リモートデスクトップサービス(RDS)の強化点――MultiPoint Services(その1)vNextに備えよ! 次期Windows Serverのココに注目(10)

次期Windows Serverには、新しい役割として「MultiPoint Services」が追加される予定です。この役割は、これまで教育機関向けに提供されてきた製品をWindows Serverに統合するものです。

» 2015年03月18日 00時00分 公開
[山市良テクニカルライター]
「vNextに備えよ! 次期Windows Serverのココに注目」のインデックス

連載目次

RDSの新しい役割「MultiPoint Services」とは?

 前回説明したように、「RemoteFX仮想GPU」の強化点を除けば、Windows Server Technical Previewの「リモートデスクトップサービス(Remote Desktop Services:RDS)」の機能は、Windows Server 2012 R2と基本的に変わりません。次期バージョンのWindows Serverは、まだまだ開発途上であり、今後のプレビューリリースでRDSに新機能が追加されたり、変更が加えられたりする可能性はあります。

 今回は、以下のマイクロソフトのサイトに「RDSの新機能」として記載されている、Windows Serverの“新しい役割”「MultiPoint Services」について説明します(画面1)。

画面1 画面1 Windows Server Technical Previewに追加された新しい役割「MultiPoint Services」

 MultiPoint ServicesはRDSの新機能という位置付けですが、RDSに追加される機能ではなく、「RDSの役割サービス」を前提として動作する新しい役割になります。

 具体的には、RDSの「リモートデスクトップ(RD)セッションホスト」および「RDライセンス」の二つの役割サービスに依存します(画面2)。また、オプションで「RD仮想化ホスト」の役割サービスを使用した仮想デスクトップの展開も可能であり、その場合は前回説明したRemoteFX仮想GPUの機能も提供できます。

画面2 画面2 「MultiPoint Services」の役割は、RDSの「RDセッションホスト」および「RDライセンス」の二つの役割サービスに依存する

 次の画面3は、すでに展開したMultiPoint Servicesの管理用コンソールです。これらのコンソールで何ができるのか、詳細は次回以降で説明します。今回は、この新しい役割の起源となった製品「Windows MultiPoint Server」との違いを説明しましょう。

画面3 画面3 MultiPoint Servicesの管理用コンソール「MultiPoint Manager」(奥の画面)と講師用コンソール「MultiPoint Dashboard」(手前の画面)

これまでのWindows MultiPoint Server 2012とはココが違う!

 Windows MultiPoint Serverは、1台のコンピューターを複数ユーザーでの同時利用を可能にし、かつ講師用コンソールからユーザーのデスクトップを参照、制御できる“教育機関向けのソリューション”です(画面4)。これまで、Windows Server 2008 R2をベースにした「Windows MultiPoint Server 2010」、Windows Server 2008 R2 SP1をベースにした「Windows MultiPoint Server 2011」、Windows Server 2012をベースにした「Windows MultiPoint Server 2012」の三つのメジャーバージョンがリリースされています。

画面4 画面4 「Windows MultiPoint Server 2012」は教育機関向けの製品だった

 Windows MultiPoint Serverは、1台のサーバーに複数の「ステーション」を接続して、複数ユーザーからの同時利用を可能にします。ステーションは、サーバー直結のディスプレー(VGA接続など)と、ユーザーごとに専用のUSBハブに接続されたキーボードとマウス、その他のデバイス(USBメモリやUSBカメラなど)をセットにしたものです(図1)。直結のステーションの他、Windows MultiPoint Server専用のUSBゼロクライアントステーション製品や、LAN上のRDPクライアントを使用することも可能です。

図1 図1 Windows MultiPoint Serverの構成例

 例えば、コンピューター教室では、受講者は自席のステーション(直結、ゼロクライアント、またはRDPクライアント)からログオンして、専用のデスクトップ環境を使用できます。講師は、講師用のステーション(直結、ゼロクライアント、またはRDPクライアント)から全ての受講者のデスクトップを参照して進行状況を監視したり、チャットやリモート制御、アプリケーションの制御、デスクトップ投影などの機能を利用したりして、受講者を支援することができます。

 Windows MultiPoint Serverのステーションから受講者がログオンするのは、RDセッションホストのデスクトップセッションになります。現行のWindows MultiPoint Server 2012では、オプションで仮想デスクトップ機能を有効にすることで、Windows 7 EnterpriseまたはWindows 8 Enterpriseの仮想マシンを自動プロビジョニングして、ステーションごとに専用の仮想マシンベースのデスクトップを割り当てることができます。

 また、「MultiPoint Connector」を使用することで、LAN上のWindows 7およびWindows 8/8.1のローカルコンソールを管理対象に追加して、デスクトップの参照やリモート制御など、ステーションと同じように扱うことができます。

 Windows Server Technical PreviewのMultiPoint Servicesは、Windows MultiPoint Server 2012をベースとしています。「MultiPoint Manager」上のロゴはWindows MultiPoint Server 2012のままであり、提供する機能はWindows MultiPoint Server 2012と基本的には同じです。違いがあるとすれば、次の3点くらいです。

[違い−その1]Windows 10 Enterprise相当のデスクトップ環境を提供

 Windows Server 2012のRDセッションホストは、Windows 8 Enterprise相当のデスクトップ環境を提供します。Windows Server 2012ベースのWindows MultiPoint Server 2012は、同じようにWindows 8 Enterprise相当のデスクトップ環境を、ステーションやRDクライアント経由で受講者や講師に提供します。

 対して、Windows Server Technical PreviewのMultiPoint Servicesは、Windows 10 Technical Preview for Enterprise相当のデスクトップ環境を提供します。ご存じのように、Windows 10はデスクトップUI(ユーザーインターフェース)がWindows 8からはガラリと変わる予定です。MultiPoint Servicesは、その最新のデスクトップ環境を提供できる点がWindows MultiPoint Server 2012との大きな違いです。

[違い−その2]コネクターはWindows 10にビルトイン、旧バージョンへの提供なし

 Windows MultiPoint Server 2012は、Windows 7およびWindows 8用のMultiPoint Connectorを提供します。MultiPoint Connectorを導入することで、LAN上のWindows 7およびWindows 8のPCを統合し、コンソール表示を制御できるようになります。サポートされているかどうかは不明ですが、Windows 8.1のPCを追加することも可能でした。

 Windows Server Technical PreviewのMultiPoint Servicesは、クライアント用のMultiPoint Connectorを提供しません。MultiPoint Connectorは、Windows 10に標準搭載されているものを使用できます。つまり、Windows Server Technical PreviewのMultiPoint Servicesに追加できるのは、Windows 10のPCだけになります。正式リリースで旧バージョンのWindowsがサポートされるかどうかは不明です。

[違い−その3]仮想デスクトップはWindows 10 Enterpriseのみに対応

 Windows MultiPoint Server 2012の仮想デスクトップ機能は、Windows 7 EnterpriseおよびWindows 8 Enterpriseの仮想マシンの展開に対応しています。Windows Server Technical PreviewのMultiPoint Servicesは、Windows 10 Enterpriseの展開だけに対応しています。正式リリースにおいて、旧バージョンのWindowsがサポートされるかどうかは不明です。

RDS標準のリモート制御機能(シャドウ)とは全く違う!

 Windows MultiPoint ServerやMultiPoint ServicesはRDSの役割サービスに依存しますが、利用可能な機能は通常のRDSにはないものばかりです。

 例えば、講師は一つのコンソールで全ての受講者のデスクトップを1画面で参照でき、必要があればリモート制御することができます。Windows Server 2012 R2のRDSには「シャドウ」(Shadow)というリモート制御機能がありますが、MultiPoint Servicesのシャドウ機能は、それとは全く違うテクノロジで実現されています(画面5)。Windows Server 2012 R2のシャドウ機能はRDセッションホストのセッションでなければ利用できず、クライアントOSのコンソールをリモート制御することはできません。しかし、MultiPoint Servicesは可能です。

画面5 画面5 Windows Server 2012 R2のRDSのシャドウ機能によるリモート制御。MultiPoint Servicesのリモート制御はこれとは全く違うテクノロジ

 この他にもMultiPoint Servicesには、コンピューターを使用した授業やトレーニングに役立つ機能が多数搭載されています。次回は、どのような機能が利用できるのかを具体的に説明します。どれも、Windows MultiPoint Server 2012と同じ機能ですが、Windows MultiPoint Serverは教育機関向けの製品であるため、具体的な機能を知らない人がほとんどのはずです。

「vNextに備えよ! 次期Windows Serverのココに注目」バックナンバー

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2015)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。