SIerも採用再開。Javaや.NET、金融系にニーズ:IT業界 転職市場最前線(13)
不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。
新年度を迎え、多くの企業で新たな採用方針が策定された。それに伴い、これまでは採用を見合わせていた企業から、続々と求人が発生している。
低迷が続いていたデザイナー職の求人や、Webインテグレータ(Web制作会社)やシステムインテグレータ(SIer)からの求人も緩やかな増加傾向にあり、業界や職種によって差はあるものの、転職市場全体として採用ニーズは確実に上向いている。特にソーシャルメディア、ソーシャルアプリの勢いは衰えず、関連求人が多く発生している。わずかではあるが、昨年度中はほとんど見られなかった若手のポテンシャル採用を開始する企業も現れた。
「急募」や「厳選採用」の傾向は続いているものの、これまで苦境を強いられていた求職者にとって、可能性は大きく広がりを見せている。ただし、いまだ競争率の激しい情勢に変わりはない。企業に対していかに有効なアピールを行えるかが、転職成功の鍵といえるだろう。
Web業界
Web業界は、4カ月連続で求人数が増加した。Webサービスのさらなる拡充を目的とした、インフラエンジニア、Webエンジニア、ディレクターなどの募集を開始する企業が目立った。Web広告営業を中心に、営業職のニーズも高い。
ただし、Web業界の求人は「すぐにでも採用したい」という急募案件が多く、早期に募集終了となる傾向がある。
また、Web業界はシステム業界に比べて年収水準がやや低い傾向にあるため、他業種からの転職では、「年収」において企業側と求職者との合意が得られないケースが目立った。
エンジニア:求人数の増加が続く。受託系企業からの求人は応募条件が低め
Webエンジニアの採用ニーズは高く、求人数の増加が続いている。好調を維持してきた自社サイト運営企業からの求人だけでなく、Webサイト開発を受託している企業からの募集も見られるようになった。
受託系企業からの求人は、自社サイト運営企業からの求人と比べ、応募要件(求められるスキル)がやや低く設定されていることが多い。自社サイト運営企業がLAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP/Perl)での開発経験を必須とするのに対し、受託系企業では「PHP経験のみ」を必須にするなど、求職者にとっては応募しやすい条件になっている。
また、自社サイト運営企業においては、サービス拡大のためにインフラエンジニアを採用する企業が増えている。
クリエイター:緩やかな回復傾向。「プラスアルファ」のスキルが求められる
急増とはいえないが、Webデザイナーの求人数は少しずつ増加している。ただし、デザイン、コーディング、画像加工などの業務にとどまらず、「PHPを使用したページ修正」「DTPデザイン」「Webマーケティングの知識」など「プラスアルファのスキル」を求める企業が多い。Webサイト全般を一手に担える人材のニーズが高く、デザイナーとしての技術力だけでは内定を勝ち取るのが難しい状況だ。
新規求人のほとんどが「急募」であり、少ない求人に応募が殺到することが少なくない。募集を開始したその日に即日募集終了となるケースもあった。
ディレクターやプロデューサー職では、ソーシャルアプリ関連の求人が目立った。
モバイル業界
ソーシャルメディア/ソーシャルアプリを中心に求人ニーズが拡大している。モバイルコンテンツプロバイダやモバイルインテグレータが、新規事業としてソーシャルアプリに力を入れるケースが増えている。
モバイルやソーシャルアプリは新興分野であるため、書類選考で大きくふるいに掛けるのではなく、「積極的に会って話をしたい」という企業が少なくない。他業界(特にWeb業界、ゲーム業界)の経験を生かした転職が十分に可能な業界といえる。
エンジニア:ソーシャルメディアを中心にニーズ高まる。若手ポテンシャル層の採用も
ソーシャルメディアやiPhone/Androidアプリ開発エンジニアのニーズが高まっている。これまでは自社サービスの開発を目的とした求人に限られていたが、受託開発を行う企業からも新たな求人が見られるようになった。自社内での教育を前提に、若手エンジニアをポテンシャル採用する「育成枠」での募集を開始する企業もあり、業界全体の勢いを感じる。
クリエイター:キーワードは「ゲーム」「エンタメ」「企画力」
ソーシャルメディア/ソーシャルアプリを中心にニーズが拡大している。特に「企画センス・企画力」を求められる傾向が強い。応募時に企画書を添えるなど、企画力をアピールすることで選考通過の可能性が高まるだろう。
Webサイト制作・デザイナー職においては、ゲーム/エンタメ系クリエイターの募集が大部分を占める。クリエイターとしての技術力だけでなく、企画・制作・ディレクションまでを幅広く担える人物が求められるケースが多い。
モバイルゲーム:コンシューマゲームの経験者を求める傾向が強まる
コンシューマゲームの経験者を求める企業が増えつつある。モバイルやソーシャルアプリの経験がなくても、コンシューマゲーム(特にニンテンドーDSやPSP向け)やオンラインゲーム(PC向け)の経験があり、「今後モバイルゲームやソーシャルゲームに携わっていきたい」という志向の人は、十分に採用の対象となるようだ。
システム業界
SIerやソフトウェアハウスでは人員削減・採用凍結などが続いていたが、新年度の採用計画策定とともにエンジニア採用を再開している。受注案件の増加により、エンジニア確保が急務になっている企業もある。
ただし、エンジニアとしてのスキル・経験だけでなく、転職回数、学歴、資格の有無なども考慮した厳選採用を行っている企業が多い。現在は「Java/.NET系の求人」や「金融系システム開発の求人」が多く、該当するエンジニアは順調に転職を成功させている。
自社プロダクト系:特定領域でニーズを維持。介護施設向けソフトウェアが好調
ハードウェア業界からの採用ニーズは年明けから微増傾向にあったが、現在はやや下降に向かっている。ハードウェアメーカー各社はいまだに様子見の傾向が強く、携帯電話やカーナビなどの特定分野では採用ニーズがあるものの、全体としては積極的な採用には踏み切っていない。新規の求人は少なく、既存の求人は人員充足に向かっていることから、全体として求人数の減少につながった。
一方、ソフトウェア業界ではおよそ10%の求人数の増加が見られた。ERP・CRMパッケージや、介護施設向けソフトウェア分野が比較的好調だ。
SIer:2次請け・3次請けSIerからニーズ回復の兆し
金融、生損保、銀行システムのエンジニアニーズは変わらず、一定の求人数を維持している。これに加え、通信キャリアや官公庁向けのプロジェクト要員として人材を募集するケースが増えている。
大手電機メーカーからの2次請け・3次請けを扱うSIerからも新たな求人ニーズが発生した。「年齢30歳前後(28〜33歳)/年収450万〜520万円」の人材が転職に成功している事例が多い。
インフラエンジニア:上流工程経験者にニーズが集中。若手には苦境が続く
先月から引き続きニーズは上向いているものの、上流工程の経験者にニーズが集中している。プロジェクトリーダー/マネージャの経験や、ネットワーク(サーバ)の設計・構築経験を必須とする求人が大半を占めるため、保守・運用のみの経験者には厳しい状況が続いている。
ゲーム業界
ソーシャルゲーム関連の求人が、先月から引き続き好調を維持している。コンシューマゲームやモバイルゲームを主軸としていた企業が、ソーシャルアプリへの参入に力を入れるケースが増えている。また、オンラインゲームが勢いを取り戻している一方で、コンシューマゲームでは採用ニーズに大きな変化は見られなかった。
オンラインゲーム:韓国系企業の勢いが回復
オンラインゲーム関連で求人の増加が目立った。一時は日本撤退も目立った韓国系オンラインゲーム企業が積極的な採用を行っている。また、オンラインゲーム企業のWebサイトデザイナーの募集も目立ち始めている。
オンラインゲーム業界は、ゲーム業界での経験がなくとも採用に至る可能性がある。他業界で経験を積みながらゲーム業界を目指す求職者にとっては、比較的狙いやすいポジションといえるだろう。
パチンコ・パチスロ:競争率が低く、業界経験者は転職しやすい
パチンコ・パチスロ関連はニーズが高い一方で、採用に成功した事例はあまり耳にしない。パチンコ・パチスロ分野はほかのコンシューマゲームと比べて希望者が圧倒的に少なく、応募者が集まりにくいのが実情だ。また、パチンコ・パチスロ分野での経験を十分に積んでいる人材の絶対数が少ないため、経験者にとっては転職しやすい市況といえる。
求職者の動向:パブリッシャーから現場志向のクリエイターが流出
大手パブリッシャー企業からの転職者が目立つようになった。大手パブリッシャーでは制作をデベロッパーに依存し、企画のみに力を入れる傾向が強まっている。そのため、現場志向の強いクリエイターが、新たな制作現場を求めて転職活動を行うケースが増えている。
営業・バックオフィス系
営業:求人数は堅調な伸び。地方都市でも求人ニーズが発生
営業職は6カ月連続で増加が続いている。Web業界からの求人が多く、とりわけWeb広告営業職の求人が堅調な伸びを示している。
これまで採用を控えてきたSIerからの営業職募集も見られるようになった。Web制作の受託企業や、ECサイトのコンサルティングを行う企業など、「BtoBtoC事業」を主軸とする企業からのニーズ回復がうかがえた。SEO・SEM関連の営業経験や、顧客折衝能力を求める企業が多い。
また、各社の業績回復に伴い、少ないながらも第二新卒の採用を始める企業が現れた。経験業界や扱ってきた商材を限定せず、ポテンシャル採用を行う傾向が強いため、20代半ばまでの若年層にとっては好機といえる。
東京以外の地方主要都市でも、求人ニーズが回復に向かっている。東京に本社を構える企業が地方の営業拠点での人員拡大を図るだけでなく、地方企業が東京在住のUターン・Iターン層を狙って募集を行うケースが増えている。
経理・財務:IFRSが鍵
バックオフィス系職種では、経理・財務職が安定した求人ニーズを維持している。上場企業では連結決算の経験に加え、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US-GAAP)の経験を求められる傾向にある。2015年のIFRS導入に向けて、経理体制を整えて経理組織の強化を図りたい考えのようだ。
非上場企業でも、親会社が上場している場合、親会社の経理組織変更に伴って、経理職を増員する動きが見られる。本年度より試験的な運用を考えている企業も多く、今後も求人数の増加が予想される。
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