続いて、もう1つの事例を紹介します。
山内さん(仮名)はモバイルコンテンツの制作を得意とする企業でプロジェクトマネージャを務める34歳のITエンジニアです。4年前に中途で入社し、開発工数の見積もりからプロジェクト全体の予算管理、クライアントへの新規提案業務など、幅広い業務で活躍していました。
会社の中枢を担う重要なポジションであり、現在の業務内容には非常に満足していたのですが、好奇心も旺盛なのが山内さんの性格です。そろそろモバイルの案件にとどまらず、PCサイトの開発にも携わりたいと考えて、私の所属する人材紹介会社に相談に来たのです。
山内さんの転職には、もう1つ大事な目的がありました。間近に結婚を控えているので、将来のことも考えて給与をアップさせたいという点です。現職は設立して間もない企業であるためか、給与の大幅なアップは望めないとのことでした。
山内さんの強みはモバイルアプリケーションの開発です。私は、BtoCサービスを展開している会社の中から、モバイルサイトとPCサイトの両方を運営しているところを複数社提案しました。山内さんのさらに詳細な希望をヒアリングし、その中から4社をピックアップして応募することになりました。
後日、企業から書類選考の結果連絡がありました。それまでのプロジェクトマネージャ経験が高く評価され、いずれも書類選考は通過。4社とも面接を受けることになりました。
そのうちの1社であるG社の1次面接終了後、山内さんから連絡がありました。G社はBtoCのポータルサイトの企画から開発、運営までを行っている会社ですが、山内さんは面接を受けた結果、いままで自分が現場で培ってきた技術に関する考え方とは大きく異なる方針らしいと感じたとのことです。また、短納期で新しいサービスの提案から開発まで行わなくてはならないという雰囲気も感じ取り、仕事のスタイルも合わないという感想を持ったとのことでした。
山内さんはG社について、現職と比較しても転職するメリットは少ないので、次の選考に進もうとは思っていないと話しました。しかし、他社の選考もまだ進んでいない状態です。私は山内さんを説得し、G社も選択肢の1つとして活動を進めてもらうことにしました。
その後、山内さんはG社の最終面接を無事に終え、内定を得ることができました。そして内定通知書を見て、非常に驚きました。G社の提示した年収が、希望していたものをはるかに上回っていたからです。
G社は山内さんを、モバイルサイト開発の新規立ち上げプロジェクトのマネージャとして抜てきしたいと考えていたようです。山内さんの今回の転職活動は給与面も大事なファクターです。本人も自分の新たな可能性を発見し、大変喜んでいました。
G社のオファーで自信を深めた山内さんは、最終的にはG社を入れて3社から内定を獲得しました。残りの2社は給与面ではG社にやや劣っていたのですが、山内さんは任される業務や会社の経営方針を含めた諸条件を勘案し、そのうちの1社に入社することを決めました。
結果的にはG社に入社することはありませんでしたが、山内さんは任される業務によっては自分の年収が大幅に上がることを認識し、複数の企業の中から転職先を選ぶことができました。山内さんにとって、G社の内定を得たことは決して無意味ではなかったと思います。
以上、選考を途中で辞退しようと考えた2人の事例を紹介しました。
もし鈴木さんがX社の圧迫面接のため、そのまま選考を辞退していたら、圧迫面接の真の意図にも気付かないままだったでしょうし、その後の転職もありませんでした。また山内さんがG社の選考を辞退していたら、自分の市場価値についての新しい発見はなかったでしょう。転職先を決める判断材料も乏しくなっていたのは確かです。
面接はあくまでも選考の一段階なので、最後まで進んでみなくては分からない部分が多々あります。途中で辞退してしまうことで、せっかくのチャンスを自ら逃してしまっている可能性もあるのです。
より良い転職先を見つけるため、面接へは可能な限り足を運ぶことをお勧めします。
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
大田耕平
神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコでは主にIT業界のエンジニアを中心に幅広く担当。Webや紙媒体では伝わりにくい部分をITエンジニア視点で求職者に伝えられるように心掛けている。
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