今回は、次期バージョンの「Hyper-V」でサポートされるWindowsおよびLinuxのゲストOSを予想してみます。また、Linuxゲストに対して追加される新機能も紹介します。
次期Windows Serverに搭載される「Hyper-V」のサポート対象ゲストOSは、まだ公表されていません。しかし、これまでのHyper-Vが各バージョンでサポートしてきたゲストOSを見れば、容易に想像できるでしょう。
Windowsゲストは、新しいバージョンのHyper-Vを含むWindows Serverが正式リリースとなった時点で、「マイクロソフトサポートライフサイクル」の対象バージョンがHyper-Vのサポート対象ゲストOSとなるのが通例です。もっと正確に言うならば、サービスパックサポートの対象のWindowsになります。
これを踏まえると、次期Hyper-Vのサポート対象ゲストOSは、Windows Server OSが“Windows Server 2008 Service Pack(SP)2以降から次期バージョンのWindows Serverまで”、WindowsクライアントOSが“Windows Vista SP2以降からWindows 10まで”ということになります。
次期バージョンのWindows Serverは、正式リリースが当初予定されていた2015年後半から2016年にずれ込むことが、つい先日、以下の公式ブログで明らかにされました。この遅れによるサポート対象のWindowsゲストに変更はないでしょう。
Hyper-Vのゲストコンポーネントである「統合サービス(Integration Services)」は、最新のWindows Server OSおよびWindowsクライアントOSに最新版がビルトインされます。以前のWindowsに対しては、最新版の統合サービスが提供されるので、それをゲストOSに新規インストールするか、旧バージョンからアップグレードすることになります。
以下の画面1は、Windows Server 2012 R2 Hyper-Vからエクスポートし、Windows Server Technical Preview Hyper-Vにインポートした、Windows Server 2003 R2 SP2の仮想マシンとWindows XP Professional SP3の仮想マシンです。これらのゲストOSに最新の統合サービスが提供されることはなさそうですが、画面1のように旧バージョンの統合サービスで引き続き実行することは可能です。
もちろん、マイクロソフトによるサポートは受けられませんが、サポート対象外のWindowsゲストを実行する仮想マシンが存在するからといって、次期バージョンのHyper-Vへアップグレードできないというわけではありません。
本連載の第4回「新しい「Hyper-V」への移行に備える――仮想化基盤も次世代に」でも説明したように、Windows Server 2012 R2 Hyper-Vの仮想マシンは、仮想マシンの移動やライブマイグレーション、インポート/エクスポートで、構成バージョンをアップグレードすることで、簡単に新バージョンに移行することができます。すでにこれらのOSが仮想マシン上で動いているなら、そのまま新しいHyper-Vに移行できるでしょう。
新規作成した仮想マシンに、サポート対象外となったWindowsゲストを導入する場合、新しいHyper-VはこれらのOSに対して統合サービスを提供しません。現在、Windows Server 2012 R2 Hyper-VやWindows 8.1の「クライアントHyper-V」の環境が手元にあるなら、次期バージョンに備えて、現行バージョンの統合サービスのインストーラーを含むISOイメージ「%Windir%\System32\Vmguest.iso」を別の場所に保存しておくと役に立つかもしれません。
Windows Server 2012 R2のHyper-Vまでは「仮想マシン接続」(Vmconnect.exe)ウィンドウの「操作」メニューにある「統合サービスセットアップディスクの挿入」を選択することで、ゲストOSへの統合サービスのインストールやアップグレードを開始することができました(画面2)。
Windows Server 2012 R2 Hyper-Vに対応した最新の統合サービスをビルトインしているWindows Server 2012 R2およびWindows 8.1ゲスト以外のWindowsゲストは、この方法で最新の統合サービスを組み込みます。
Windowsゲスト用の統合サービスはISOイメージ「%Windir%\System32\Vmguest.iso」で提供されており、「統合サービスセットアップディスクの挿入」を選択すると、このISOイメージを仮想マシンにマウントするようになっています。
Windows Server Technical Preview Hyper-Vでは「Virtual Machine Connection(仮想マシン接続)」ウィンドウの「Action(操作)」メニューに、最新の統合サービスを導入するための項目が存在しません(画面3)。また、「%Windir%\System32」フォルダーにも、ISOイメージ「Vmguest.iso」は存在しません。
次期バージョンのHyper-Vでは、Windows用の統合サービスの提供方法が「Windows Updateによるオンライン提供」に変更される予定です。Windows Server Technical Previewが公開された約1カ月後に、Windows Server Technical Preview Hyper-Vに対応した統合サービスが、以下の更新プログラム(KB3004908)として公開されています。
この更新プログラムは、Windows Server Technical Preview Hyper-VやWindows 10 Technical PreviewクライアントHyper-V上で、以下のWindowsゲストを実行する仮想マシンに対してWindows Updateを通じて提供されます。つまり、以前のバージョンのWindowsは、これらのバージョンがサポート対象予定ということです。これは予想通りですね。
この更新プログラムにより、Windowsゲストの統合サービスはバージョン「6.3.9600.17388」にアップグレードされます(画面4)。
ちなみに、Windows Server Technical Preview Hyper-VやWindows 10 Technical Previewにビルトインされている統合サービスのバージョンは、「6.4.9841.0」またはそれ以降です。また、以前のバージョンの統合サービスが「6.3.9600.17388」にアップグレードされても、ステータスは「最新(Up to date)」にはならず、「更新が必要(Update required)」のままでした。統合サービスのバージョン番号やステータスは、正式リリースでは変わってくるでしょう。
これからWindows 10 Technical Previewの最新ビルド9926に搭載されているクライアントHyper-Vで、以前のWindowsゲストの仮想マシンを試してみようという場合は注意が必要です。更新プログラム「KB3004908」は、ビルド9926のクライアントHyper-V上の仮想マシンには、対象のWindowsバージョンであってもインストール対象として検出されませんでした(画面5)。
今後、ビルド9926のHyper-Vに対応した統合サービスが別の更新プログラムとして提供されるかもしれませんし、Windows Server Technical Previewの次のプレビュービルドのタイミングで提供されるかもしれません。
Hyper-Vを扱ったことがあるITプロフェッショナルの方ならすでにご承知のことと思いますが、Hyper-Vは主要なLinuxディストリビューションおよびFreeBSDをゲストOSとして正式にサポートしています。Windows Server 2008 R2以降のHyper-Vの対応ディストリビューションおよびバージョンと、サポートされる仮想マシンおよび統合サービスの機能については、以下のサイトで確認することができます。
このサポート情報の適用対象に、2014年末にWindows Server Technical Preview Hyper-VとWindows 10 Technical Preview Hyper-Vが追加されました。新しいHyper-Vに関する対応状況はまだ一覧表には反映されていませんが、Linux用の統合サービスは同じものであるため、Windows Server 2012 R2とほとんど同じと考えてよいと思います。
マイクロソフトは「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」および「Cent OS」のバージョン6.3以前および5.8以前に対し、「Linux Integration Services for Hyper-V」を提供してきました。それ以外のサポート対象LinuxおよびFreeBSD 10は、カーネルにHyper-Vの統合サービスがビルトインされています(画面6)。
Hyper-Vの統合サービスがビルトインされているため、LinuxやFreeBSDをHyper-V上の仮想マシンにインストールすれば、OSのインストール完了直後から、Hyper-Vの統合サービスが機能します。
一部のLinuxディストリビューションでは追加のパッケージが必要になる場合もありますが、他社の仮想化テクノロジと比べて、Hyper-VへのLinuxおよびFreeBSDの導入は驚くほど簡単です。また、Windowsゲストで利用できる統合サービスの機能のほとんどは、Linuxゲストにも提供されます。
例えば、Windows Server 2012 R2 Hyper-VからはWindows用の統合サービスに「ゲストサービス」が追加され、「Copy-VMFile」コマンドレットを使用して、Hyper-Vホストから仮想マシンのゲストOSに対して、ネットワークを使用せずにファイルをコピーできるようになりました(画面7)。
Linuxカーネルにマージされた最新の統合サービスにはこの機能が実装されており、比較的新しいLinuxではすでに利用できるようになっています。この機能は次期バージョンのHyper-Vの機能ではなく、Windows Server 2012 R2 Hyper-Vからのものです。
次期バージョンのHyper-Vでは、Linuxゲストに対して新機能が用意されています。それは、「セキュアブート」への対応です。現状は、Windows Server 2012および64ビットWindows 8以降の第2世代仮想マシンのみで、セキュアブートがサポートされています。Windows Server Technical Preview Hyper-Vでは、Ubuntu 14.04以降、およびSUSE Linux Enterprise Server 12の第2世代仮想マシンにおいて、セキュアブートの有効化がサポートされます(画面8)。
なお、Windows Server Technical Preview Hyper-Vにおいて、Linuxゲストのセキュアブートを有効化する場合は、仮想マシンをオフラインにした状態で以下のWindows PowerShellコマンドレットを実行する必要があります。
Set-VMFirmware "仮想マシン名" -SecureBootTemplate MicrosoftUEFICertificateAuthority
Linux仮想マシンをシャットダウンすると、他の仮想マシンを含め、Hyper-Vマネージャーに仮想マシンの一覧が表示されなくなるという既知の問題があります。
この不具合は、Linuxの仮想マシンのプロパティを開き、統合サービスの「Heartbeat」をオフにすることで回避できます。問題が発生してしまった後は、Windows PowerShellで次のコマンドラインを実行することで、仮想マシン一覧の復活と問題の再発防止が可能です。
start-VM "仮想マシン名"
get-VM "仮想マシン名" | Disable-VMIntegrationService "Heartbeat"
なお、Windows 10 Technical Previewビルド9926に搭載されるクライアントHyper-Vでは、この問題は解消しています。
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2015)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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