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フラッシュマーケティング関連求人が登場IT業界 転職市場最前線(18)

不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。

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 2010年上半期は「ソーシャルアプリ活況」の一言に尽きる。ソーシャルアプリ/ソーシャルゲーム関連求人が急増し、Web業界やモバイル業界の転職市場がにぎわったことは、あらためて述べるまでもないだろう。

 8月ごろからはPHP以外の言語でも求人が増加し、徐々に採用ニーズが広がりを見せている。9月以降は「官公庁向けシステム開発」や「割引クーポン共同購入サービス(フラッシュマーケティング)」関連の求人増加が目立った。

 こうして挙げてみると、IT業界の転職市場は順調に回復に向かっているように思える。だが、制御・組み込み分野や汎用系エンジニア、コンシューマゲームのクリエイターなど、厳しい転職活動を余儀なくされている職種も多い。

 職種や業界によって明暗の分かれる現在の転職市場だが、市場の動向から可能性を探り、チャンスをつかんでほしい。

Web業界

 2010年上半期、Web業界は常に高い採用意欲を維持してきた。最も採用が活発だったのはWebエンジニアであり、続いてWebデザイナー、Webディレクターが好調だった。こうした好調の背景には、ソーシャルアプリ/ソーシャルゲーム人気がある。Webサービスを提供してきた企業のソーシャルアプリ参入が増えたことで、新たな採用ニーズが発生した。

 新規求人の発生数はやや減少したものの、今後も積極的な採用が期待できるだろう。

エンジニア:支度金を用意する企業も

 Web系エンジニアの採用意欲は高く、特にソーシャルアプリ/ソーシャルゲーム開発関連の求人は増加が続いている。グリー、ディー・エヌ・エー、ドワンゴはエンジニアの採用に支度金(準備金)を用意しており、エンジニアの獲得競争は一層、激しさを増しているようだ。依然としてPHPの人気が高いものの、Perl、Ruby、Java、C++などの経験者を求める企業も増えている。

クリエイター:スペシャリストを求める傾向がより強まる

 前月から引き続き、スペシャリストを求める傾向が強まっている。代表的な例として、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナー、インフォメーションアーキテクト、Flashクリエイターなどを求める企業が目立つ。

 ソーシャルアプリ/ソーシャルゲーム関連では、デザインや制作を海外(主に中国)で行う企業が多く、クリエイター求人の急増にはつながっていない。

ディレクター/プロデューサー:フラッシュマーケティングサイトで新たなニーズが発生

 これまでもニーズの高かったECサイトやコミュニティサイト関連求人に加え、フラッシュマーケティングの関連職でニーズが高まっている。いずれも増員を目的とする求人であり、募集枠の拡大や書類選考通過率、選考スピードの上昇が見られた。ただし、積極採用を行っているのは大手・有名企業や新規設立企業が多く、中堅企業の中には苦戦を強いられている企業が少なくないようだ。

モバイル業界

 モバイル業界の転職市場は活況が続いており、短期間で転職が決定する人が少なくない。このため、採用選考中に辞退(他社への転職決定)となるケースが増えており、より多くの応募者を確保するために応募要件を引き下げる動きが見られた。

 今後も転職市場の活況が続けば、書類選考のハードルの下降が見込まれる。これまで苦境にあった求職者にもチャンスが広がるだろう。

エンジニア:新規求人数に落ち着きが見え始めるも、各社の採用競争は続く

 ゲーム/エンタメ系サイト経験や、LAMP開発経験を持つエンジニアは、引き続き高い採用ニーズを維持している。だが、9月以降は新規求人の発生数が減少傾向にあり、半年間続いていた「急募」での採用意欲は薄れつつある。

 とはいえ、前述のとおりエンジニアの採用に際して最高200万円の準備金(支度金)を用意する企業が現れるなど、業界トップ企業の採用意欲は健在だ。

クリエイター:2Dデザイナー、紙媒体の経験者にニーズが拡大

 転職市場をにぎわせているソーシャルアプリ/ソーシャルゲームで需要が高まっているのは主にプランナーやディレクター職であり、デザイナー職はさほど盛り上がりを見せていない。国民性が反映されるプランニングは日本人が行い、デザインや制作は人件費の安い中国で行う企業が少なくない。また、人件費削減を目的に、準社員やアルバイトでの採用を行うケースが増えているようだ。

 一方、ソーシャルアプリの隆盛により、これまでモバイル業界ではあまりニーズのなかった「Illustratorの使用経験」や「紙媒体(印刷物・パンフレットなど)での2Dデザイン経験」を求める企業が増えており、新たなキャリアパスが生まれている。

ディレクター/プロデューサー:ソーシャル経験を必須とする企業が増加

 ソーシャルゲーム/ソーシャルアプリ関連求人は引き続きニーズが高いものの、「ソーシャルゲーム未経験者でも可」とする採用スタイルから、「ソーシャル経験者」に絞った採用を始める企業が増えている。今後半年以内には、iPhoneやAndroidなどスマートフォン分野でも、未経験での応募は難しくなることが予想される。

 一方、フィーチャーフォン(日本で普及している多機能携帯電話)向けのコンテンツ/サイト関連求人は増加傾向が続いており、募集職種や応募要件が拡大している。

システム業界

 インテグレータ各社からの採用ニーズは、緩やかながらも回復に向かっているようだ。

 システム/ソフトウェア業界では、セキュリティソフトや金融系の好調が続いている。PHPやJava以外の言語経験者の募集も増えつつあり、今後の市場回復に期待したい。

自社プロダクト系:大幅な求人増は見られないものの、徐々に回復の兆し

 ハードウェア業界の求人は横ばいながらも、大手電子メーカーや外資系ストレージメーカーから募集再開の動きが見られた。セールス職を中心に、人事職などのバックオフィス職も発生している。

 ソフトウェア業界では、外資系セキュリティソフトウェア業界から新規募集が発生したため、求人数が微増した。また、前月から増加傾向にある「品質保証(QA)」の求人がさらに10%増加した。

システムインテグレータ:官公庁向けシステムや.NET系言語で求人が増加

 システムインテグレータの転職市場は、緩やかな上昇が続いている。銀行、証券、生損保などの金融系のほか、官公庁向けシステムや通信系システムの開発案件が増加。プロジェクトリーダー/マネージャ層を中心としながらも、幅広い求人がそろっている。

 PHPまたはJavaの経験を必須とする求人が60%以上を占めるが、一方で.NET系言語の求人が回復に向かっており、VB.NET、C#.NET経験者の成功事例が増えた。

インフラエンジニア:慎重な採用から、積極採用へ方針を転換

 これまでは案件の受注状況を見ながら慎重な採用を行ってきた各社が、積極採用へと方針転換を図っている。受注案件へアサインする人員の確保が急務になっている企業が少なくない。

 ただし、依然として設計・構築を必須とする求人が主流であり、運用・保守経験のみでは厳しい転職活動となるだろう。

ゲーム業界

 ゲーム業界を盛り上げているのはソーシャルゲームであり、オンラインゲームやコンシューマゲームの採用ニーズは停滞している。これまでコンシューマゲームを手掛けてきた企業も、ソーシャルゲーム開発要員の採用に積極的な動きを見せている。

 ソーシャルゲーム開発の経験者が市場に増えつつあるいま、オンラインゲームやコンシューマゲームからソーシャルゲーム分野への転職を志望する人は早めの決断が必要だ。

ソーシャルゲーム:求人が急増。盛況が続く

 前回、「一定の落ち着きを見せ始めている」とお伝えしたソーシャルゲーム業界だが、9月は勢いを取り戻し、関連求人が急増した。Web系エンジニアの求人が最も多く、膨大なトラフィックを支えるためのサーバエンジニア職のニーズも高まっている。

 コンシューマゲームとソーシャルゲームではビジネスモデルや開発環境が大きく異なるため、エンジニア職では転身が難しい。一方、デザイナー職では2DCG/3DCGのスキルを生かした転職が可能だ。プランナーやディレクター職での転職の場合は、コンシューマとソーシャルの違いを正しく理解している必要がある。

オンラインゲーム:安定したニーズがあるものの、勢いは乏しい

 MMORPGを中心とするオンラインゲーム業界では安定した求人ニーズがあるものの、一時期ほどの勢いは感じられない。オンラインゲーム市場がすでに飽和状態に近いこともあり、以前のような新規参入企業からの募集は影を潜め、一部の企業が恒常的に募集を行うにとどまっている。

コンシューマゲーム:採用は一部企業にとどまり、需要と供給のバランスが崩れている

 コンシューマゲーム業界の採用ニーズに変化はなく、業績の好調な一部の企業だけが採用を継続している。ただし、選考ハードルは高く、転職は容易ではない。厳しい経営状況下にあるディベロッパーからの転職希望者が増える一方で、それだけの人員を受け入れるだけの求人がない、というのが実情だ。

そのほか

営業関連職:フラッシュマーケティングやスマートフォン分野で新たな可能性も

 Web広告代理店を中心に、営業関連職は安定したニーズがある。

 Web広告営業の求人では、商材としてWeb広告を扱った経験がなくても、商材や営業手法に親和性があったり、営業先となる業界の経験者であれば応募可能な求人がある。不動産業界、広告代理店、人材業界などの出身者は、Web広告業界にチャレンジしやすい。また、扱ってきた商材の受注単価が、応募企業の扱う商材に近いことも書類選考時のポイントとなるようだ。

 昨今では、フラッシュマーケティングの領域で、各社から積極的な採用が目立つようになった。「半年間で5〜10名の営業職を採用したい」という積極的な姿勢が見られ、新たなマーケットに対する期待の高さがうかがえる。

 また、iPhoneやAndroidなどスマートフォン向けの広告商品が増加したことにより、新たなニーズが発生している。


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