10月のWebエンジニアの新規求人件数、前月比2倍:IT業界 転職市場最前線(19)
不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
下半期に入り、これまで採用に慎重な姿勢を見せていた多くの企業が、新たな人材募集を開始した。昨年から採用控えや縮小を行ってきた反動からか、複数名枠で募集する企業が少なくない。
また、ソーシャルアプリが市場をにぎわせる一方で、Android/iPhoneが存在感を増している。スマートフォンの普及が広がるにつれ、Objective-CやJavaスキル保持者への注目が高まっている。こうした影響は、モバイル系企業だけでなく、制作会社やインテグレータにも新たなニーズを発生させている。
一部の業界・職種では激しい採用競争が起こっており、人材の獲得を目指す企業側にも努力や工夫が求められている。このことは、応募条件の拡大や選考スピードの上昇につながっており、求職者にとってうれしい傾向といえるだろう。
年末が近づくと募集企業の採用活動が鈍化する傾向にあるため、いま転職を考えている人は、早めに活動を開始してほしい。
Web業界
マネジメント職や新規サービス立ち上げポジションなど、職位の高い求人が見られるようになった。これらの人材は、求められるスキル・経験は高度だが、メンバー層の求人と比較して採用ターゲットとなる年齢層が高い傾向にあり、30代後半以上の人材にもチャンスが広がっている。
ソーシャルメディア関連職においては、応募者の「熱意」が選考結果を左右するケースがある。日ごろからソーシャルアプリを積極的に利用し、自身の考えや見解をまとめておくといいだろう。
エンジニア:前月比2倍の新規求人が発生
Webエンジニアの採用意欲は衰えず、10月は前月比で2倍の新規求人が発生した。求められるスキルの条件もPHPだけでなく、「Java」「LL(軽量プログラミング言語)のいずれか」「.NET」「C++」「Objective-C」など拡大している。
ただし、入社後に教育を要する未経験者(または経験の浅いエンジニア)は生産性を低下させる可能性があるため、事業が急成長している企業では採用に消極的だ。
クリエイター:PCサイト向けデザイナー職に回復の兆し
長く低迷が続いていたWebデザイナー(PCサイト)の求人がわずかに増加した。Webデザイナー職はエンジニアやディレクター職と比べて採用優先度が低く、非正規雇用での採用が目立っていたが、Web業界全体の活性化によって採用ニーズが顕在化し始めている。
ディレクター/プロデューサー:制作会社やインテグレータも新規募集を開始
9月まではECサイト、コミュニティサイト、フラッシュマーケティング関連サイトなどにニーズが集中していたが、10月は特定ジャンルへの偏りはなく、総じて求人数が増加した。自社サービス運営企業からの求人に加え、Web制作会社やインテグレータからの求人の増加、Web業界外からのWebディレクター募集が目立った。
モバイル業界
求人数・採用枠は増加傾向にあり、採用に苦戦する企業が少なくない。好調が続くソーシャル分野やスマートフォン向けの求人だけでなく、フィーチャーフォン(日本で普及している多機能携帯電話)向けの求人も堅調な伸びを見せている。
コンシューマゲーム業界やWeb業界などからモバイル業界への転身を図る人材も多く、市場全体が活性化している。
エンジニア:Android向け開発職でJavaエンジニアのニーズが顕在化
LAMP環境での開発経験者が人気を集める一方、JavaやC#でのWebアプリケーション開発エンジニアも採用ターゲットとする企業が増えつつある。市場が拡大しているAndroidではJavaでのアプリケーション開発が可能なため、新たなニーズが発生している。
クリエイター:勢い振るわず。新規求人・急募求人が狙い目
サイト制作やデザイナー関連職の求人は振るわなかった。エンジニアの採用を優先させる企業が多く、クリエイターの採用には慎重な場合が多い。
長期にわたって募集を続けている求人では、採用ハードルが高い傾向にあるため、新規求人や急募求人の方が採用に至る可能性が高い。
プランナー/ディレクター:各社の採用競争が続く。選考はよりスピーディーに
ソーシャルゲーム/アプリ関連やAndroid/iPhoneなどのスマートフォン関連で積極採用が続いている。他社との採用競争が起こることも多く、面接回数を減らしたり、選考結果を早めたりと、よりスピーディーに選考を進める企業が目立つ。20〜30代前半までの人材を求める傾向が強い。
システム業界
ハードウェアメーカーからの採用ニーズは低迷が続いているものの、ソフトウェアメーカーやSIer(システムインテグレータ)、NIer(ネットワークインテグレータ)からの求人は増加傾向にある。2次請けSIerからは、案件獲得に伴う人材募集が目立ち、業績の好不調が明確に表れているようだ。
自社プロダクト系:ソフトウェア業界は緩やかな上り坂。営業職求人が主流
ハードウェアメーカーからの採用意欲は、いまだ回復を見ない。特に技術職の求人は低迷が続いている。ハードウェアメーカーからの募集は60%以上が営業職であり、残りの40%をコンサルタント職やマーケティングなどのバックオフィス職で分けあっている格好だ。
ソフトウェアメーカーからの求人は緩やかに増加しており、セキュリティ、ERP(特に会計システム)のほか、医療系システムやSCM分野でも少しずつ新規募集が始まっている。営業職を中心に、開発エンジニア、QA/品質管理、マーケティングなど、幅広い職種でニーズが見られる。
SIer:Objective-C、Android関連求人が10%増
銀行・証券・生損保などの金融系や官公庁向けの求人では、プロジェクトリーダーまたはマネージャ経験が求められている。求人数の回復に伴い、プログラマ経験のみでも転職に成功する事例が増えつつあるが、マネジメント経験を持たない人材にとっては、いまだに厳しい状況を脱していない。
開発エンジニア職では、Java、PHPでの経験を必須とする求人が主流だが、スマートフォンの普及に伴ってObjective-CやAndroidアプリ開発の経験者募集が9月に比べると10%程度増加した。
インフラエンジニア:80%以上の求人でLinux/UNIX経験が必須
インフラエンジニア職の求人は、80%以上がLinux/UNIXの経験を必須としている。一部ではWebアプリケーションサーバの設計・構築経験や、Ethernet/IPの深い知識を求めるものもあり、求人数は増加しているものの選考水準は高い。特化した経験・スキルの保持者よりも、幅広い経験を求める傾向にある。Linux、設計・構築、データベース、仮想化技術、がキーワードだ。
ゲーム業界
ソーシャルゲーム隆盛の陰で、一時は採用活動が停滞していたオンライン/ブラウザゲーム業界からの採用ニーズが回復傾向にある。一方、コンシューマゲーム業界は冷え込みが続いている。特に3DCGデザイナーには厳しい市況だ。
現在のデザイナー求人は、モバイルやソーシャルゲーム向けのデフォルメ調の2Dデザイン経験を求めるものがほとんどであり、リアルタッチの3DCGデザイナー職の募集はほとんど見られない。2011年2月に発売予定のニンテンドー3DSの登場によって、市場に新たなニーズが発生することを期待したい。
ソーシャルゲーム:採用意欲が高く、選考水準は緩やか
ソーシャルゲーム市場の採用意欲は非常に高い。若いベンチャー企業が多いため、選考回数や面接日程の調整などに柔軟な対応が可能であり、スピーディーな採用が行われている。
また、他業種・業態の企業と比較すると採用基準が緩やかであり、採用に至りやすいといえる。伸び盛りの業界では人手不足が続くため、「人材を確保してから社内で育成しよう」という戦略がうかがえる。
オンラインゲーム:ディレクター/プロデューサー職でニーズが回復
数カ月の間、オンラインゲームやブラウザゲーム分野の求人には大きな動きが見られなかった。しかし10月はゲームディレクター/プロデューサー職で求人数が増加した。ソーシャルゲームと合わせ、インターネットを介したゲームは勢いがあり、各社が採用を強化している。
コンシューマゲーム:冷え込みが続き、多くの人材が流出
現職企業の業績悪化を理由に、転職に踏み切る人材が増えている。これまで安定した経営を維持していたが、今年に入って急激に経営状態が悪化した企業は少なくないようだ。これはディベロッパ企業だけではなく、パブリッシャーも例外ではない。コンシューマゲーム市場の縮小が、転職マーケットにも大きな影響を与えている。
そのほか
営業関連職:ニーズの拡大・選考手法の多様化が進む
幅広い人材を獲得するため、業界経験を不問とし、独自の筆記テストで業界知識・適応力を測る企業が現れている。1次面接時に「面接(人物面)+独自テスト(業界知識)」の両面を一度に判断する効率的な採用手法を採っている。
また、中小SIerからの営業職ニーズが高まっている。ターゲット業界へのITソリューション経験5〜7年以上を持つ即戦力層が求められている。
転職市場をにぎわせているソーシャル分野においても、営業職の新規求人が発生している。海外進出を視野に入れる企業からは、事業所設立や業務提携、M&Aなど話題が尽きず、今後はさらに採用人材のグローバル化が進むだろう。
そのほか、オンラインゲーム会社からの「インターネットカフェへの販促営業」や、ERP大手企業からの営業職募集が開始されるなど、多方面で営業職のニーズが高まっている。
経理/財務職:経理職でニーズに期待
停滞が続いていた経理職の求人が増加に転じた。「Web系(特にモバイル業界)の企業」「上場企業、もしくは上場を視野に入れて事業展開を図っている企業」で新規募集が見られた。ただし、財務職の求人数に増減は見られなかった。
経理職では例年を上回る新規求人が発生しており、今後のニーズ回復に期待が持てる。
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