版のTechnical Previewを半日ほど触って気が付いたことを紹介しました。もっと詳しく知りたいという方もいるかもしれませんが、正式リリースまではまだまだ時間があります。この時点で重箱の隅をつつくような、突っ込んだ評価は無用でしょう。
Windows 8は、「Developer Preview」(2011年9月)、「Consumer Preview」(2012年2月)、「Release Preview」(2012年6月)の3回のプレビューを経て、2012年8月にRTM(製造工程向けリリース)となり完成しました。
Windows 8.1は、「Windows 8.1 Preview」(2013年6月)の1回だけで、2013年9月にRTM(ただし、従来のRTMとは異なり完成ではない)となり、10月のGA(General Availability)リリースで完成ということになりました。Windows 10の最初のプレビューはTechnical Previewという名前になりました。製品に近いビルドというよりも、新しいテクノロジのお披露目と筆者は勝手に思っています。
重箱の隅で思い出しましたが、デスクトップの右上隅にカーソルを移動するとチャームが表示されるはずなのですが、筆者の使用した仮想化環境だと反応しませんでした。最初はチャームが廃止されたのかと早合点しましたが、[Windows]+[C]キーで表示させることができました。
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2014)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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