退職を引き止められたときの「落とし穴」にご注意転職活動、本当にあったこんなこと(31)(2/2 ページ)

» 2010年01月15日 00時00分 公開
[田島康博アデコ]
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揺るがない決意

 山田さんは、ITコンサルティングから詳細設計まで一貫して行っている企業の内定を得ました。入社当初のポジションは、現在とあまり変わらない業務のメンバーでスタート。しかし、この企業で実績を積めば、いずれは上流工程を担当できるため、山田さんの希望にかなったものでした。

 山田さんは内定をもらい、早速、現職の上司に退職の意向を伝えました。上司は最初のうちは話をはぐらかしていましたが、山田さんの真剣な気持ちを知ると、今度は上司から何度も話し合いの席を設けられ、引き止められました。

 そのたびに山田さんは将来のキャリアパスへの思いを伝え、気持ちが変わらないことを繰り返し上司に伝えました。その結果、なんとか了承してもらえました。

 新しい企業では、前職と同様の業務を行っている期間にしっかりと業務知識を学び、半年後からは少しずつ希望している業務に携わることができるようになりました。今ではサブリーダーとしてプロジェクトに携わり、顧客へのコンサルティング業務を担当できるように努力しているそうです。

3つの落とし穴

 田中さんと山田さんは2人とも、同じような経験や希望を持ち、内定をもらいましたが、それぞれの出した結論に田中さんだけが後悔をしています。

 なぜ、このような結果になったのでしょうか?

 筆者は、最終的に現職に留まる結論を出したこと自体が一番の要因であったとは思いません。むしろ、現職に留まることで成功となる場合もあると考えています。


 それでは、どこに失敗へとつながる落とし穴があったのでしょうか。筆者の考える答えは次の通りです。

  1. 自分が希望するキャリアパスと現職で築けるキャリアパスとのギャップ
  2. 不確定要素に対する過度な期待
  3. 退職活動途中での中途半端な人情と行動

1. 自分が希望するキャリアパスと現職で築けるキャリアパスとのギャップ

 田中さんは、転職活動の途中までは、希望するキャリアパスと現職で築けるキャリアパスとのギャップについて認識していました。現職では望んでいるキャリアパスがなかったからこそ、転職活動を始めたのです。

 しかし、田中さんの決意を揺るがすポイントが、上司からの次の言葉でした。

2. 不確定要素に対する過度な期待

 「今後、直請けの仕事も少しは入ってくるだろうし」

 田中さんは上司のこの言葉にこだわっていました。ただし、上司が田中さんにどのように話したのかを筆者が知ったのは、田中さんが2度目の転職活動を始めたときでした。当初、田中さんが筆者に伝えたのは、

 「直請けの仕事に携われる」

という言葉でした。

 上司の言葉には確固たる根拠がなく、企業の今後の方針に対する希望でしかなかったのです。根拠が不明だったにもかかわらず、過度な期待によって、田中さんの頭の中ではあたかも断定的であるかのような表現にすり替わってしまったのです。

 次の言葉にも考慮するべき点があります。

 「査定を上げるつもりだ」

 その査定で上がる給料はいくらなのでしょうか?

 その値段は当初の希望に対して余りある額でしょうか?

 田中さんの場合は一時的な査定での給与アップだったため、その後の給与に結びつくことはありませんでした。

3. 退職活動途中での中途半端な人情と行動

 最も危険なのが、退職活動中での中途半端な人情と行動です。

 誰しも、会社ではさまざまな人間関係を築いています。退職時には現職の上司や同僚との別れが伴うため、気持ちが揺らぐことは少なくありません。

 田中さんの場合は、上司から受けた次の言葉がきっかけでした。

 「君にはとても期待していたんだ。とてもよくやってくれているから」

 この言葉を聞いて、田中さんの心に、上司の気持ちに応えたいという思いが芽生えたようです。しかし、その後のキャリアに対する上司との意思疎通は十分とはいえませんでした。

 田中さんは、もしかしたら本当に期待されていたのかもしれません。しかし、上司に退職の気持ちを打ち明けた後、現職での結果は良い方向には向かいませんでした。部署異動した先の上司に田中さんが退職しようとしていたことが伝わり、周囲から田中さんへの不信感が生まれ、重要なプロジェクトを任せてもらえなくなってしまったのです。

 今回の田中さんの場合は、伝えてしまった当時の上司にも責任があります。しかし、このようなケースは少なくはありません。もし、田中さんが退職の意向を取り下げたあと、上司との信頼関係をもっとしっかりと築いていたとしたら、少しは違った結果になったかもしれません。退職を途中で取りやめた場合、人間関係上のリスクは大きいと考えて間違いありません。

似た境遇の成功事例を参考に

 今回は、退職にまつわる、同じような経験と希望を持つ2人の事例を紹介しました。

 転職活動で岐路に立っている人たちは、どのようなポイントでどんな選択すればいいか、それぞれにどのようなリスクと結果が待っているか分からないまま、立ち止まってしまいがちです。

 田中さんが再度、転職活動にチャレンジしたのは、筆者が山田さんの話をお伝えしたことがきっかけでした。よく似た境遇の成功事例を聞いたことで、自身の行動の指針を得ることができたのです。皆さんも、自分とよく似た境遇の事例を参考に、後悔のない決断を心掛けましょう。

著者紹介

アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント

田島康博

1977年生まれ、神奈川県出身。大学院卒業後、大手総合電気メーカーで設計・開発を経験。アデコ入社後はIT・エレクトロニクス業界を中心にキャリアコンサルティングを担当。自身の経験から、転職に関する不安の相談や、求職者の経験を生かした新たな可能性の発見など、エンジニア視点での誠実な対応をモットーに転職支援を行っている。転職支援した人と一緒にサッカーやスノーボードなどに興じることもある。


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