転職時に重視すべきは「仕事」か「会社」か転職活動、本当にあったこんなこと(30)(2/2 ページ)

» 2009年12月09日 00時00分 公開
[山口孝之アデコ]
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会社で転職した人

 次は、仕事内容よりも、どういう会社なのかに着目して転職した木村さん(仮名)の事例です。

 木村さんが転職したのは3年前、29歳のときのことでした。それまで在籍していたのは中堅のSIerで、大学卒業から7年が経過していました。ITスキルはもとより、コミュニケーションスキルの面でも上司から信頼されていた木村さんは、小さなプロジェクトではプロジェクトマネージャを任されるまでになっていました。そんな木村さんですが、より大きな企業でキャリアアップしたいと考え、現職の大手企業のシステム子会社に転職したそうです。

 現職は親会社に売上高1兆円を超す製造系企業を持ち、親会社向けの情報システムの企画設計から運用管理まで請け負う、いわゆるユーザー系IT企業でした。会社自体は情報システムを分社化しているので、前職と従業員数という点では同程度でしたが、給料や福利厚生面などが断然にランクアップしたとのことです。

 木村さんは前職での会計システムの構築経験から、基幹システムの運用チームに会計システム担当で参画し、いままでとは比べものにならないほど大規模なプロジェクトの上流工程を経験しました。

 そんな木村さんの話を聞いていて、筆者は「なぜ転職を希望するのだろう?」と疑問を持ちました。

筆者 「素晴らしいキャリアアップだと思うのですが、転職を考えているのですよね。何かご不満でもあるのですか?」

木村さん 「いまやっている仕事は、自分のやりたい仕事ではないのです。システムを構築するというより、既存のシステムのお守りでしかないというか……」

筆者 「運用業務が気に入らない、ということでしょうか?」

木村さん 「簡単にいえばそうです。前の会社はSIerでしたから、顧客の情報システムの構築に常にかかわっていられました。もちろん、運用業務をアウトソーシングとして請ける事業もありましたけど、それは別部門が担当していました」

筆者 「いまの会社では、開発にかかわる機会はなかなか持てそうもないのですか?」

木村さん 「SIerと、うちのような会社では目的が違いますから。SIerはユーザーからの発注を請けてシステムを構築するのが仕事。でもうちは、親会社を中心とするグループ会社の事業推進をIT面で支援するのが目的です。システムを構築するのではなく、うまく運用して業務部門を支援していかなければならないので、システムのライフサイクルを考えても、なかなか新規導入のプロジェクトは回ってこないんですよ」

筆者 「分かりました。では、どのような会社がいいのか、一緒に考えていきましょう」

就職なのか、就社なのか

 仕事の内容で転職した山田さんと、会社の属性で転職した木村さん。2人とも、数年たって、また転職活動をする羽目になってしまいました。何が良くなかったのでしょう?

 皆さんは「就職」と「就社」の違いをご存じですか? 文字どおり、仕事に就くのと、会社に入社する、の違いです。山田さんがした転職は「就職」、木村さんがした転職は「就社」。キャリア上の課題が発生したとき、山田さんは就職して解決しようと考えました。そして、木村さんは就社して解決しようと考えたのです。

 しかし、残念ながら、そのどちらもうまくいきませんでした。もし、2人が逆の行動を取っていたら、失敗しなかったかもしれません。山田さんが「就社」して、木村さんが「就職」していれば、という意味です。

 山田さんは、もっと顧客に近い立ち位置で仕事がしたいと考えていました。フリーになることは、その解決方法として最適ではありませんでした。短期的に見れば解決したかのように思えるものの、個人請負では任される仕事が限定されてしまう傾向にあるためです。ユーザー企業の情報システム部門でも、顧客と接点が豊富にある場所に常駐すれば、確かに顧客との接点は増えるでしょう。しかし、山田さんが希望していたのは、そういうことなのでしょうか?

 山田さんが希望していたのは、顧客と接点を持つ立ち位置で上流工程を担い、キャリアアップを図りたい、ということだったのではないでしょうか。それであれば、社内SEに転職したり、より上位のSIerを目指した方が、長い目で見て賢明だったように思えます。

 一方、木村さんはどうでしょう。木村さんが現在抱えている課題は、「運用中心の仕事」が自分の志向に合わない、ということです。3年前の転職時、木村さんは「仕事に対する自分の価値観」を考えないで転職してしまったのです。IT企業で若手ながらバリバリ働いていた木村さんは、次から次へと顧客の要望する情報システムを構築することにやりがいを感じていました。しかし、現職ではかつて感じていたやりがいを感じることはできません。なぜなら、仕事内容が違うから。

 仕事の内容と会社の属性情報、どちらも大事なのはいうまでもありません。しかし、転職するときには注意してほしいことがあります。なぜ自分は転職するのかを突き詰め、「就職」と「就社」のどちらを重視すべきかを考える、ということです。

著者紹介

アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント

山口孝之

千葉県出身。大学卒業後、建設会社にて人事、経理などの管理業務を経験。その後ITエンジニアに特化したスカウト型の人材紹介会社に転職し、キャリアアドバイザー業に従事する。その後アデコに参画し現在に至る。キャリアアドバイザーとしては一貫してIT業界、インターネット業界を担当。ギャップのない転職を支援するための情報収集能力、転職者側と採用企業側の両方の目線で行うカウンセリングには定評があるという。



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